かさじぞう、プランB
六体の地蔵たちは建物の外で困惑していた。
笠をもらった恩返しに来てみたのだが、あのじーさん、まさかテロリストだったなんて・・・・・・。
建物の中では大勢の仲間たちに対して、「決起の日は近い!」とか「我々は必ず勝利する!」とか演説している。
その様子を窓の外からこっそり見ながら、地蔵たちはひそひそ声で話し合った。
「あのじーさんにお金をあげたら、速攻で武器に変えそう」
「だな」
なので、恩返しは中止だ。
これは仕方がないだろう。テロリストにお金をあげたとなると、世間の地蔵に対するイメージが悪化する。
そのお金を武器に変えて、罪もない人々を傷つけるとか、そんなことになっては困るのだ。このテロ組織、かなりの過激派みたいだし。
「もらった笠は、ここに置いていくぞ」
五体の地蔵たちはそれぞれかぶっていた笠を、地面の上に重ねていく。最後の一体が、その上に手ぬぐいをのせた。
「で、このお金についてはどうする? じーさんにあげないのは決定として」
「む、待て」
地蔵の一体が気づいた。遠くでパトカーのサイレンが鳴っている。
音の感じからして、十数台のパトカーがいるらしい。こちらへと近づいてきている。
先ほど現金輸送車を襲ったので、警察が出動してきたか。
予想していたよりも早い。最近の警察はかなり優秀なようだ。
「こうなったら、別プランでいく。あとは警察に任せよう」
ここまで運んできた大量の札束を地面の上に放置して、地蔵たちは急いで立ち去る。いつもなら一緒に置いていく、『ほとぼりがさめてから使うように』というメモは、今回はなしだ。
自分たちには指紋もDNAもないので、置いていった笠や手ぬぐい、札束から足がつくことは絶対にない。笠や手ぬぐいについているとしたら、じーさんの指紋だ。
また、現金輸送車を襲う時にも、きちんと覆面をしていたので、顔は見られていないはず。
このような対策は、地蔵たちにとって当たり前だ。何百年間、恩返しをしてきたと思っている。
こういうことは、今回が初めてではないのだ。