1 門番YABeee!!
転生したら門番だった。
いつもの朝。
いつもの通学路。
自転車に乗って、のんべんだらりんと走っていた俺は、気が付いたらトラックとランデブーしていた。
全身に感じる衝撃、悲鳴やら何やらがゆっくりと遠ざかって行く。
中空に高く放り出された感覚に包まれて、「俺」という意識がお湯に溶かされた砂糖みたいに溶けていくのを感じる。
ゆるゆると消えていく意識の片隅でぼそっと呟く「何か」の声がした。
「あ。やっべwww」
「おいぃぃぃ!草生やしてんじゃねぇぇぇ!!」
ハッと意識が戻る。
俺は「え」の口の形のままで、ポカンと固まった。
俺の前に立つ、行商のおっさんもポカンとしている。
豊かな太鼓腹のおっさんは不安そうに「あの、門番さん?何か手形に不備でも?」
門番さん?手形?
俺は自分の手元を見降ろす。
左手に握っているのは、文字がゴチャゴチャと書かれて、何かの印がある粗悪な紙だ。
その紙を見た途端に、俺の中でパチリ!とスイッチが入った。
勝手に口が開き、俺の物とは違う爽やかだが、どこか平坦な声が飛び出してきた。
「トイナーの街へようこそ!!今日の気分はドジッ子だよ!」
何それぇぇぇ!!
内心の絶叫をヨソに、俺はにっこりと笑いながら手形をおっさんに返す。
「ほぉ。今日の勇者様はドジッ子か。行き合いたいものだが、勇者様は当分初心者のエリアから出ないみたいだしな~」
情報ありがとよ!と、気さくに手を振って、おっさんは去っていた。
いやいやいや。やだ何コレ、何なのコレ。
俺は激しくうろたえて、キョロキョロと周囲を見回した。
背後には石造りの立派な門がある。
門の向こうには市が立っているらしく、種々雑多な露店が立ち並んでいる。
行き交う人々の服装は、まさしく中世ヨーロッパの服装。RPGに出て来る定番の恰好だ。
・・・マジで?え?これっていわゆる?
信じられない思いで前を向く。
目の前には街路樹が等間隔に植わった街道が一筋、彼方まで続いている。
街道の両脇に広がるのは、のどかな田園風景だ。
チチと飛んで行く小鳥に混じって、遠くの空から微かに「アンギャオース!」という感じの咆哮が聞こえる。
て、転生したの、俺?
冷や汗がタラリとこめかみを伝う。
恐る恐る自分の体を見降ろしてみる。
手には鉄の槍。体には王家の紋章が入った鉄の鎧。
装備はそこそこ立派だが、両方とも随分と使いこまれている。
支給品だろうし、もしかしたら誰かが使っていた中古品なのかもしれない。
それでも俺の今の体には不思議としっくり馴染んでいる感覚があった。
そうかぁ。俺、門番に転生したのか・・・
何か「やっべwww」って草生やされていた気がするけど。
まぁ、正面衝突した記憶があるし、何の超人でもない一般高校生だった俺がトラックに競り勝つ訳もねぇし。
俺の短い人生はあそこで終わったのだろう。
それにしても。
さっきの強制的に喋る感覚からすると、どうやらこの世界はゲームの中っぽい気がする。
俺のセリフ、「トイナーの街へようこそ!」の「トイナー」の名にも聞き覚えがある。
ただ、なんのゲームだったのかがイマイチ思い出せない。
再び、周囲をキョロキョロと見回す。ヒントになる物が何かないかな、と思ったからだ。
そんな俺に、右側から「うぉっほん」と咳払いがかかった。
門番だから、当然反対側にもう1人いるか。
どんな奴か見てやろう。
クルッと右を向いてみる。
反対側にいたのは、口髭をたくわえた、ナイスミドルな中年男性だった。
おっさんというよりは「おじさま」と言う方がふさわしい雰囲気がある。
目が合うと、おっさんは親しげな笑みを浮かべて言った。
「この街に来たなら、一度はバギムーチョスを食ってきな!」
バギムーチョス…、…って何ぃぃぃ?!