闇オークションのユニフォーム
ここは闇オークションの会場だ。
表のオークションでは扱うことのできない品物、または扱いづらい品物は、こちらのオークションに回される。
会場は小さな劇場で、その内装は非常に豪華だ。
客席には、お洒落な仮面をつけた男女が五〇人以上いる。彼らが今夜のお客さまだ。
ある品物がステージ上に運ばれてくると、客席の雰囲気が変わった。
高校野球のユニフォームだ。二着あって、それぞれ違う高校のものだ。
その由来を、オークショニアが説明する。
かつて、高校野球の全国大会において、のちのちまで語り継がれるような名勝負があった。
この二着のユニフォームは、その試合で実際に着用されたものだ。どちらも背番号は「1」で、投手のユニフォーム。
ここで二人の男性が、ステージ袖から現れる。
彼らこそ、このユニフォームを着ていた本人だ。今回の出品者である。
二人の登場に、客席からは拍手が起こった。これほどの思い出の品をオークションに出品した、そのことに対して敬意を表す。
あの試合から数十年が経っているとはいえ、高校野球のユニフォームをオークションで売り買いするのは、色々と物議を醸しかねない。
だから、闇オークションで扱うのだ。こっそり売買する。ここにいる全員が、この秘密を守ることを誓っていた。
オークショニアの合図で、競りが始まる。ユニフォーム二着のセット。
序盤から熱戦となり、ぐんぐんと金額がつり上がっていく。
最終的には、予想よりもはるかに高い金額で落札された。
直後に、ステージ上で二人の男性が深々とお辞儀をする。客席からは万雷の拍手だ。通常のオークションでは起きない、それほど熱い拍手。
こうなったのには、理由がある。
二人の片方、その地元で先日、大きな地震が発生したのだ。
かなりの被害を受けた街の姿を目にして、何かできないかと思い、かつての好敵手(今は親友)に相談した。
その結果、闇オークションへの出品を思いついたのだとか。
今回の落札金額は、地元の復興支援に使う。匿名で寄付するそうだ。あの日の思い出の品を、地元の復興支援に。
こうした二人の決断に、客席からは拍手がなりやまなかった。
次回は「クロスワードパズル」のお話です。