つるつるポイント
隣町のお寺に面白そうなものがあると聞いたので、ちょっと取材に行ってきました。
案内役の若いお坊さんが説明してくれます。
「こちらの仏さまをなでると、ご利益があると言われています」
なんでも、自分の身体の悪い部分と同じ部分をなでると、その部分が良くなる、そんな言い伝えがあるのだとか。
この仏像、これまでに多くの人たちがなでていったみたいで、「つるつる」になっています。
といっても、全身が均等に「つるつる」なわけではないです。かなりの偏りがあります。
そんな中でも特に「頭」。見事なまでに「つるつる」です。
ただし、側頭部は全然「つるつる」じゃありません。頭の上ばかりをみなさん、なでていったみたい。
そういうわけで、私もなでなで。頭をなでなで。
ついでに、他の部分もなでなで。もしも言い伝えが本当だった時、後悔しないように、ここは欲張っておきます。
「面白いものがあると聞いたのですが、この仏像がそれでしょうか?」
私が尋ねると、若いお坊さんは小さく笑って、
「たぶん、この先にあるもののことでしょう」
少し歩くと、そこには金属製の模型が置いてありました。
野球場を小さくした模型です。これは地元球団の本拠地球場ですね。
球場内の各ポジションには、プロ野球選手の人形が一体ずつ立っていました。この人形も金属製です。
「なるほど。これも同じ感じですね」
「そのような言い伝えはないのですが、なでていかれる方が結構いらっしゃいます」
「わかります」
すべての人形が均等に「つるつる」なわけではなく、かなりの偏りがありました。「悪い部分をなでると、その部分が良くなる」と思って、なでていく人たちがいるみたいです。
チーム内に占める人数の多い「投手」がターゲットになるのは、ある程度仕方がないとしても、それ以外にも「つるつる」になっているポジションが・・・・・・。
「ここ数年、このポジションが固定できていないんですよね」
私が言うと、若いお坊さんもうなずきます。
そういうわけで、私もなでなで。このポジションに良い選手が出てきますように。
それが終わると、うしろの方から集団がやって来ました。
全員が地元球団のレプリカユニフォームを着ています。しかも、同じ背番号のようです。さらに、全員が同じ髪型をしています。
その集団が仏像の前に行列をつくるのを見て、私はピンときました。
――悪い部分をなでると、その部分が良くなる。
「ああいう方々も多いんですか?」
「多いというほどではありませんが、たまにいらっしゃいます」
あの背番号の選手は、先日の試合で大ケガをしました。
その早期回復を願い、選手の代わりにファンがああして、選手とよく似た姿になって、仏像をなでに来ているのでしょう。一人では無理でも、大勢でなでれば、何かご利益があるかもしれません。
この日の取材は、なかなか有意義なものになりました。
次回は『球団復活?』というお話です。