この野球場、ファラオのお気に召すままに
この世界は広い。個性的な野球場が数多く存在する。
たとえば、駅の中にある野球場や、海の上にある野球場だ。
他にも、外野スタンドに自然の滝が流れている野球場だったり、巨大な天体望遠鏡の付いたドーム球場なんかも。
「いつか機会があったら、そういう野球場に行ってみたい♪」
そんな野球ファンは少なくないのだ。
そして今、エジプトに個性的な野球場が誕生した。
なんと、レフトスタンドの奥に「ピラミッド」が鎮座しているのだ。複製品などではなく、大昔からそこに建っていた「本物」である。
なお、このピラミッドはまだ、内部の調査が半分ほどしか終わっていない。盗掘防止の仕掛けが複雑すぎて、なかなか奥に進むことができないのだ。
ファラオの玄室はおそらく無事なので、世紀の大発見が期待されている。
こうして誕生した、ピラミッド付きの野球場。
さっそく国際試合を立て続けに行った。
そのすべてで、エジプト代表が勝利する。格上にも勝った。なぜか試合中に、相手チームにばかりアンラッキーなことが起こるのだ。
各国の代表チームは噂し合う。これは『ファラオの祟り』じゃないのか、と。
こうなると、この野球場で「どこが最初に、エジプト代表に勝利するのか」に注目が集まる。対戦の申し込みが殺到した。一番乗りを目指すチームが次々と、この野球場にやって来る。
ほどなくして、最初の勝利チームが出た。
本来の実力では、たぶんエジプト代表の方が上だろう。それでも勝った。『ファラオのご加護』のおかげである。
そのチームは事前に考えた。どうにかして、ファラオをこちらの味方につけることができないだろうか? あの『ファラオの祟り』が自分たちではなく、エジプト代表の方に向けば、きっと試合に勝てるはず!
それで色々と考えた結果、古代エジプトの衣装をまとった若いモデルたちを、この野球場に連れて来た。彼らは試合前に、ファラオを讃えるダンスを披露したのである。
これが当たった。どうやら、ファラオのお気に召したらしい。味方は幸運、相手は不運が連発した。
この勝利に世界中が驚く。
対策はわかった。試合前にファラオを讃えるのだ。エジプト代表に敗れたチームが次々と、この野球場での再戦を申し込んでくる。
当然ながら、エジプト代表も対策する。こっちは本場だ。ファラオを讃えるダンスなら、絶対に負けない! というか、負けるわけにはいかない! エジプト五千年の歴史をなめるなよ!
こうして、この野球場では試合前に行われる。両チームによる、ファラオに捧げるパフォーマンス合戦だ。
古代エジプト風にこだわっていては、どうしてもエジプト代表が有利。
そこで各チームはあえて、それにこだわらない方針をとった。ファラオだって新しいものが見たいはず。
試合を重ねることで、各国ともデータを蓄積していく。どうやら最近のファラオは、デスメタル系がお気に入りらしい。そんな分析結果が、パフォーマンスに反映される。
だが逆に、こう考えるチームも出てきた。『ファラオのご加護』があって勝つのは当たり前。『ファラオの祟り』がある状態で勝ってこそ、本当の価値があるのでは?
その考えに賛同するチームが、世界中からやって来る。試合前にファラオを盛大に罵倒。さらに、ピラミッドを模したお菓子をナイフで真っ二つに切る、そんなパフォーマンスをチームのメンバー全員で行った。
が、結果は甘くない。連敗の山を築くことになってしまった。
しかし、挑戦は続く。手を替え品を替え、ファラオを挑発しては、試合を戦った。
はたして、この野球場で『ファラオの祟り』を受けたまま、試合に勝利するチームは現れるのか?
今日の試合も、ファラオを罵倒した方は劣勢だ。圧倒的な点差をつけられている。ここからの逆転は難しいだろう。
だったら、せめて一矢を報いるまで。ホームランのボールを、あのピラミッドにぶつけてやる!
チーム全員がバットを全力でふり抜いた結果、ついに快音が響き渡った。
鋭い打球はレフトスタンドを越えて、ピラミッドに命中する!
ところが、その喜びは長くは続かなかった。
なんと、ピラミッドの中からミイラの大群が出てきたのだ!
ものすごい数のミイラたちが、野球場へとなだれ込んでくる。
「ファラオノオウチニ、ボールブツケタ、ユルサナイ!」
これ以降、この野球場でファラオを挑発するチームは激減した。
まだ続くよ。