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第10話 強くなりたい


「ここは……」

 病院でミリアが目を覚ました。


「病院だよ、ミリア、怪我は大丈夫か。採取クエストのあとで、幻術師に襲われて……通りかかった受付係のジークさんに助けてもらったんだよ。傷は、ジークさんの適切な治療のおかげで大丈夫だよ。跡も残らないだろうって」


「幻術師!? 私達、そんな強いモンスターに襲われたの? ブレア、怪我してない。大丈夫だった?」


 自分のことよりも、俺のことを先に心配してくれる彼女に思わず涙がこぼれそうになる。


「ああ、大丈夫だよ。詳しい話は、また落ち着いた時にするよ。今日はゆっくり休んでくれ。ジークさんに、ミリアが目をさましたことだけ報告してくる。すぐに、戻るよ」


「うん、ちゃんとお礼を言っておいてね。私も元気になったら、きちんと挨拶するから……それと」


「うん?」


「できれば早く帰ってきてね。とても心細いの」

 弱々しい声で、ミリアは俺を見つめていた。

 笑顔で返す。


「ああ、もちろんだ」


 ※


「目覚めたのか?」

 ジークさんが病室の前で待っていた。


「はい。本当にありがとうございました。医者もあなたの適切な処置がなければ、どうなっていたかわからないと言っていました」


「役に立ててよかったよ。気にしないでくれ」


「そんなわけにはいきません」


「なら、今度酒でも奢ってくれ」

 わしは、あえて朗らかに笑った。


「あ、あのジークさん!」


「ん?」


「悔しいだろうって。この世界は、理不尽に大事なものを奪ってくる。奪われたくなかったら強くなるしかない。大事な人は守れないって」


 あの時は、思わず出てしまった言葉だ。大陸戦争の英雄と呼ばれた自分も、戦争中に守れなかったものばかりだった。戦友、無辜(むこ)の民、子供たち。そんな悲惨なことを起こさせないために、自分は強くなろうと思った。平和を維持しようと思った。


 だが、今思えば、ブレアには酷いことを言ってしまったとも思う。彼の両親は、彼を守るために、魔物に殺されたらしい。


「俺、やっぱり甘えてた。ミリアと細々生きていくには、今の生活でも十分だったから。でも、俺たちの日常なんて、一歩間違えれば終わりの厳しい世界。甘えすぎていた。そして、甘いことだとはわかっています。でも、頼れる人はジークさんしかいない。だから、言わせてください」


「……」

 次にくる言葉は、よくわかっていた。


「俺に、剣を教えてください。もう、誰も失わないように……自分の大事な人を守る力を、教えてください。あなたにしか頼めないんです」


 若いころの自分を見ているような気分になる。


「わしは、厳しいぞ?」


「はい、わかっています」


「一つだけ条件がある」


「何ですか?」


「わしの素性をあまり詮索しないで欲しい。今日見たことも他言無用で頼む」


「もちろんです」


 こうして、わしは生涯最後になるかもしれない弟子を取ることになった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ギルドマスターの計画的犯行・・・犯罪ですやん(笑)
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