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ヒルダとカミラ

「……もう今日は祈るのやめようかな……」


 溜め息とともに吐き出された私の言葉に、ぐったりした様子のカミラがこちらを向く。


 私とカミラは昨日のエイリアンの血を頑張って掃除した。それはもう、一生懸命に……ヴァルキリー様特製のドレスを汚さないように、と思ってカミラには掃除させないつもりだったが、1人であくせくする私を見かねてカミラは日傘——いつの間にかヴァルキリー様から貰っていたらしい。いいなぁ——をさしながら私を手伝ってくれた。


 けれど、血というものは一度こびりつくとなかなか取れないもので。


 加えてエイリアンがヌルヌルだったせいなのか青い血も異常にベチャベチャしていて……日が落ちて元気になったカミラが私の何倍も活躍してくれたから良かったけど、それでも神殿を綺麗にするのは大変で一晩ずっと掃除をしていた私とカミラは疲労困憊となってダラリと神殿の床と座り込んでいた。


「ねぇ。ヒルダはなんでそんなに聖女として頑張ってるわけ?」


 唐突なカミラの問いに、私は顔を上げる。


「そりゃ、異世界から実際に人を呼ぶのはヴァルキリー様だけどヒルダも神殿を管理したり、祈りを捧げたりして結構大変でしょ? そもそも、なんでわざわざ異世界から人を呼ぶわけ?」


 まぁ、おかげで私はヒルダたちと出会えたからいいけど。少し照れくさそうにそう付け加えたカミラを可愛いと思いつつ、私は答える。


「私は孤児だったところをこの神殿で拾われて、ヴァルキリー様に見守られながら聖女として育ったの。だからこの神殿は私にとってお家で、ヴァルキリー様は家族みたいなもの。だから大切にしたいんだ。それに、魔王フェンリルは異世界から来た勇者じゃないと倒せないと言われてるから。だから私はヴァルキリー様にお祈りして、勇者を呼んでもらうのよ」


 今のところ、ろくでもない奴ばっかり出てきてるけどね。


 そんな愚痴を飲み込んで笑ってみせたら、カミラがちょっと考えるような素振りを見せてから私に尋ねる。


「私が元いたところ……っていうか世界では神様は唯一の存在って言われて私は『神に敵対する者』なんて言われてたけど、この世界にヴァルキリー様以外の神様はいないの?」

「ううん。本当はオーディン様っていう1番偉い神様とか悪い人だけど神のロキ様がいるんだけど、世界を救う勇者を呼び出すのはヴァルキリー様の仕事らしいから。だから私は、ヴァルキリー様にしか会ったことがないんだ」


 とはいえ、それだけでも本来ならとてもありがたいことだ。


 神様は基本的に人の前に姿を現さない。「神」という人間を超越した存在は、人間に干渉することを良しとしないのだ。だから私のような聖女は、特例中の特例。それぐらい、神様は人間から程遠いものなのだ。


「どこの世界も神様ってのは自己中で、ワガママなものなのね」


 私の話を聞き終えたカミラは呆れたようにそう呟く。それを苦笑しながら見つめていたら、いきなり空から声が降ってきた。


「くぉらヒルダーっ! なんで今日は私を呼ばないのですが!」


 ぎょっとして上を見るとヴァルキリー様が飛び出してきて、私とカミラの間に割り込んでくる。


「私の神殿なのに私1人だけ除け者にするなんて酷いではありませんか! ガールズトークをするなら、私も仲間に入れてくださいよ!」


 怒るところ、そこ!?


 私の心の声を押さえつけるように、ヴァルキリー様がぎゃんぎゃんと子どものように駄々をこねる。「やっぱり神様はワガママだわ」なんて呟くカミラをよそに、私はヴァルキリー様をなだめる。


 ……ヴァルキリー様が意外と寂しがり屋だとか、実は犬が苦手ってことはカミラに教えてあげないでおこう。


 ちょっとだけ神様に気を回すことにした私は、カミラが鬱陶しがっていることにも気づかず拗ねているヴァルキリー様を穏やかにたしなめるのだった。

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