ろくでもない勇者
魔王フェンリルを倒した。
それは喜ぶべきことであるが、同時に私の役目が終了したということでもある。
ヴァルキリー様に勇者召喚を願う「聖女・ヒルダ」としての役目、そして本当ならこの世界そのものの代わりに飲み込まれるはずだった「異世界からの勇者・昼田勇子」としての役目。その両方が終わった今、私はこの世界にとって用済みのはずだ。本当なら、自分が元いた世界に戻るべきかもしれない。「昼田勇子」という存在が誕生し、そして生きた世界で人生を送るのが正しいことかもしれない。
けれど、私は――
◇
「――ヒルダがどうするつもりだったのか、実はとっても不安だった。けれど、私が元の世界に戻ったところで人間たちからは迫害されるしお姉ちゃんもお友達のコウモリも、もういないから……けれど、ヒルダが一緒に残ってくれて良かった。また、ヴァルキリー様と3人で暮らす生活を選んでくれて嬉しかった」
神殿に戻り、どっと疲れたようにソファへ座り込むカミラがそう語る。
結局、私は自分がいた世界で「昼田勇子」として生きるのではなくこの世界の「ヒルダ」として生きる方を選んだ。それは元いた世界に対する裏切りであり、決して賞賛されることではないかもしれないが……もともと私とカミラ、それからヴァルキリー様はただ「自分たちの世界を守りたいから」という理由だけで戦った。だから魔王フェンリルを倒した以上、望むのただの平穏。神々に怒られようと、蔑まれようと。私はカミラとヴァルキリー様がいる、この毎日だけが何よりも大切な宝物だった。
「勇者召喚の儀はなくなっても、この神殿自体は残ります。ヒルダとカミラにはこれからも、この神殿を守る聖女として働いてもらいますよ」
「ちょっと、私も聖女扱いなの?」
いつの間にかそこにいたヴァルキリー様の言葉に、カミラががばっとソファから立ち上がる。「嫌なの?」と尋ねればカミラはそれを否定し、もじもじしながら言葉を紡いだ。
「聖女って、私がいた世界だと神に仕える人間たちの中でもすごく名誉な職業だったから私みたいな、吸血鬼がなれるのかって思って……その……ヴァルキリー様とヒルダは、私を聖女として認めてくれるの?」
「もちろんです。これからも2人には私を、戦いの女神ヴァルキリーをこの神殿で崇め称えてもらいますよ」
優しく、穏やかに微笑むヴァルキリー様のその表情は女神そのものだ。私はその美しい顔をじっと見つめながら、元の世界へと戻っていった「勇者」たちのことを思い出す。
カミラとドワーフさんの呼びかけに応じて、集まってくれた勇者たち。みんな、方向は違えどこの世界の神々や魔王フェンリルを相手にあれだけ頑張ったのだ。それなりの対価を得る権利はある……ということで色々なものを手に元の世界へと帰っていった。
例えばセーラーマシンガンズは戦いの最中もきちんと(?)使っていた飛行機能つきのステージライトと新しい衣装、元殺し屋の兵隊さんたちは一時的に相手の戦闘意欲を削ぐことによって無傷で敵の兵士を捕らえられる新兵器。変態さんたちはなんだかよくわからないけどちょっとアレなアイテムを、小人さんや人魚さんたちは人間に見つからないようになる秘密の隠れ蓑を……といった具合でそれぞれ、望むものを手に入れたようだ。中には堕流救世主たちみたいに「友達との絆が最高の財宝だ!」と言う人もいたみたいだが……それはそれで、丸く収まったからいいことなのだろう。
異世界から召喚された勇者たち。彼らは本当に、ろくでもない奴ばっかりだった。けれど実際にこの世界を救ったのは間違いなく彼らであり、その功績は間違いなく「勇者」のそれだったのだ。例え神に何と言われようと、他の人間がいくら翻弄されようと。この世界を救った彼らは確かにみんな、「勇者」だったのだ。
――ろくでもない勇者たちだったけどね。
けれどカミラとヴァルキリー様、それから私自身もそんな勇者たちの1人で……もしこれからまた魔王フェンリルに負けない、恐ろしい敵が現れたとしてもみんなで力を合わせればきっとその困難を乗り越えることができるだろう。
「ありがとう、カミラ。ありがとう、ヴァルキリー様」
そっとそう口にして、私はカミラとヴァルキリー様の方に向かい――新たに聖女となる、カミラの聖女用ワンピースについて話し合うことにするのだった。
END




