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【完結】異世界から勇者を召喚したいのにろくでもない奴ばっかり出てくるせいで世界が全く救われない  作者: ミント


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勇者②

 ヴァルキリー様の言葉に、珍しくロキが笑うのをやめてすっと表情を消す。まるで虫けらを見るような、全ての感情が抜け落ちたようなその顔はロキの美しさを際立たせるが私にはそれが却って恐ろしく……そんなロキの前に立ち塞がるトールが、代わりに口を開く。


「ヴァルキリーの言うことは確かだ。……ロキが昔、霜の巨人の女と過ちを犯しその結果、生まれた怪物がフェンリルだった。奴の凶暴性は目に余り、我々神は総動員して奴をドワーフが作り出した鎖で拘束することに成功した。だがその際、父上……オーディンは自身の最大の武器であるグングニルをフェンリルに飲み込まれ、激しく弱体化した」


「その通りだ。未来が見える私は全てを知っていたが、それでも現状を防ぐことはできなかった。フェンリルの誕生も、グングニルの消失も……この世界に存在する者は、この世界の理を覆すことができぬのだ。それは我々神ですら、例外ではないのだ……」


 トールに続き、苦々しくそう口にするオーディン。私はそんな3柱の神の前で、たった今明かされた事実に困惑することしかできない。


 魔王フェンリル。この世界を破滅させる存在。しかしそれは神の一員であるロキの子どもで、同じ神であっても太刀打ちできない強力な怪物だった。最初から生まれてくることが予想できていたにも関わらず、その運命を変えることが出来ず誕生した恐ろしい存在。あまりの強さにこの世界の住民は、神ですら倒すことができなかったのだ。この世界にいる者には、全てフェンリルを倒すことができない。少なくとも「この世界の」者にとってフェンリルは最強最悪の存在なのだ、


 けれど、だから異世界人である私が選ばれた。元いた世界にも、オーディンの口にする未来にも干渉することのない私。そんな私なら、魔王フェンリルに飲み込まれたところで何か不都合が起こることもない。私は元いた世界でも、こちらの世界でも、どうでもいい存在だから「勇者」として召喚されたのだ。


「……みんな、さっきから俺たち神の秘密をこの勇者の前でベラベラ喋っちゃってるねぇ。昔、神々の宴会で秘密だの黒歴史だのを暴露したのまだ根に持ってんの? ……まぁ、いいや。そういうわけだからさ、昼田勇子。この世界と俺たちのために、魔王フェンリルに飲み込まれてよ。アイツは『世界を飲み込む!』って意思だけで動いてる怪物だけど、とりあえず異世界人のお前を飲んだら満足してくれるから。君だって元の世界でこのまま、ろくでもない人生を送るより今この世界で俺たち神に祝福されながら死んだ方が幸福だろ?」


 だからさ、適当にフェンリルと戦って適当に死んでくれよ。


 会った時と変わらない、醜悪な笑みを美しい顔に貼り付けたロキが私にそう囁く。神なのに悪魔のような、私の全てを支配するようなその口ぶりに私は眩暈を感じ足元がおぼつかなく成る。だけど、そんな私に活を入れるようにヴァルキリー様が声を張り上げる。


「違う、違います! 昼田勇子……この子は普通の人間です! 他の多くの人間と同じように普通に笑い、普通に悲しみ、普通に生きて普通に死ぬべき優しい少女なのです。そんな子がなぜ、私たち神の後始末をしなければならないのですか! どうしてこの子1人が、犠牲にならなければならないのですか! そんなの、あんまりです!」


 ヴァルキリー様の必死の訴えに、トールは思うところがあるのかさっと目を逸らす。ロキはその真剣さがおかしくて堪らないといった様子でゲラゲラ笑い転げているが、オーディンだけは冷静さを保っていた。片方だけの瞳で真っ直ぐ、ヴァルキリー様を見据えたオーディンは言い含めるようにヴァルキリー様と私へ声をかける。


「戦いの女神ともあろうものが、人間の小娘に情が移ったか。なんと愚かな……だが、これも私にはある程度『視えて』いたことだ。嘆かわしいが、仕方あるまい……ヴァルキリー、お前がどうしても納得がいかないと言うのなら――代わりに、他の勇者を呼びだせ」


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