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VS.エクソシスト①


 キィンッ!


 金属と金属がぶつかり合う、嫌な音がする。咄嗟にカミラを抱きかかえるような姿勢をとった私を、守ってくれたのはヴァルキリー様だった。


「異世界の勇者よ、あなたが戦うべき相手はここにはいません。その武器は魔王フェンリルの前で使うもの。ここに、その穂先を向けられるような邪悪な者は存在しません、早く武器をしまい、私たちの話を聞いてください」


 魔法の盾を取り出し、美人さん――もとい、腹井真白の槍を受け止めたヴァルキリー様は冷静に、相手の真意を測るように静かにそう告げる。だがそれに見やる腹井の視線は実に冷ややかなものだ。さっと槍を持ち直し、タッとスキップをするように後ろへ引くと再び槍を構えなおしてこちらに攻撃を加えようとしてくる。突然の事態に動けない私やカミラと違い、ヴァルキリー様は最低限の動きでその矛先を躱すと腹井の槍を手で掴み強引に動きを止めた。けれど腹井はそれに戸惑うことなく、こちらも落ち着いた口調で話す。


「何をおっしゃっているのですか? 私はエクソシストとして悪魔を祓う使命があります。吸血鬼は魔女や人狼などと同じ、悪魔の眷属として代表的な存在です。むしろ、仮にも『神』を名乗るあなたがなぜそんな存在を庇う必要があるのです? 神なら、神に敵対する者を退けるのに力を貸すべきでしょう?」

「カミラは聖女ヒルダと共にこの神殿を守る大事な仲間で、神の敵ではありません。ですから、この槍はしまいなさい」


 そう言ってヴァルキリー様は腹井の槍を握る手に力を込めるが、それより先に腹井はヴァルキリー様の顔に何かを向けた。鮮やかなピンク色の銃口から、吹き出す水。それに一瞬、ヴァルキリー様が怯んだのを見逃さず腹井はこちらから距離を取って、槍を持ち直す。


「でしたら、あなたは紛い物の神です。神の名を騙り人間を堕落させる邪悪な存在の言い伝えは、世界各国に散らばっています。あなたもその一柱でしょう。なら私はそれを、排除するまでです。私は敬虔なる神の使徒であり、悪しきものを祓う使命があるのですから」


 言いながら腹井はポケットから小瓶をいくつか取り出し、それを神殿の床にばら撒く。小瓶は床にぶつかって割れると同時に、中の液体が飛び出してきてその様子を見たカミラが座り込んだまま小さく悲鳴を上げた。


「可愛い吸血鬼さん。あなたの大嫌いな聖水を床に撒きました。これであなたは私の方へ近づくことができませんね。あぁ、逃げようだなんて思わないでくださいよ? 私のこの槍は、レプリカですがあの有名な『ロンギヌスの槍』の欠片が溶かし込んであります。私が信じる、真の神の力が込められた特別な槍……これに刺されればいくら吸血鬼のあなたでも、聖なる力に抗えず消滅してしまうでしょう」


 腹井はそう言い終えると、どこかうっとりしたような表情で自分の槍をなぞる。本来、凶器であるはずのそれが愛しくて堪らないとでも言うかのように……その異様な光景に戦慄していると、ヴァルキリー様が叫んだ。


「槍相手なら、私も負けませんよ! ヒルダはカミラを連れて逃げなさい! 私は誇り高い戦の女神、人間相手に負けることはありません。それに槍を使う者が同業者がいますから、槍を相手に戦うのには慣れています! だからヒルダはカミラを連れて、とにかく逃げるのです!」

「そこのお嬢さん、惑わされてはなりません。邪悪な者は邪悪な言葉しか吐かないのです。あなたは、本当にこの女を神だと思いますか? この者は自分が神であると嘯き、あなたを利用し悪の道へ引きずり込もうとしているのかもしれませんよ?」


 ヴァルキリー様と腹井の両方に話しかけられ、私の思考が咄嗟に止まる。それに呼応するように私の体は硬直し、そのまま動けなくなった。


 確かにヴァルキリー様はあんまり神様っぽくないけれど、一応この世界を守ろうと勇者を召喚してくれている。だけど、それがみんなろくでもない奴ばっかりで世界が全く救われないのは確かだ。ヴァルキリー様と腹井の言う『神』は、違う存在なのだろうか? でも、それならカミラを殺すのは『神』として正しい行動なのか。それが『神』の選択なら、私の信じているヴァルキリー様は何者なのか? ヴァルキリー様は本当に、本物の『神』なのだろうか。


 考え始めると、私の頭がズキズキと痛む。私は、神に仕える『聖女』だ。でもヴァルキリー様が神でないなら、私は一体何なのか? 私はヴァルキリー様を神だと信じ、正しく行動しようとしていたはずだ。でも、ヴァルキリー様が実は神様じゃなかったとしたら? 何か別の目的があって自分を神だと偽り、私を欺いているのだとしたら――


「――違う!」


 ぐるぐると回る私の思考回路を断ち切ったのは、自ら「『神に敵対する者』扱いをされている」と嘆く吸血鬼の少女。苦手なものだらけで、「日が落ちてからじゃないと力が出せない」なんて強がるばかりの泣き虫な吸血鬼、カミラだった。

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