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VS.美人(?)

「ヴァルキリー様ー!勇者召喚してくださーい!お願いしまーす!」

「お願いねー!」


 もはや祈りのポーズをするのも馬鹿らしくなってきた私は神殿の天井を見上げ、そう叫んでみる。カミラに至ってはもはや居酒屋で注文でもしているかのようなノリの声音だ。前回の勇者召喚でヴァルキリー様と喧嘩になったから、もう敬意も何もあったものじゃないのかもしれない。本人が言うには「神に敵対する者」らしいし、私みたいに神に祈りをささげるのがもともと性にあってない、っていうのもあるのかな。


 そんなことを考えていると本来敬われるはずの我らが女神・ヴァルキリー様が抗議するように姿を現す。

「聖女ヒルダと吸血鬼カミラ! なんですかその軽いノリは!」

「そんなこと言われても、毎回同じことばっかり言ってちゃ色々飽きちゃうじゃない? っていうか早く勇者召喚してあげなさいよ。ヒルダもこの世界の人間も、みんな困ってるんでしょ?」


 カミラのストレートな正論を食らったヴァルキリー様は途端に、苦虫を噛み潰したような顔で黙る。曲がりなりにも女神として人々の信仰を集め、世界を守ろうとしているヴァルキリー様だ。いつまで経っても勇者の現れない状況に1番慌てているのは、おそらく彼女だろう。それを思うと、少し可哀想な気もするが……私は同情したくなるのをぐっと堪えて、できるだけ穏やかにヴァルキリー様へと話しかける。


「失礼ながらヴァルキリー様、カミラの言うことは全て事実です。人々はいつ来るやもわからない魔王フェンリルに怯え、僧侶たちにそれを訴えては私やヴァルキリー様に希望を託していきます。もちろん、ヴァルキリー様が常に全力で挑んでいることは百も承知です。ですが、それでも。もう少しだけ、頑張ってほしいのです」


 神であるヴァルキリー様に「頑張れ」なんて、本当ならかなり無礼なことなのだがヴァルキリー様は返す言葉がないのかじっとうつむき、沈痛な面持ちで床を見ている。さすがにちょっと言い過ぎたかな、と謝ろうとするとヴァルキリー様はがばっと顔を上げ「絶対、絶対、絶対! 今日こそは勇者を召喚してみせます! さぁ来い勇者! 召喚サモン!」


 いや、今までそんな掛け声つけて召喚したことなかったよね?


 そんな私の一抹の疑問を吹き飛ばすように、もう何度も見慣れた魔法円の中からその「勇者」が姿を現す。


「……ここは、どこですか?」


 そう尋ねたのは、制服と思しき白い服を身に纏った若い女の人だった。

 すらりと伸びた長い手足に、艶やかな黒髪。雪のように真っ白な肌はどこか物憂げな顔立ちをより一層際立たせている。その姿はカミラやヴァルキリー様といった美女・美少女を見慣れている私でも、はっと息を飲むほど美しいものだった。


 あぁ。今度の人は大丈夫そうだ……!


 見た目の美しさにうっとりと目を奪われながらも私は、頭の冷静な部分で静かにそう考える。

 まず、美しいけどそれ以外はごく普通。ここに来てからの第一声も「ここはどこなのか」という至極全うな質問。そして何より――いきなり自分の主張を口に出すのではなく、まず私たちの話を聞こうとしてくれている。その当たり前のはずの事実が私は思った以上に嬉しく、安堵の笑みを浮かべた私と反対にヴァルキリー様が毅然とした調子で喋りかける。


「異世界から馳せ参じた勇者よ。私はこの世界の戦いを統べる女神・ヴァルキリーでございます。勇者よ、あなたにお願いがございます。我々の世界では魔王フェンリルという恐ろしい怪物が復活し、人類は滅亡の危機に立たされています。よってその魔王フェンリルを倒し、この世界を救っていただきたいのです」

「……要するに魔物退治ということですか?」


 美人さんのその問いかけに、ヴァルキリー様は「その通りです!」とやたら胸を張って答える。いや、威張るようなことでは全くないと思うんですけど……

 心の中で突っ込む私をよそに、女の人は考え込むような素振りを見せる。美人はこういう時に得だ、ただ突っ立っているだけでも絵になる……なんて思っていると私とちょうど目が合った。


「あなたと、そこの隣にいる少女も神でしょうか?」


 穏やかにそう尋ねられ、私は慌てて頭を振る。そういえば、さっきからカミラがなんだか大人しいな……そう思いながら私はドギマギしながら答えた。

「わ、私はこの神殿を管理する聖女・ヒルダです。こっちにいるのは吸血鬼のカミラで、ひょんなことからここに……」


 そうやって私が答え終わる前に――それは起こった。


「吸血鬼」という単語を耳にした瞬間、美人さんが片方の眉をぴくりと上げて胸元に手をやる。どうやら服の中に入りこんだネックレスを取り出したみたいだ、と思うと今度はそれを私たち全員の前に見せつけるかのごとく掲げてみせる。そうすれば、私の隣からカミラの「ぎゃあああああっ!」という悲鳴が聞こえて――カミラがその場に座り込むのを確認すると、美人さんはどこか満足げに微笑んだ。


「やはり、悪なる者の一員ですね。吸血鬼は悪魔の手先である邪悪な者どもの中でも一際、有名ですがこの、司祭の祈りが込められた十字架ロザリオはそれを跳ね除けます。そして、それを祓うのが私の役目。今この場で、神の敵は排除してしまいましょう」


 言うが早いか美人さんは服の裾から何か金属のようなものを取り出す。それは折り畳み式のものらしく、ガシャンガシャンと音を立てるとあっという間に細長い槍の形へと変化した。


「申し遅れました。私の名は、腹井真白。この春、晴れて一人前と認められた新米エクソシストです」


 美人さん――腹井真白は言うが早いか槍を構え、間合いを詰めるとカミラにその矛先を向けた。


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