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桜の咲く季節に  作者: 中島夢姫
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プロローグ

 毎年上着の枚数が減ったり増えたりを繰り返していくこの時期に思うことがある。どうして桜が2度咲くか、そのことに誰も違和感を持つこともなく風景として認めてしまうのか。

 旅立ちの時期に散り、門出の時期にまた満開を迎える。1年に2度咲く桜はこの世界のどこにあるのだろうか、どうやって2度も咲くのだろうか。その答えを聞いたことも、誰かに問うこともなかった。

 そんなあるかわからない桜の木を見てみたいと思いながら中学3年間を過ごした。そのことを証明する厚紙を手に壇上から降り、ふわふわした気持ちで手にしたその証明を副担任に渡し席に戻る。

 希望に満ち溢れた者や友人との別れを惜しむ者、一生に数回のイベントに浮つく者と様々だ。もちろん長時間の式に痺れを切らして上の空の者もいるが、僕はその1人だ。

 「ーーーしたのでこれを証します。令和○年、、、」

 1時間半ぶりに聞く台詞を聞き式がおおよそ半分過ぎた事に気が付いた。

 「卒業生一同、ご起立ください」

 突然の号令に200人近くの生徒が立ち上がり代表生徒の声が体育館に響き渡る。


 「まぁこれで君達も晴れて中学を卒業するわけだが、ほとんどの人にとってはこれまでの人生なんて生涯の1割程度だ。何が言いたいかって言うと人生これからだから今どん底にいる人も諦めずに生きろって事だ」

 「先生もっと人という字はみたいな話ないの?」

 「ちょっとまて、そう言う話もちゃんと用意してある」

 そう言うと少し改まったように担任が口を動かし始める。

 「今から書くことの間違いはどこか答えられるものはいるか?」


 人間は空を飛べない 私は人間だ 故に私は空を飛べない


 唐突に書かれた当たり前のことに生徒たちがキョトンとしていた。そんな中で教室の後方で1人の手が挙がり、まだ咲き始めの桜を窓から眺めていた僕は我に返ったように振り向く。

 手を挙げていたのは半年前に転校してきた瀬川と言う女子だった。普段周りの人間に興味のない僕が何故だかその時の瀬川から目を離すことができなかった。

 「お、瀬川わかるのか?」

 「はい、そもそも人間が空を飛べないと言う前提が間違っているんじゃないでしょうか?」

 「ほぉ、続けてくれ」

 「人間が空を飛べないと言うのは私達の知っている範囲での事実に過ぎないわけで、世界には空を飛べる人間がいるかもしれません。そうなると人は空を飛べないと言う前提が間違っていることになります」

 「正解だ。私がこの問いで伝えたかったのは知っていることだけが全てではなく、常識は常に崩れる可能性を持っていると言うことだ」

 そして担任はこう話をまとめた。

 「まぁつまり常識にとらわれない柔軟性も大事だってことだ」

 それをよそに彼女の出した答えが頭の中で何度も繰り返していた。そして、まるで空を飛ぶ人間を見たことがあるかのように答えた瀬川を着席した後も視界の真ん中に捉えていた。

 その時はまだどうして彼女に目を奪われたのか、どうして彼女の答えが頭に残り続けているのかを理解することが僕にはできなかった。

 


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