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【五巻発売記念SS】皇国騎士団《ジェラール side》

 ────これは皇国騎士団に入団して間もない頃の出来事。

委員長……じゃなくて、ディーナ卿と同じ部隊へ配属された俺は少しだけ不快な気分になっていた。

というのも────


「なあ、あの銀髪の女ってヘイズ侯爵家の人間だろ?何でそんなやつが、ここに居るんだよ?」


「さあ?お貴族様のことだから、多分気まぐれじゃないか?」


「騎士団の仕事は、お遊びじゃないんだどな〜。ったく、子供のお守りは御免だぜ?」


 ────騎士達がディーナ卿の陰口を叩いているから。

彼女がどういう思いでこの職に進んだのか……どれほどの覚悟を持っているのか、何も知らないくせに。

貴族の娘、というだけで差別されるのは腹立たしかった。


 コネなんか使わず、しっかり実力で入団を果たしたのに……。


 ご両親から『試験を受けて合格したなら、騎士になることを認める』と言われたこともあって、ディーナ卿は己の力だけでこの座に着いた。

不正行為や反則などは、一切していない。

毎日頑張ってきた彼女を知っているからこそ、俺は不満を募らせる。

────と、ここで上官が姿を現した。

簡単な自己紹介と騎士団のシステムを話してから、本題に入る彼は木剣を手に取る。


「今日はとりあえず、勝ち抜き形式の模擬戦をやってもらう。相手を知るには、まず剣を交わすことが大事だからな」


 騎士流のコミュニケーションを提示し、上官は『はら、並べ〜』と促す。

なので、一先ず訓練場の端っこに一列になると、彼はディーナ卿を手招きした。

ついでに、彼女を馬鹿にしていた奴の一人も。


「じゃあ、まずはお前らから」


 手に持った木剣を手渡しつつ、上官は二・三歩後ろに下がる。

それに合わせて、ディーナ卿と相手の男性も少し距離を取った。


「では、始め〜」


 本当にサクッと開始の合図を送り、上官はヒラヒラと手を振る。

『さっさとやれ』と示す彼を他所に、ディーナ卿は風となった。


「っ……!?」


 一瞬で目の前に来た彼女を前に、対戦相手は戸惑う。

が、さすがは皇国騎士の端くれとでも言うべきかディーナ卿の斬撃を辛うじて防いだ。


「こんっ……なの!聞いてねぇ……!」


 焦ったように表情を強ばらせる彼は、少し後ろに仰け反る。

恐らく、ディーナ卿の一撃が思ったより重くて受け止め切れなかったのだろう。

『なんつー力だ……!』と目を白黒させる彼の前で、ディーナ卿は直ぐさま剣を持ち直した。

かと思えば、剣の柄部分で思い切り鳩尾を殴る。


「かはっ……!」


 対戦相手は堪らず体勢を崩し、地面に倒れ込んだ。

直ぐには起き上がれそうにない彼の前で、ディーナ卿は口を開く。


「戦闘不能状態の者に追い討ちを掛ける趣味は、ない。出来れば、ここで投降してほしい」


 相手の喉元に剣先を突きつけながら、ディーナ卿は二つの選択肢を与えた。

すると、対戦相手は弾かれたようにコクコクと頷く。

さすがに力量差を痛感して、勝てないと悟ったらしい。


「は〜い、一方の投降の意思を確認。これにて、一試合目終了〜」


 『呆気なかったな〜』と肩を竦め、上官は対戦相手に肩を貸す。

と同時に、ニヤリと笑った。


「見ての通り、ウチの部隊は完全実力主義だ。女だからって舐めていると、今みたいになるぞ。気をつけろ」


「は、はい……」


 蚊の鳴くような声で返事し、対戦相手はディーナ卿に向かって軽く頭を下げる。

試合を見守っていた面々も、バツの悪そうな顔で彼女の方を見た。

すっかりしおらしくなる彼らの前で、ディーナ卿は片手を上げる。

『分かってくれればいい』と示すように。


 正直、甘い気もするッスけど……ディーナ卿がそれでいいなら、別にいいッス。


 『今、仲間と揉めるのは得策じゃないだろうし』と割り切り、俺は一つ息を吐く。

────と、ここで上官がパンパンと手を叩いた。


「さあ、どんどん行くぞ〜。次のやつ、来い」


 その言葉を合図に、俺達は模擬戦へ意識を戻すのだった。

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