表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/69

【三巻発売記念SS】失敗談《グレイソン side》

 ────時は遡り、剣気(オーラ)の練習を始めたばかりの頃。

俺はまだ力の調節が上手く出来ず、剣気(オーラ)の扱いに四苦八苦していた。

両手で木剣を握り、血液の流れに意識を添わせて俺は剣気(オーラ)の発動に踏み切る。

そして、木剣を真剣に変えようと試みるが……またもや失敗した。


 また身体強化に剣気(オーラ)を使ってしまった……。

全く……木剣に剣気(オーラ)を纏わせるのも、一苦労だな。


「出力の問題か?」


 顎に手を当てて考え込む俺は、意味もなく木剣をじっと見つめる。

傍から見れば異様な光景だが、宮殿の裏手を訓練場所として活用しているため、人目を気にする必要がなかった。

極端に人通りの少ないここは、小鳥の囀りさえ聞こえない静けさを孕んでいる。なので、思う存分訓練に集中出来た。


「……いっその事、限界まで剣気(オーラ)を放出するか?」


 『そしたら、何か掴めるかもしれない』と考え、俺は木剣を構える。

神経を研ぎ澄まし、剣気(オーラ)の生成に集中する俺は、大きく深呼吸した。

全身を駆け巡る禍々しい力に意識を向け、手元に集まるよう促す。


「っ……!」


 無理やり剣気(オーラ)を制御しようとしたせいか、血管が何本か切れてしまった。

突然血の巡りが悪くなり、目眩を覚える俺は立っているだけでもやっとの状態に……。

それでも、剣気(オーラ)のコントロールはやめなかった。


「……あともう一踏ん張りだ」


 自分に言い聞かせるようにそう呟く俺は、額に汗を滲ませる。

限界まで生成した剣気(オーラ)は、大半が支配下から外れてしまったものの、以前より多く手元に残った。

これなら、木剣を真剣に変えることくらい余裕だろう。

手元から感じる力の大きさに目を細めつつ、俺は木剣にソレを流した。


 っ……!案の定とでも言うべきか、剣気(オーラ)が零れているな……一滴残らず、注ぎ込むのは無理みたいだ。


 手元を離れ、どこかに消えてしまった剣気(オーラ)に、俺は眉を顰める。

でも、普段より量が多かったおかげで木剣に剣気(オーラ)を纏わせることが出来た。

充分過ぎるほど塗りたくったので、威力はかなり上がっているだろう。切れ味だって、抜群の筈だ。


「よし……せっかくだから、試し斬りをするか」


 『このまま終わるのは勿体ない』と考え、等間隔に植えられた木の一つに向き合う。

剣気(オーラ)を生成し過ぎたせいで体は怠いが、止まった(まと)に一太刀浴びせる程度の余力はあった。

『これが終わったら、部屋で休もう』と思いつつ、俺は木剣を構える。


 そして、思い切り振り被ると、目の前にある木を真っ二つにした────かと思いきや、勢い余って宮殿まで切ってしまった。

木と同じく、真横に切れた宮殿は音を立てて、崩壊していく。

『あっ……』と思った時にはもう遅くて、宮殿の上部は滑り落ちる形で地面に着地した。

呆然と立ち尽くす俺は、『やってしまった……』と肩を落とす。


「いや、反省は後回しだ。今は宮殿に居る者達の避難を……っ!?」


 『宮殿を破壊した者として、被害を最小限に抑えなければ』と決意するものの……俺は地面に倒れ込んでしまった。

剣気(オーラ)の使いすぎにより、貧血を引き起こしたようで、吐き気や目眩が止まらない。

また、体に力が入らず、立ち上がることすら困難だった。


 くっ……!瞼を上げるだけで、精一杯だ……!しかも、さっきから意識が……!


 眠気とはまた違う衝動に襲われ、俺はグニャリと顔を歪める。

何とか意識を保とうと抗う俺は、必死に歯を食いしばった。

でも、現実とは非情なもので────目が回るような感覚と共に、気を失う。


 ────そして、目が覚めたときにはもう全部解決していた。

騒動の尻拭いをしてくれた母曰く、死者は出なかったらしい。

ただ、宮殿の工事と被害者の補填に大金を叩いたそうで……俺に割り当てられた予算は、しばらくカットとなった。

また、剣気(オーラ)の訓練は一人でやらないように、と厳命されている。


 正直、予算カットより、剣気(オーラ)の自主練習禁止の方が堪えるな……。

まあ、悪いのは俺だから、母上の意向に従うが……。

『嫌だ』と駄々を捏ねた日には、何をされるか分からないし……。


 我が子にも容赦ない母の人柄を思い出し、『逆らったら死ぬ』と考える。

ベッドのシーツを強く握り締める俺は、『しばらく大人しくしておこう』と心に決め、療養に励むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ