表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/69

【書籍化記念SS】幼児化

※番外編は書籍の特典SSや巻末SSに入り切らなかったエピソードなどもあるため、盛大なネタバレを含みます。

閲覧の際はご注意くださいm(_ _)m

「────えっ?ナイジェル先生が幼児化……?」


 至る所に炎霊草が置かれた室内で、私は戸惑いを露わにする。

『ついに狂ってしまったのか?』と心配する中────緑髪の美青年はニッコリ微笑んだ。


「実はポーションの研究で、思わぬ副産物を生み出してしまってね────若返り効果のある薬を開発してしまったんだ。それで、ナイジェルに治験を頼んだら、七歳くらいまで若返ってしまって……」


 そう言って、悩ましげに眉を顰めるのは────薬草オタクである、サイラス先生だった。

『効き目抜群だったね』と呑気に語る彼を前に、私は思わず頭を抱える。


 いや、従兄弟に治験を頼んじゃダメでしょう……!まあ、引き受ける方もどうかと思うけど……!


 『そこは断ろうよ……』と落胆しつつ、私はガックリと肩を落とした。

でも、今更文句を言ったところで状況は変わらないため、グッと堪える。


「はぁ……事情は分かりました。それで、ナイジェル先生は今、どこに居るんですか?」


 『まさか、そのまま放置してませんよね?』と問い質す私は、疑いの目を向けた。

『この人なら、やりかねない……』と不安になる中────サイラス先生はチラリと後ろを振り返る。


「ナイジェルなら────僕の後ろに居るよ」


 『ほら』と言って、横に一歩移動したサイラス先生は、後ろに隠れた美少年を差し出した。

サラサラの金髪とガーネットの瞳を持つ美少年は、確かにナイジェル先生に似ている。というか、瓜二つだった。


 七歳の時点で、既にイケメンだわ……じゃなくて!本当に小さくなっていたのね!サイラス先生の言葉を疑っていた訳じゃないけど、やっぱり信じられないわ!


 『夢を見ているような気分だ』と不思議がる私は、金髪の美少年をまじまじと見つめる。

ブカブカのYシャツを着用するミニ・ナイジェル先生は、こちらの視線に気がつくと、きざったらしく微笑んだ。

子供らしからぬ色気を放つ彼に、私は思わず『本当に七歳?』と言いそうになる。でも、既のところで我慢した。


 うん、絶対にナイジェル先生だ。本人で間違いない。


「ところで、記憶はあるんですか?精神面まで幼くなった可能性は……」


「ないよ。本人に色々質問して、軽いテストもやったから、間違いない」


 確信を持った響きで断言するサイラス先生は、真っ直ぐにこちらを見据えた。

自信ありげに振る舞う彼を前に、私は『なるほど』とすんなり納得する。


 研究関連のことで嘘を言うとは思えないし、信用して良さそうね。

それにしても────サイラス先生はどうして、私を呼び出したのかしら?解毒薬の開発に協力して欲しいとか……?でも、薬の調合と開発なんて、ほとんどやった事ないわよ……?私はあくまで植物図鑑の内容を丸暗記しているだけだから。それ以上でもそれ以下でもない。


 『助手にしても大して使えないと思うけど……』と困惑しつつ、私は一人悶々とする。

呼び出された理由を一生懸命、考える中────サイラス先生はミニ・ナイジェル先生の背中を押した。


「ということで、あとはよろしくね。薬の効果は大体一日で切れるから。傍に居てあげて」


「え”っ……?」


「じゃあ、そういうことで」


「ちょっ……!?待っ……!」


 ほぼ一方的に話を打ち切られ、私は慌てて先生を引き止めた。

でも、『待って』と言われて大人しく待つほど、サイラス先生は優しくなく……こちらの制止を振り切って、隣の部屋に籠ってしまう。

カチャリと施錠された扉を前に、私は一人途方に暮れた。


 嘘でしょう……?ナイジェル先生の世話を押し付けるために、わざわざ呼び出したの……?色んな意味で衝撃なのだけど……。


 置いてけぼりにされた私は、ガックリと肩を落とす。

とてつもない絶望感に苛まれながら、私は足元に目を向けた。


 記憶ありとはいえ、小さくなったナイジェル先生を放置することは出来ないわね……さすがに良心が痛むわ。


 炎霊草だらけの室内を見回し、私は『何かあったら大変だ』と思案する。

せっかくの休日を潰すのは不本意だが、このまま放置することも出来なかった。

結局、『仕方ない』と割り切ることにした私はミニ・ナイジェル先生の世話を引き受ける。

後味の悪い展開になることだけは、絶対に避けたかったのだ。


「えっと……とりあえず、服のサイズを調整しましょうか。たった一日の辛抱とはいえ、Yシャツ一枚では動きづらいでしょう」


「ああ、そうだね。よろしく頼むよ」


 素直に厚意を受け入れるミニ・ナイジェル先生に一つ頷き、私はいそいそと魔法陣を構築する。

そして、サイズ調整用の魔法陣を作り上げると、彼の服に展開した。

魔法陣に不備がないか確認してから、魔法を発動する。

すると────大きめのYシャツは瞬く間に小さくなり、ミニ・ナイジェル先生の体にフィットした。と言っても、裾はまだ少し長いようだが……。


 でも、これ以上縮めると、袖の長さが足りなくなるのよね。ナイジェル先生には悪いけど、これで我慢してもらおう。


「ズボンはどこにありますか?同じように縮めるので、場所を教えてください」


 『下もないと不便だろう』と思い、私はキョロキョロと辺りを見回す。

物で溢れ返った室内に四苦八苦する中、ミニ・ナイジェル先生はある場所を指さした。


「あぁ、それなら────そこの棚に置いてあるよ、下着と一緒に(・・・・・・)


「そうですか。分かりまし……えっ?下着?」


 最後の一言に違和感を覚えた私は、ピタリと身動きを止める。

ギギギギギッとぎこちない動作で首を動かし、私はミニ・ナイジェル先生に目を向けた。


 今、下着って言った……?言ったよね……!?確実にそう聞こえたのだけど!?

えっ?もしかして、下着を履いてないの……!?って、履ける訳ないか……!サイズ的に!


 履いているものだと思い込んでいた私は、思わず頭を抱えた。


 緊急事態とはいえ、殿方の下着を見るのはちょっと……でも、棚の中を確認しないと、先生のズボンが……。


 思いもよらない事態に発展し、動揺する私は頭を悩ませた。

『もういっその事、このまま放置しようか』と思い悩む中、私はふと────目を覚ます(・・・・・)

真っ先に目に入ったのは炎霊草だらけの空間でも、ミニ・ナイジェル先生でもなく……自室の天井(・・・・・)だった。


「────夢……?」


 ぼんやりする意識の中、状況を整理する私はゆっくりと体を起こす。

キョロキョロと辺りを見回し、自室だと確信すると────思い切り脱力した。


 はぁ……夢で良かった。本当にナイジェル先生が幼児化したのかと思って、焦ったわ。

現実的に考えれば有り得ない話だけど、サイラス先生の実力なら、実現しそうなんだもの。


「正夢にならないことを祈るわ……」


 『どうか、ただの悪夢で終わってくれ』と願いながら、私は肩の力を抜く。そして、バフッとベッドに倒れ込んだ。


 よし、二度寝しよう。


 悪夢を見たばかりだというのに、全く懲りない私はそっと目を閉じる。

『今度はいい夢が見れますように』と祈りつつ、私は意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ