目まぐるしく変わる日常
────様々な波乱を巻き起こした体育祭が幕を閉じ、早一週間が経過した。
魔法部門で見事優勝を果たした私の周囲は目まぐるしく変化し、今ではすっかり学園の人気者と化している。
二度に渡って私を襲撃したダニエル様の退学処分も決まり、本当の意味で平穏な学園生活を取り戻した。
まあ、お姉様の方は色々と大変みたいだけど……『妹を虐げた姉』というレッテルを貼られた上、副会長の座まで奪われたから。
周囲の風当たりは、やはり強いらしい……。
幸い、嫌がらせはないみたいだけど……暴言と陰口は酷いと聞いた。
『プライドの高いお姉様は耐えられないだろうなぁ……』と、私は遠い目をする。
でも、これは姉の撒いた種なので、どうこうするつもりはなかった。
だからと言って、周囲の行いを助長したり、自ら噂を広めたりするつもりもないが……。
『一切関わらないのが一番よね』と考えながら、私は校舎の屋上で風に当たる。
一人でボーッと空を眺める私は、手すりに寄り掛かった。
「────こんなところに居たのか」
聞き覚えのある声が鼓膜を揺らし、私は反射的に後ろを振り返る。
すると、そこには────案の定、グレイソン殿下の姿があった。
短い黒髪を風に揺らす彼は、迷いのない足取りでこちらへ足を運ぶ。
「えっと……ごきげんよう、グレイソン殿下。もしや、私を探してここまで居らしたんですか?」
「ああ。姉に見事仕返しした勇者に、労いの言葉を掛けてやりたくてな……本当はもっと早く言うつもりだったんだが、シャーロット嬢は休み時間の度に囲まれているから、完全にタイミングを逃してしまった」
『遅くなって悪い』と言いながら、グレイソン殿下は私の隣に並んだ。
と言っても、距離は少し離れているが……。
『恋仲だと勘違いされないために配慮したんだろう』と推測する中、彼はゆっくりと口を開く。
「自分の力で姉との因縁にきちんと決着をつけたこと、誇りに思う。不仲とはいえ、実の姉に牙を剥くのは辛かっただろう。よくやった」
『偉かったな』と褒めてくれるグレイソン殿下を前に、私は僅かに目を剥いた。
何故だろう……?今になって、ようやく────『やり切った』という達成感が生まれた。
他の人に何を言われても、私の心は動かなかったのに……グレイソン殿下は、特別ってことかしら?
『事前に姉のことを打ち明けていたから?』と疑問に思いながら、私はグレイソン殿下に向き合う。そして、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。そう言って頂けて、大変嬉しいです」
心からの感謝を述べる私は、清々しい気分で顔を上げる。
『やっと全部終わった』と解放感に満ち溢れる中、グレイソン殿下はスッと目を細めた。
「俺は本心を言ったまでだ。礼など、必要ない。それより、早く食堂に行くぞ。姉を見返した記念に食事でも奢ってやる」
「えっ?本当ですか……!?」
「ああ、ケーキでもマカロンでも好きなものを頼め」
『俺からのささやかなお祝いだ』と言って、グレイソン殿下は屋上の出入り口に足を向ける。
昼休みの残り時間を気にしているのか、彼はさっさと歩き出した。
慌てて彼の後を追う私は、『また殿下と食事できるのか』と喜ぶ。
だって、グレイソン殿下と一緒に過ごす時間はどれも楽しくて……心地よいから。
────今なら、『レオナルド皇太子殿下の傍に居たい』という姉の気持ちが、少しだけ分かるような気がした。