ミーティング終了
元のタイトル→『餞別』
申し訳ありません。餞別の意味を間違って解釈していました。修正に伴い、タイトルと文章を少し変えました。
(内容は大して変わっていませんので、ご安心ください)
「トラブルに遭遇した際はまず、警告から始めてくれ。いいか?どんなに相手が暴れていても必ず警告をするんだ。いきなり攻撃を加えたとなれば、責任問題に発展しかねない。特にうちは貴族や王族の子供が多いから、色々と面倒なんだ。『投降するチャンスを与えた』という体面を保つ必要がある」
口より先に手が出ることは絶対に許さん!と口を酸っぱくして言い聞かせる委員長に、私達は大きく頷いた。
先に話し合いを試みるというのは至極当然の考えのため、特に反論もない。
ぶっちゃけ、話し合いで解決出来るならそっちの方が良かった。
「もちろん、賊や暗殺者などの外部の敵は別だが、生徒同士のトラブルではそれを徹底してくれ。それから────出来るだけ怪我を負わせないこと。殺しなんて以ての外だ。もし、自分達の手に余ると判断した場合は……」
そこで言葉を区切ると、ディーナ様は突然制服の内側に手を突っ込んだ。
『ハンカチでも取り出すつもりなんだろうか?』と首を傾げる中、彼女はブレザーの内ポケットから────小型の拳銃を取り出す。
赤ちゃんの顔より小さいそれはまるでオモチャのようで、実戦向きの銃とは思えなかった。
ディーナ様の得意武器は剣だと聞いていたけど、拳銃も扱えるのかしら?でも、それにしたって小さ過ぎるような……?あれじゃあ、大して威力や飛距離は出ないと思うけど……。
素人丸出しの知識でそんなことを考えていれば、ディーナ様は手に持つ拳銃をズイッと前に突き出した。
「これは風紀委員にのみ与えられる信号銃だ。銃口を上に向け、引き金を引くと信号弾が打ち上げられるようになっている。人を呼ぶ暇もないほどの窮地に追いやられた時にのみ、これを使ってくれ。直ぐに駆けつける。銃本体と弾については後で渡すから、自分で管理するように」
『下に撃っても意味ないからな』と私達に言い聞かせるディーナ様は一旦拳銃をテーブルの上に置く。
『ヘルプ信号用の銃だったのか』と一人納得していると、ジェラール先輩が黒板に表を書き始めた。
ちょっと線がヨレヨレだが、まあ……表に見えなくもない。
「さて、最後に見回りのペアと当番を決めていく訳だが……時間短縮のため、こちらで決めさせてもらった。まず、見回りのペアについてだが、同じクラスの奴らがペアになるようにした。風紀委員はちょうど各クラス二名ずつ選出するようになっているからな」
ということは、私はグレイソン殿下とペアって訳か。殿下とペアなんて恐れ多いけど、知らない人とペアになるより、マシね。
人見知りという訳ではないけど、初対面の人と合計四時間も一緒に居るなんて辛すぎるわ。絶対に会話が続かないもの。
気まずい雰囲気のまま見回りを終える光景を想像し、身震いする。
『グレイソン殿下とペアで良かった』と安堵しながら、私はチラッと彼の横顔を盗み見た。
いつ見ても綺麗なグレイソン殿下に見惚れていると、私の視線に気づいた黒髪の美青年が『改めてよろしく頼む』と小声で囁く。
吸い込まれそうなほど美しいラピスラズリの瞳を見つめ返しながら、『こちらこそ』と頷いた。
「見回りのローテーションについては黒板に書いてある当番表を確認してくれ。問題なければ、明日からこの表に従って見回りを始めてもらう。また、何らかの事情で見回りに参加出来ない場合はその都度相談してくれ。出来るだけ調整しよう」
表が見えやすいよう、黒板の真横まで下がったディーナ様はコンコンッと黒板の表面を叩く。
ヨレヨレの線と不格好な文字で書かれた当番表を眺めつつ、私は自分の名前を探した。
私達のペアが所属しているのは……第二グループみたいね。となると、初仕事は明後日からか。運悪くトラブルに遭遇しなければ、だけど……。
「特に反対者は居ないようだな。では、これから風紀委員会はこの表に従って見回りを始めていく。今日のミーティングはこれで終了となるが、質問や意見がある者は居るか?」
委員長の問い掛けに私達は顔を見合わせると、フルフルと首を横に振る。
『ありません』と口々に答える私達に、銀髪の美女は満足そうに笑うと、パッと手を振りあげた。
「では、この一年間がお前達にとってより良いものになるよう願いを込めて、贈り物をしてやろう────《ウインドメンター》」
言霊術を使って風魔法を発動したディーナ様は本棚の上にあった大きなダンボールから次々と物を取り出した。
風に乗って宙を漂うそれらは私達の頭上をクルクル回り、やがて下りてくる。
荒々しい風に対して、コントロールは繊細で……ほとんど物音を立てずに私達の前に着地した。
信号銃本体とその弾に、ミーティングの内容をまとめたプリント、それから────委員会バッジ。
フリューゲル学園の委員会バッジは基本的に委員長にのみ与えられるが、生徒会や風紀委員会は例外だった。
仕事柄、自分の立場を直ぐに証明出来るものが必要になるため、委員会バッジを支給されるようになっている。
生徒人気ワースト一位とはいえ、それなりに優遇されていた。
盾のマークが刻まれた委員会バッジを手に取り、じっと見つめる。
風紀委員長のバッジと少しデザインが違うそれを、躊躇いがちに襟に取り付けた。
空のように澄んだ青色のバッジが光に反射して、キラリと光る。
「これでお前達も風紀委員会の一員となった。フリューゲル学園の立派な盾として、頑張ってほしい。お前達の活躍を期待している」
風紀委員長として私達に精一杯のエールを送ったディーナ様はニッコリ微笑むと、『じゃあ、今日はもう解散だ!』と宣言した。