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ミーティング開始

 それから、私とグレイソン殿下は実力テストという名の悪戯に加担させられ、後から来た風紀委員を驚かせまくった。

私達のようにきちんと攻撃に対処出来たのはほんの数名で、ほとんどの生徒がボールと木剣の餌食になっていたと思う。

驚く彼らを可哀想だと思う反面、ちょっと面白いなと思ったのはここだけの話だ。


 そして、現在────なんやかんやありつつも、風紀委員会室に全ての風紀委員が集まり、今まさにミーティングが始まろうとしていた。

学年ごとに固まって席に着く私達は黒板の前に立つ風紀委員長と副委員長に注目を集める。

時計の針がカチコチと音を奏でる中、銀髪の美女が口を開いた。


「では、これより────風紀委員会の一回目のミーティングを始める!」


 声高々にそう宣言したディーナ様はキリッとした表情を浮かべ、横髪を耳にかける。

さっきまで我々を驚かして笑っていた人とは思えないほど、真剣だった。


「まずは風紀委員会の役割について話していこう。皆も知っての通り、我々風紀委員の仕事はトラブルの仲裁と鎮圧だ。中立の立場を保って相手を宥め、時には武力を用いて敵を制圧しないといけない。当然危険が伴うし、怪我をすることだってあるだろう。だが────」


 銀髪の美女はそこでわざと言葉を切ると、ニッと歯を見せて笑った。

貴族令嬢らしからぬ笑顔に誰もが目を剥く中、彼女は両手を腰に当て、胸を張る。

女騎士を目指す変わり者と囁かれるディーナ様は我々の不安を取り除くようにこう言った。


「────お前達には私が居る!このディーナ・ホリー・ヘイズがな!だから、心配することは何も無い!必ず私がお前達を守ってやる!」


 グッと握り締めた拳を胸元に掲げ、彼女は『だから、安心して私についてこい!』と言い放った。

不安なんて微塵も感じさせない琥珀色の瞳は太陽にキラキラ輝いていて……自然と魅入られる。

根拠の無い自信であることは間違いないのに、『この人なら、大丈夫だ』と思ってしまうのはきっと彼女の全てが輝いて見えるからだろう。

人はこれを────カリスマ性と呼ぶのだ。


 とんでもない変人であることは間違いないけど、悪い人ではなさそうね。


「よし!では、次に詳しい活動内容について話していこうと思う!────ジェラール!」


「はいッス」


 委員長に名を呼ばれたジェラール先輩はビシッと敬礼して立ち上がると、チョークを手に取った。

黒板と向かい合い、カツカツと音を立てて文字を書き込んでいく。

男らしい不格好な文字は辛うじて原型を留めていた。


「既に知っている人も居ると思うッスけど、風紀委員会の活動は主に見回りと学園行事(イベント)の警備ッス。毎日の見回りについては二人一組でペアを作り、朝と放課後に二時間ずつ校内を回ってもらうッス。まあ、毎日っつっても当番制な上、複数のペアと手分けして行うんでそこまで大変じゃないッスよ」


 想像より負担は多くないと語るジェラール先輩は一旦チョークをテーブルに置き、こちらを振り返った。

チョークの粉で白くなった手をパンパンと払い、ニカッと歯を見せて笑う。


「学園行事の警備については生徒会や先生達と話し合って決めなきゃいけないんで、詳しいことはその時にならないと分からないッスけど、基本は普段の見回りと変わらないッスね。見回りのルートが変わるくらいッス。もちろん、仕事量……っつーか、トラブルは多くなるッスけど」


 まあ、学園行事のときは人の出入りが多くなるものね。フリューゲル学園の生徒には他国の人も居るし、揉め事が多くなるのは仕方ないと思うわ。姉の話だと、学園行事がある度に一定数の賊が侵入してくるみたいだし……実際のところは分からないけれど。


「毎日の見回りや学園行事の警備以外にも、生徒会や他の委員会に頼まれて護衛をすることはあるッスけど、基本はこの二つッスね。あっ!あと、見回りや警備の担当から外れていても、トラブルに遭遇した時はちゃんと対処してください!それが風紀委員の義務であり、武力行使の権限を与えられた責任ッスから」


 義務・権限・責任……我々学生にはまだ理解し難い言葉を並べ、ジェラール先輩は『サボっちゃ駄目ッスよ!』と釘を刺す。

(うわ)ついた心がキュッと引き締まった。

もう私も風紀委員会の一員なのだと、今更ながら実感する。いつまでもお客様気分ではいられないのだと、ようやく理解した。


「────幾つか質問してもいいか……じゃなくて、いいですか?」


 そう言って、スッと手を挙げたのは私の隣に座るグレイソン殿下だった。

一応先輩だからと、敬語に直した彼はディーナ様とジェラール先輩を交互に見つめる。

話の途中で割り込んできた黒髪の美青年に、銀髪の美女は僅かに目を見開くものの、『いいぞ』と快諾してくれた。

グレイソン殿下は律儀にお礼を口にしてから、サッと席を立つ。


「先程、『トラブルに遭遇した時は必ず対処しろ』と言っていましたが、これは授業中や学校の休み時間も含まれますか?」


「そうッスね〜……授業中に関してはその担当教師の管轄になるんで、基本は何もしなくて大丈夫ッス。でも、休み時間のトラブルについては対処して欲しいッスね」


「では、トラブルの対処に追われて授業に遅れた場合はどうなりますか?欠席や遅刻扱いになりますか?」


「いや、そんなことは無い。担当教師にきちんと事情を説明すれば、出席扱いにしてくれる。ただ、補習をやってくれるかどうかに関してはその教師によるが……」


 委員会活動による遅刻や欠席はある程度大目に見て貰えるが、勉強は遅れる……と遠回しに告げるディーナ様はポリポリと頬をかく。

補習をしてくれない先生と考えて、真っ先に思い浮かんだのはやはり、サイラス先生だった。


 植物オタクのあの人は絶対に補習なんて、してくれなさそう……。授業のノートを写そうにも、私にはノートを見せてくれる友達なんて居ないし……グレイソン殿下なら見せてくれるかもしれないけど、残念ながら彼も風紀委員なのよね。

同じクラスだし、行動を共にすることも多いからトラブルに遭遇した場合、一緒に対処する羽目になりそう……。


 『トラブルに遭遇しないことを願うしかないわね』と肩を落とす中、黒髪の美青年は少し考え込むような動作を見せてから、席に着いた。

どうやら、質問はもうないらしい。


「さて、期待のルーキーの質問に答えたところで、次の話に移ろうか。ここからはトラブルに遭遇した時の対応について、話していく」


 そう前置きしてから、銀髪の美女は黒板の前にある長テーブルに手を突き、身を乗り出した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前作から気になってはいたけど髪色の〇〇っていう表現が多すぎる
[一言] teacherサイラスは、君になら融通利かせてくれると思うよ?ww
[一言] 学校側が授業遅れをちゃんと補填(補習や資料配布)しないなら学校で警備を雇うべきだよね。
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