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6 煽りと無双の愉悦劇

「ククク。来たな。朝森秀星。闘技場で見せしめになってもらうぞ!」


 有馬家の豪邸。


 どうやら、結界の魔法を使って、内部で行っている魔法的な要素を隠しているようだ。


 正志がゲスな笑みを浮かべて秀星に話しかけてくる。


「正志君!家に呼んでくれるなんてありがとう!俺たちズッ友だね!」


 煽りから入る秀星。


「ふ、ふざけんなああああっ!」


 右手のすぐそばに火の玉が出現。


 すぐに秀星に向かって飛ばしてきたが……秀星から一メートルくらいの距離で、火の玉は消えた。


「……え?」

「まあまあ、逃げも隠れもしないから、さっさと行こうぜ」


 何も考えずに放つ遠距離攻撃など、秀星に通用しない。


 単純にはなった攻撃は全て、保存箱の中に収納可能である。


 圧倒的な『所有者情報』を守る術を持っていないと、全て保存箱に格納され、秀星のものになってしまう。


 まあ、そんな視点を正志が持っているわけがないので、彼の攻撃が通じることはないだろう。


「ぶ、ぶっ潰してやるっ!」

「楽しみにしてるぜ!」


 というわけで、闘技場にルンルン気分で向かう秀星。


 正志は憤怒と屈辱に顔をゆがめながら、いろいろなところに指示を出していた。


 ★


 そういうわけで、闘技場のステージに入っていく。


「中はこうなってるわけね……しかし、屋敷、めっちゃ大きいよなぁ」


 ステージに入ると、広々とした空間であることに加えて、その奥に見える『屋敷』が見える。


 まさしく豪邸と言って差し支えないレベルの大きさであり、観客席がかなりある闘技場の奥にあるそれがよく見えていた。


 そして、その屋敷から視線を下げると、まさしく『特等席』といえる場所が用意されており、体重が軽く百キロは超えてそうな中年男性がニヤニヤしている。


「……ふむ、ふむふむ……フフフッ……」


 いろいろ考えて、考えて……その後でゲスのような笑みを浮かべる秀星。


『さあ、朝森秀星。貴様には、有馬家の力を存分に思い知らせてやる!』


 スピーカーから音が響いて、正志の声が聞こえてきた。


「力を思い知らせる……ねぇ」


 方法はいくらでもあるだろう。


 そして、その中から何を選択するつもりなのだろうか。


『出てくるんだ。有馬家の兵士たちよ!』


 正志が命令すると、秀星が入ってきた方とは反対側から、全身甲冑姿の人型が出てきた。


「……この近代文明バリバリの世の中で、なんてファンタジーな……ん?いや、あれは人間じゃないな」


 一瞬、秀星の瞳が光る。


 その間に鑑定魔法を使用したようだ。


「騎士型のモンスターの召喚魔法ってところか。思ったよりも魔力量が求められる個体だなぁ……」


 正志を見た時、魔力量が多いようには感じられなかった。


 今もこちらを見下している重量級中年も、魔力量が多いようには感じられない。


「魔石か何か……ってわけでもなさそうだな。どういうことなのかねぇ」


 秀星が疑問を口にしている間に、騎士たちの配列が終わったようだ。


 一言で騎士型と言っても種類は様々である。


 頑丈そうな盾を持っている前衛。

 二刀流のアタッカー。

 弓を装備した後衛。

 盾持ちを回復させるための杖を持った回復役。


 それ相応に人数を揃えているし、かなり戦力がある。


『さあ、お前たち、そいつをいたぶってやれ!』


 正志が命令すると、騎士たちは……同士討ちを始めた。


 盾持ちと回復薬は盾や杖を捨てて拳で他のやつに殴りかかり、弓と二刀を装備している個体は、そのまま武器を手に他の個体に攻撃を始める。


 ただし、お互いに全力ではない。

 それはまるで『いたぶる』という言葉を遂行しているかのように。


『……はっ?お、お前たち、一体何をやってるんだ!』


 叫ぶ正志。


 だが、騎士たちの同士討ちは止まらない。


 いや、『いたぶる』という命令を遂行している以上、それは『死を与える』ということにはならないので、永遠に続くだろう。


「ふああ……この程度の『書き換え』で騒ぐなよ……」


 秀星はあくびをしつつ、退屈そうな顔でそうつぶやく。


 その時、秀星の脳にテレパシーが届いた。


『秀星様』

『ん?どうした?セフィア』

『今後の展開に支障をきたすかと。格の差が分かりにくいので』

『……あー。確かに』


 セフィアの言い分に納得した様子の秀星。


「しゃーないな」


 秀星が指をパチンと鳴らすと、騎士たちの動きが一瞬止まる。


 全員がほぼ同時に、秀星の方を向いた。


 その後、それぞれが自分の装備を拾い、構えなおし、回復薬が急いで騎士たちを回復させていく。


『な、なんだ?……も、もどったのか?なっ、ならいい!お前たち、アイツを圧倒しろ!』


 圧倒しろ。


 死という言葉が介在するのかどうかが曖昧な概念ではあるが、圧倒した結果として死が訪れるのならそれまで。という解釈も可能。


 回復が済んだ騎士たちは、秀星に向かって完全な陣形を整える。


「さて……『蹂躙劇』と『悪夢』……どっちが好みか知らないが、メイドからは『どっちを狙っても悪夢になる』って言われてるんでね」


 秀星は手を軽く振った。


 すると、切っ先が赤く染まった銀の長剣が出現する。


「悪夢を見たい子はかかっておいで。見たくない子は諦めて目に焼き付けてくれ」


 秀星は歩き出した。


 それに対して、盾持ちが急接近する。

 自らが壁という名の『地形』になり、アタッカーに有利な状態を作る。

 頑丈そうな盾であり、怪しく光っていることもあって、魔法効果でその頑丈さが上がっているのだろう。


 しかし……神器の前には、全て無に帰する。


 盾持ちの一人が秀星に接近し……次の瞬間、秀星の方が、その盾持ちの傍まで移動していた。


「ほいっ」


 軽い動作で星王剣プレシャスを上段から振り下ろす。


 それだけで、盾は……いや、騎士ごと、左右に分割された。


 騎士の内部は……というより、鎧に至るまで、単なる『鉄塊』であり、それを魔法で繋げて、魔法で動かして運動能力を与えていただけの人形。


 それが左右に分割されて地面に倒れ、召喚魔法が適用されなくなったのか、魔法陣が出現して消えていく。


 再召喚できるのか否かは、有馬家の実力次第である。


『……はっ?』

「この程度で驚くなよ。『魔法で強化した程度の鉄の塊』を切断するなんて、別に珍しいことでも何でもないだろうに」


 正志の『理解できない』という感情を乗せたつぶやきをマイクが拾って、ステージに届けられる。

 それに対して、秀星は呆れた様子で歩を進める。


 技量とか、そういうレベルを超越した悪魔の技。

 だが、決して不可能ではない。

 『斬鉄』という言葉は珍しいものではない。


 その程度のことを、『神器』が出来ないわけがない。


「さて、ドンドン行こうか」


 秀星は微笑む。


 秀星の攻撃力に戦闘方法を再編成する必要が出てきたため、騎士たちの行動が一瞬止まった。


 だが、『絶大な近接攻撃力』を持っていたとしても、『戦い方』はある。


「ん?……ああ、遠距離攻撃に特化するわけね」


 盾持ちは盾を構えているものの、やや突破しやすい隙間がある。


 それを『射線』とするつもりのようだ。


「まあ……うん、それしかないのはわかってるけどなぁ……」


 次々と弓矢が放たれて飛んでくる。


 特別製の矢に貫通力を強化する付与がかかっており、殺傷力は高いだろう。


「それそれっ」


 三閃。


 それだけで、弓兵が放った矢がすべて、バラバラになっていく。


『な、なんだあれは!?』


 それをみた正志が驚愕する。


「……ん?ああ。カメラがあったのか。よく見えてるんだろうね。あれ」


 視線をいろいろなところに向けると、カメラがある。


 それによって、よく見えるのだろう。


 剣でやったことではあるが、剣技という言葉が持つ物理法則を超越した遠距離破壊……ではなく。


『ヒイッ!……ば、化け物……』


 矢の残骸が地面に転がり、『無駄』とか『雑魚』とか『退屈』とか、煽り文句に見えるように地面に配置されているという……。


 文字通りの【悪夢のような光景】が、とても、とてもよく見えるのだ。


「すまんなぁ。蹂躙劇って流血とセットだろ?無駄に命を散らすこともないだろうってことで、敵の戦意を削ぐことを考えてたことがあってな。こういうの得意なんだわ」


 秀星の歩は進む。


 騎士たちは再計算する。

 盾は一撃で両断され、矢は通じない。

 ならば……。


「……一斉攻撃による圧殺か?」


 秀星を囲うようにして、盾持ちやアタッカーが並び始める。


「それくらいしかすることないわな」


 プレシャスの柄を逆手に持つと、地面に突き刺す。


「まだ、お前たちの主人は『ギリギリ折れてない』……まだ何か隠し持ってんだろ?お前たちとじゃれ合うのは、とりあえず仕舞(しま)いだ」


 プレシャスに魔力を流し込む。


 次の瞬間、全ての騎士の下から『斬撃』が出てきて、全ての騎士を両断した。


 秀星は不敵な笑みを浮かべる。

 というより、隠しきれなくなったといった方が正しいか。


 ――少し、解釈の違いがある。


 セフィアは秀星に、『蹂躙と悪夢のどちらを計画しようと、悪夢になる』と指摘したようだが、そもそもこの二つに『質の違い』はない。


 すなわち、蹂躙も過ぎれば悪夢になる。


 そしてそれを、神器はたやすく示してしまうのだ。


「さて、さっさと次を出せよ」


 愉悦に満ちた悪人顔で、秀星は中年男性に視線を向ける。


 ここで秀星が何を呟こうと、観客席にいる男性に対して声は届かない。


 だが、何を言いたいのかは伝わったようだ。


 スマホを取り出して叫ぶ。


『おい、正志。あの『禁断魔法具』で、ドラゴンを召喚するんだ!』

『あ、あのドラゴンを!?いや、アイツって使う魔力量が尋常じゃないって……』

『私に意見するのか!』

『ヒイッ!わ、わかった!わかったよ!』


 命令は終わる。


「……さてと、神器の影響で会話は全部聞こえてたんだが、ドラゴンねぇ?」


 退屈そうな表情に変わる秀星。


 だが、そんな秀星の内心はともかく、ステージに魔法陣が出現した。


 地下から膨大な魔力が魔法陣に送り込まれて、光り輝く。


「おっ、出てきた」


 魔法陣から巨大なそれが出現する。


 翼も、胴体も、腕も、足も、顎も、全てが巨大だ。


 食物連鎖の頂点に立つにふさわしいといって、あながち間違えではない。


「天翔ける最強種族……か」


 異世界で聞いたフレーズだろうか。


 それを呟きながら、ドラゴンを見上げる。


「BAOOOOOOOOOOOOOO!」


 ドラゴンの咆哮。


 それだけで大気をビリビリと震わせ、覇気を示す。


「随分とご機嫌だな。全長三十メートルくらいか?まあ、身長百七十ちょいの俺は矮小(わいしょう)に見えるだろうなぁ」


 秀星は特に表情を変えない。


『ハハハッ!こいつが出たからには、もうお前の命はないぞ!朝森秀星!これが、有馬家が抱える最終兵器だ!これを引っ張り出させたことに敬意を評すぞ。無様に散れ!アハハハハッ!』


 正志の笑い声がスピーカーから響く。


「比較対象がそんなにいない中で言うのはアレだが……まず風香は勝てんわな」


 実力は見ればわかる。

 知りあいの範囲で言えば、風香はまず相手にならないだろう。


 鱗一枚一枚に膨大な付与魔法が存在し、まず、そんじょそこらの攻撃は全て通らない。


「正直……拍子抜けだわ」

『ですが、このドラゴンを圧倒することは必要です』

「わかってるよ」


 テレパシーでセフィアから指摘されたので、とりあえず頷く秀星。


 その間に、風格を示すために制空権でも支配しようと考えたのか、ドラゴンは翼を広げて飛んだ。


 ……いや、単なる物理的な意味ではないだろう。

 何トンあるのかよくわからない生物だ。翼だけで『空中に維持する』ことができるような理屈はない。


「上空からのドラゴンブレス。とか、そんな感じか?」


 口を開けて、中に魔力をため込んでいくドラゴンを見て、秀星はそうつぶやく。


「剣も魔法も、拳もいらんな。はぁ……」


 秀星は地面に剣を突き立てたままで、溜息をつく。


 エネルギーのチャージが終わったのだろう。ドラゴンが秀星に向けて、そのエネルギーを向ける。


『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 咆哮と共に、ドラゴンブレスを放つ!


 純粋な意味での『破壊性能』が圧倒的なそれが、秀星に向けて、一直線に放出された!


 それに対して秀星は、少し、自分の制御を緩めて……目を見開く。


『っ!?』


 次の瞬間、ドラゴンブレスは塵となって霧散する。


 かき消され、まるで最初からなかったかのように、空気中に溶けて消えた。


 それと同時に、ドラゴンは、真後ろに吹き飛んでいく。


『GA!AAAaaa……』


 吹き飛んだドラゴンは……ステージを超え、そのまま屋敷に激突し、豪華絢爛なそれを粉砕!


 そのまま、敷地内に存在する結界に衝突し……そのころには『絶命』していたのか、魔法陣が出現して消えていった。


『……あ……え?……な、何が……』

「ば、バカな……何をした、何をしたんだ!あのドラゴンが吹き飛ぶだと!?どんな魔法を使ったんだ!?」


 正志と清人は、唖然と驚愕で心が支配される。


 それに対する秀星から、返答があった。


 遠く離れているはずだが、何らかの魔法を使っているのか、その声は、よく届く。


「フフッ、別に、『俺の内側』にあるものが、何か、そっちに届いたわけじゃないよ。指一本動かしてないし、魔法だってつかってない」

「な、なら、一体どうして……」

「いや、単純に、俺の『眼光』に、周りにある者すべてが『敗北』した。それだけのことさ」

『ば……馬鹿なことを言うな!』

「馬鹿にしてないし、嘘もついてない。俺の『存在の圧』が眼光に宿って、それを認識した空気が、ブレスが、ドラゴンが、『朝森秀星から離れなければならない』って本能を呼び起こした。その結果、ブレスは霧散して、ドラゴンが真後ろに吹っ飛んでいった。それだけのことだよ」


 その眼光は抑えたのか、愉悦の極みのような表情を浮かべる秀星。


「うちのメイドからは『大砲みたいな眼光』って言われるが、まあ、間違っちゃいない。後で、至近距離で見せてやってもいいんだぞぉ?」


 覚めない悪夢のような現実。


 正志と清人は、顔を真っ青にして、ただ、体を震わせることしかできなかった。


 当然だろう。



 ――自らの精神を保つために必要なものが、今、この世に何もないのだから。

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