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5 裏の名家は企み、クズの神器使いは喜ぶ。

「秀星様。有馬家に関して情報を集めました」


 秀星が家に帰ってくると、セフィアが資料を手に待っていた。


「おっ。サンキュー。で、どんな感じだった?」

「どうやら、裏……いえ、これからは魔法社会といいましょう。その中ではかなりの財力と権力を持っているそうです」

「それを支えているのは?」

「簡単に言いますと、『暴力』です」

「おお、わかりやすいね」


 セフィアの要約に納得する秀星。


 当然のことだが、暴力が『ルール』を持っていると、そのほかの全ての影響範囲に存在するものは、その『ルール』に従わざるを得ない。


 わかりやすい状況である。


「あと、『献金』って言ってたよな。あれってなんだ?さすがに風香本人からは聞けなかったんだが」

「魔法社会には縄張りのようなものがあります。この中で、身を守ってもらうための金ということになりますね」

「へぇ……で、本音は?」

「有馬家に関しては脅迫してむしり取っているだけですね」

「だよな」


 正志が語った額がそのまま適用されるのであれば、かなり高い。

 潰れるか壊れるかの瀬戸際まで無理して月九百万の風香に対して、五百万だ。


 ほぼ脅迫だろう。


「で、むしり取った金はどうしてるんだ?」

「主に嗜好品の購入です。有馬家の豪邸はかなりのサイズですよ」

「好き勝手やってるなぁ……」


 やっているが……。


「一応、誰に金を払っているのかっていう点で、守られている部分はあるわけか」

「でしょうね。誰だって金づるを失いたくはありません。有馬家からすれば、八代家からの献金は端金(はしたがね)ですが、独占欲とプライドが強いものは、それを奪われるのを嫌います」


 有馬家に献金を払っている風香を取り逃がすと、月五百万の収益がなくなるということと同じだ。


 それらのほとんどが嗜好品に変わっているそうなので、純粋に『楽しむための金』がなくなることと同じ。


 そりゃ嫌だろうね。


「それから、こちらを」

「ん?」


 セフィアは持っている資料を秀星に渡す。


 それは、『とあるリスト』と、その詳細が記載された資料だった。


「ほうほう……ふむふむ、こういう『毟り取り方』をしてるわけね。良いこと思いついたぞ!」

「……はぁ、異世界で干渉を抑えるために我慢していた反動とはいえ、クズですね。秀星様」

「わざわざ『このリスト』を俺に渡したセフィアに言われたくないね!」


 とてもいい笑顔である。


 要するに、ロクでもないことをするつもりなのだ。


 ★


「親父!聞いてくれよ!」


 秀星が通う学校がある九重市に建設された有馬家の屋敷の一つ。


 当主の執務室も備え付けられており、正志は部屋にノックもなしに飛び込んだ。


「……何だ?正志」


 高級な椅子に座り、最新式のノートパソコンで作業中の中年男性は、顔を上げると正志を見た。


 おそらく百四十キロはあるだろう体でどっしり座っており、黒髪をオールバックにしている。


 ただ、目つきはギラギラしており、肥えた体も相まって『貪欲』という言葉が似合う男だ。


「風香ちゃんと話してたら、横から知らねえ奴がでしゃばってきて、俺に喧嘩を売ってきたんだよ!」

「何?」


 男性……有馬清人(ありまきよひと)は、正志の言葉に敏感に反応した。


「詳しく説明しろ。この周辺で、私の名を恐れない者がいてはならないからな」

「ああ。確か、朝森秀星とか言ってたぞ。とにかく好き勝手に言ってきたんだ!」

「ふむ……」


 パソコンを操作する。


 そして、とある情報ファイルで『あさもりしゅうせい』と入れて検索。


 該当件数はゼロであり、一致する者はいない。


「フンッ、私のデータにも載らないゴミか。裏社会に入ってきたばかりの新人か?とにかく、有馬家の威光を知らないというのは罪だ。早速知らしめてやる」

「そうだよな!」


 元気な様子でうなずく正志。


「まったく、最近は私を不愉快にさせるものだ。四十億の現金が急に消えたなどという馬鹿な報告をしてくるものがいたと思えば、有馬家の名を理解しない者が現れるなど」

「え……四十億の現金が?」

「そうだ。『禁断魔法具』を購入のために用意したというのに、船から急に消えたなどという馬鹿がいたのだよ。そんな嘘が私に通じるはずもない。あの密輸船には、最高レベルの感知魔法も同時に使っている。それを潜り抜けて侵入することができるものなど、いるはずがないからな」

「じゃあ……」

「ただ、感知魔法にかかっても『警報が鳴らない』場合はある。味方に対して一々警告を出していたら話にならんからな。おそらくそのチャンネルか何かをあらかじめ仕入れておき、潜水艦か何かで奪い取ったのだろう。それに私が気づかないと思っている『馬鹿』を抱えていたことになる。お前も気をつけなさい」

「おう!」


 末端の人間であっても、野心な行動を把握する必要はある。


 そこだけを言えば、とても納得できる話だ。


「まあ、魔法具を発見したらしい奴は私に借りがあるからな。その時の手持ちの100万で、後は借金ということにして解決したが」

「え、てか、元々何円だったんだ?」

「十億はするらしい」

「うへぇ。そりゃすげえアイテムなんだな。てか、借金なんて馬鹿な会社だな。値下げでいいじゃねえか。どうせ俺たちが返すわけねえのに」


 呆れた表情でその会社をバカにする正志。

 清人は罪悪感の欠片もなく、深くうなずく。


「その通りだ。全く、『一族』ではなく『会社』との取引の場合、献金という形を取れず、借金という形にしなければならないとは……どうせ返す必要もないのに、面倒なルールだ」

「だよなっ!有馬家がトップに立ったら、こんな制度は撤廃して、献金ってことでむしり取れるようにしようぜ」

「ああ。弱者は強者に毟り取られるために存在する。返す必要がないとはいえ、借金という形にするのは『無駄な抵抗』だ。そのような惨めな抵抗を続けさせるほど、私も鬼ではない」


 言いつつ、パソコンを見る。


 ディスプレイには、何かの魔法具だろうか。石板のようなものが表示されている。


「そのための『力』だ。表には絶対に知られてはならないアイテム。明日の朝には届くだろう」


 清人は再び、パソコンに目を向けて作業を再開する。


 それをみた正志は、部屋から出た。


「ククク、朝森秀星。貴様は終わりだ。始末するのもいいが……捕まえて拷問ショーで苦痛漬けにしてやる。そうすりゃ、親父の気分も晴れるだろう。ハハハ!ざまぁねえぜ!」


 正志は気分よく、自室に戻っていった。


 ★


 翌日は土曜日。


「無限ダンジョンの奥には『アレ』があるって異世界では噂だったけど、そもそも異世界には無限ダンジョンがなかったからな。速攻で奥まで進んで見つけたい」

「言いたいことは分かりました。では秀星様。なぜバイクに乗っているのですか?」


 八代家所有(多分)の山にあるダンジョン。

 そこに秀星とセフィアは来ていたのだが、そこには高性能で大きなエンジンを積んだモンスターマシンに乗る秀星がいた。


 ヘルメットこそ被っているものの、黒のジャージ姿であり、明らかにバイクに乗るような格好ではない。


「だって、このダンジョンって、まっすぐ走れるところが多いからな。このバイクは直角に、Gを振る無視して曲がれるから、まあ何も問題ないってわけだ」

「無駄に高性能ですね。それに乗っているのが秀星様だとなんだかイライラしますが」

「なんでや!」


 さて、そろそろ茶番は良いとしよう。


「それじゃあマッピングついでに行ってくる。無限ダンジョンはマジで下の方は『視えない』からな」

「構いませんが、バイクの免許は持っているのですか?」

「持ってないけど、バレなければ捕まらないからな」


 親指をビッと立てる秀星。


 悪いことをするという自覚があるというか、『悪いことをするのってどうして悪いの?』って逆に聞き返すレベルの自然さである。


「じゃあ、いくぜ……」


 エンジンを点火!


「秀星様。自宅に有馬家からの刺客が送られてきました」

「……このタイミングで?」

「このタイミングです」

「……わかった。はぁ、行きますか」


 『保存箱』にバイクを収納して、そのまま転移魔法で帰宅する。


 玄関に到着すると、ちょうどインターホンが鳴った。


 秀星は笑みを内心に封じ込めて、鍵を開ける。


 ドアの向こうには、高級そうなスーツを着た男性が立っていた。


「こんにちは、今、少し時間よろしいですか?」


 張り付けたような笑みを浮かべている優男。といった雰囲気だ。


「ダメですね」


 秀星は拒絶しながらドアを閉める。


「おっと」


 だが、その程度の反応は慣れているのだろう。男性がドアの前に足を置いて止め……ようとしたが、ドアが靴をすり抜けて、バタンと閉じられた。


「はっ……えっ……えっ?」


 意味が分からないといった様子でドアと足を見る男性。


 ただ、数秒後、ドアが閉じられて、秀星が中にいるということを理解した。


「お、おい開けろ!ふざけてるのか!」


 ドンドンッとドアを叩く男性。


 数秒叩いて、ちょっと休憩ということでやめた時。ドアは開いた。


「ブフッ、ばっかじゃねえのwww」


 愉悦の極みのような表情をした秀星の顔がそこにあった。


「きっさまああああああああああっ!」

「騒ぐなよ。魔法社会が表に出てくるとマズいんだろ?なら、こんなところで騒ぐなって」

「おちょくっているのか。我々と一緒についてきてもらうぞ!」

「いいよいいよ~♪」


 楽しい!という感情を隠すことなく、秀星は彼らが用意した車に乗り込む。


 運転手は終始、秀星に対して殺気を飛ばしているが、彼らにとってはとても残念なことに、それでひるむほど、秀星は脆くも弱くもない。

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