繊維工場改造プラン その⑫ 懇親会
今回は懇親会という事で色々と突っ込まれたくない話を。
裏側の話を中心に語ってもらいます。
しかし、貴族の政略結婚の話をどうしましょうか
という所をモチーフにストーリーを構築させていきます。
その日の夜は晩餐会になった。
せっかく沢山の人が王都から遊びに来ているので
一緒にご飯を食べようという話だ。
基本的に庶民ばかりの集まりだが、
貴族の子弟も無理やり誘って同席させる。
釣り餌はもちろんエリオス本人である。
「エリオス君は今回わざわざ実家に遊びに来たのに、
私達を羊牧場の案内ばかりさせて・・・。」
「そうよエリたん。
久しぶりに会うのに面倒を押し付けて。
それって失礼だと思わない。
あたい達を何だと思って。」
今回一番ご不満なお二人に絡まれる。
折角遊びに来たのに観光の案内役を押し付けられたのだ。
それを言われると返す言葉も無いのだが、
「二人には感謝している。
ありがとう。
彼らも、今の羊毛産業を見てもらうのも一つの手だと思った。
貴族様には今着ている服がどうやって作られているかも
わからないだろうし。」
お礼を言いながら答える。
「そんな事はどうでも良いのよ。」
「そうよ、エリたん。
あたし達の不満は、何故こんなに女の子が多いの?
貴族様まで。
王都で何をやっているの?」
ぶっ。
ついうっかり吹き出しそうになる。
気になるよね。僕も気になる。
「此方はただ、エリオスの故郷に遊びに来ただけだわ。
王都から出てみたくて話に乗ったのですわ。自称幼馴染。」
「妾も同じじゃ。
盗賊団の退治の話を聞いて、砦や野戦場を観察しにきたのじゃ。
自称幼馴染。」
「幼馴染は自称じゃないわよ。」
雹華お嬢様とロザリーナお嬢様が割り込んでくる。
流石にこの怪物2名を相手にすると、天才幼馴染でも相手が悪い。
「しかし、羊の牧場とはね。
エリオスはホストなのに此方を放置して鉱山に向かってしまうし。
此方をレディーとして接待する気を感じないというか、
おもてなしの精神が足りないと言うか。
此方は外国の賓客ぞ。」
「そうじゃ。
妾も魔王国の軍人だぞ。
汝らはいつも魔王国を敵対した目で見ているが、
時代は変わるのじゃ。国益の為に我が国を接待し、
我が国と同盟する位の外交を意気込みせねばならん。
さあ接待するんじゃ。」
実に都合の良い言い回しであるが、事実かもしれない。
一留学生に対しど田舎平民の僕に外交官の真似事をせよと。
偉い高い評価をしてくるじゃないか、この将来末恐ろしいお嬢様方が。
「羊牧場は我が国の伸びる産業を、勢いを表しています。
今は一小国かもしれませんが、
産業を発展させていずれは超大国に伍する国力になります。」
「ほほう、言ったな。
汝は妾の魔王国と伍すると言ったな。それも汝の力で。面白い。
汝は軍事的才能もあるが、本職は内政官と言いたいのか。
妾が経済を分からぬとでも思ったか。
愚か者が。
ふふふ、知性の中に確信が込められた汝の目が面白くてたまらぬ。
一体、世界をどういう視野で見ているのであろうか。」
一体このお嬢様は何を言いたいのか。
少なくとも敵対視していない事はありがたいのだが。
「この国は人口が多く資源も豊富。
足りないのは技術力と経済力。
侮ると古代王国の様に転落しますよ。」
「汝が1人で技術力を補うとでも言うのか。
・・・そんな小国を捨てて妾と我が国に来ぬか?
世界最高の力と経済力と権限を与えてやろうぞ。
世界を妾と汝で新しく作らぬか。
魔王国の為なら何人にも邪魔させぬ。」
「お嬢様。
今の発言は無しでお願い申し上げます。」
「妾は本気じゃ。」
メイドさんが流石に口を挟む。
まるで魔王国を動かせるかの様な発言。
「エリオスは我がロイスター王国の公僕である。
女神様のご信託でもある。
神の名において人さらいみたいな真似はご遠慮なさいまし。」
エリカお嬢様が横から口を挟んでくる。
「汝は公爵家の娘か。
この国の理など妾の国には通じぬぞ。」
「まあそれはさておき、
ホストが折角相手して下さるのであれば、
余談は止めにしておきましょう。」
「此方も同意見ですわ。
ホストが折角、此方の接待をしてくれるという所。
さぞかしおもてなししてくれるでしょう。」
僕はいつのまにかホストで接待係になっているんだか。
「そうですわ。
今回は色々な機械を見せてもらって大変興味深い。
お父様にも色々土産話が出来るというもの。えへへ。」
「わたくしは軍事面でお父様が見た野戦を
自分なりに解析している所ですわ。
次の戦はわたくしも研究しますわよ。」
二人共教授の娘さんのエリノールお嬢様とマーシリエお嬢様が
会話に入ってくる。
教授の娘さんだけあって、理工学と軍事学には詳しいのだろう。
教授から話を聞いて駆けつけてきたんだろう。
「事前にもお話している通り、
今回の帰郷は工場で作業をする事が目的で、
鉱山や羊牧場の視察も兼ねています。
経済動向や人口推移の情報を確認しています。
あまりおもしろい所は無いという事は事前にお約束しましたね。」
「そんな事は分かっておるが、汝の見ている視野が面白いのじゃ。」
「エリオス君の視点は此方から見ると遥か未来を見ているからの。」
「そりゃ、そうですわね。
エリオス君は色々と詳しいから。
わたくしでは敵いません。」
一応言い訳をするが、
他の人はそれぞれ見たいものは違うらしい。
じゃあ、気になっている一言を呟いてみる。
もちろん爆弾発言である。
「僕が気にしていますのは、
嫁入り前の皆様を連れ出して、
婚約者の方々に大変ご迷惑をおかけするのではないかと。
特に貴族の皆様方には。」
「「「!!!!」」」
当然この爆弾発言に!が顔に浮かび上がる。
やっぱり禁句だったか?
「汝は言ってはならぬ事を・・・
妾は留学中なので婚約者など関係ないのである。」
「そうですわ。
此方も留学中で、・・・ですわ。」
「エリオス君。
婚約者の話は今後二度と私の前でしないで頂けます?
あんなジジイと結婚なんて絶対認めないんですから。」
貴族の方々から怒りの表情で睨まれる。
暴虐無人なコイツラにも弱点はあったんだな。
ああ、実在の婚約者から逃亡しているんですね。
政略結婚ですもん。
恋愛結婚の時代じゃないですからね。
そしてニコニコしている庶民の皆様方。
「貴族様は結ばれる運命が神様にて予定説で決まっているので、
是非幸せになって下さいね。
私はエリオス君と仲良く慎ましくやっていきます。ニヤニヤ。」
「・・・ブチ」
よせば良いのにニーナさんが挑発する。
日頃のストレスが溜まっているな。これは。
「上等だ、憎たらしい偽幼馴染。
表に出ろ。今日こそは妾がボコボコにしてやる。」
「アンタらこそアタシのエリオス君に付きまとって。
ストーカー共め。今後一切近づけないようにしてやるわ。」
これはマズイので外へ逃げる一同。
天才どもが武力を行使してやり合うと本気で危険なので
退避するのである。
「あははは。
エリオス君は本当に人気者ですね。
面白いわ。」
いつの間にか近くにいるマーシリエお嬢様から声を掛けられる。
「恐縮です。」
「暇だから、軍事学の話でもしよっか。」
「はあ。」
「話はお父様から聞いたわ。
軍事力を構築するには小銃と大砲の性能向上と
軍事工場が必要だって。
どうするの?」
中々悩ましい所に突っ込んでくるマーシリエお嬢様。
それ僕も悩んでいる所です。
「小銃は鍛冶屋ギルドに任せて、
試作から量産試作まで設計を進めるしかなさそうです。
量産は設計した図面と形状を元に鋳型成形を考えています。
強度が落ちる分は鋼鉄を考える必要がありますが、
最終的には高炉が完成してからですね。
大砲はまず青銅からで反射炉を建設して鋳型成形。
どちらにしても量産工場を作るには高炉の建設は避けられません。」
「それはかなり先の話ね。
じゃあ、当面は高価な試作中心。
軍隊として運用は出来ないのね。」
「鋭いですね。
魔法兵団を蹴散らせる程の数は課題です。
しかし、局地戦をモデルにして戦術研究は可能でしょう。」
「どうするにしてもお金が必要なのね。
どうするの?」
「労働者は繊維業で吸収します。
後は、鉱山と海運業を発達させます。
安価な石炭を主要燃料にして、安いエネルギーを使えるようにします。
いずれのプロジェクトも並行して行うのが理想です。」
「そんな人とリーダーと資本はあるの?」
「スポンサー募集中とお答えしておきます。」
「ふーん。伯爵様にもそれは無理ね。」
中々鋭いマーシリエお嬢様。
「まあグリーヴィス公爵様が加わってくれると面白いんですけど。」
「それはエリカに言ってみ。
うちの男爵家は貧乏貴族だからお金は無いわよ。
お父様も大学教授だし。」
「商売するしかなさそうですね。」
「わたくしも羊飼いでもしようかしら。」
イギリスのスペンサー男爵家は羊飼いとして成功して金持ちになったらしい。
それもありかもしれない。
「まあ商売はエリオス君の方が得意そうだから、
私達も宜しくね。
いざという時は大学教授のネットワークと
商業ギルドのネットワークでなんとかしましょう。
これからも宜しくね。」
という事でマーシリエお嬢様とエリノールお嬢様も
仲間になってしまいました。
そこで派手にバトルしている人達も含めて。
大所帯の派閥になりつつある今日この頃でした。