繊維工場改造プラン その⑩ キルテル村の産業と家族の団らん
今回はお父様と家族の団らんの話になります。
実は、拡大路線にも影が見え始める様になります。
あとここで貴族様方の家庭の話が出てきます。
実はまだ小さいお子さんもいらっしゃいます。
さあどうなる事でしょうか?
女神様とエリカお嬢様と別れた後に、お父様と議論する。
今後の方針を詰め直す為である。
「お父様、繊維産業は続けられそうですか?」
「その言葉はどういう意味だ?エリオス。
父さんには良く分からないぞ。」
「実は・・・」
製造業として重要なのは、物を作って売り続ける為には課題がある。
需要が市場に存在しなければならない。
そして常に競争相手がいるのである。
競争相手に勝たねばならない。
生産する手段(人、モノ、金)が満たされなければならない。
昔からあるマーケティングの考え方である。
衣食住の場合、本来は人の数だけ需要があるはずである。
競争相手は当然無数にいる。
全ての村々で紡績業をして糸車を回している人が競合なのである。
競合に勝つ手段は何であろうか?
生産する手段の、人は足りるであろうか。
モノの原材料と設備、エネルギーは入手出来るだろうか。
金のお給料、原材料購入費、設備修理費、投資費などなど
キャッシュは足りるであろうか。
僕は全てお父様に押し付けてしまっている。
それに罪悪感を感じているのも確かである。
「売れ行きも悪くないし、生産も今の所大丈夫だから
何とかなるのでは無いか?
むしろ、エリオスは何を気にしているのか分からない。」
「順調であれば良いんですが。」
「ただ最近、繊維業を大規模的にやりはじめる声は聞く様になってきた。
各地の貴族領で。
前回の羊の囲い込みも同じ話だ。」
競合は当然増えるであろう。
伯爵領の話を聞いて真似する貴族は当然出てくる。
皆が一斉に始めると直ぐ飽和状態になるのが世の常。
ドロドロの価格競争になる。
長期間の優位を保てるとは思えない。
とは言ってもまだ庶民が好きなだけ衣類を買えるだけの
価格と収入というサイフを満たすのはかなり先の話である。
イギリスの産業革命の時は靴下産業が盛り上がったそうな。
ファッションや衣類などで
色々なエピソードが存在している。
「商業ギルドでも輸出という話が出始めている。
各国に安価な繊維を輸出できないかと模索しているらしい。
国内市場が飽和した時の打開策を練っているんだろう。」
「貿易戦争が起きますね。
相手国も当然、自国市場と労働者を守ろうとするはずです。」
「それはきな臭いな。
関税を思いっきり上げるとか。
密輸主体になるな。」
「密輸は完全に防ぐ事は出来ないと思いますが、
政府が本気になったら手はなくもないです。」
「国家間の競争になるのか。」
国内市場の動向と貿易戦争は最大の懸念である。
儲かりそうだから作るは常套手段。
問題はその後をどう生き残るか。
「エリオスの新設備の開発を頼むな。
効率が良くなれば、生産量が上がりコストは下がるはずだ。」
「人は足りていますか?」
「今の所は、例の農業の失業者を吸収している。
ただし、更に生産を増やすとなると色々と課題は出てくるだろう。」
「人を増やす手配も必要ですね。
出稼ぎ労働者も必要です。
伯爵様に相談してみます。」
話が人材派遣業みたいになってくる。
しかしこういう課題が一つ一つクリアにならないとモノは流れないのである。
悲しい事だが、モノがちゃんと流れる為の仕組みはこれからかもしれない。
繊維産業で長く優位な立場を築き上げるには
相当の課題を超えなくてはならない。
となると、やはり新規産業か。
次の分野への参入が鍵を握る。
「それはそれとして、王都はどうなんだ?」
「どうと申されますと?」
「一つは対外的な外国の話。
もう一つは軍隊の話。
最後は宗教の話。」
良い所をついてくるなぁ。流石お父様。
「まだ明確になっていませんが、対外的な話は雲行きが怪しくなりそうです。
軍隊の話は大きくは動いていません。
宗教の話は我が国ではまだ動きはありませんが、
魔王国で宗教戦争が終わったそうです。
新教側の勝ちで信仰の自由が認められそうです。」
「なるほど。
また魔王国と人間の国家で戦争になりそうだな。」
そうなる前にロザリーナお嬢様が自発的に国外退去するだろう。
当然、他の貴族も動向を探りにくるはず。
目が離せなくなってしまった。
「あの魔王国のお嬢様とエリオスは仲が良さそうだったな。
くれぐれも危険な事には巻き込まれないように注意してくれよ。
父さんは我が子の安全を一番心配している。」
「お父様・・・」
あのお転婆お嬢様なら確実に巻き込んでくるだろう。
むしろ喜んで火中の栗になりそうな無謀極まりない正義感がある。
恐ろしいお方だ。
逃げるべきか、積極的に関わるべきか。
「・・・貴方、エリオス。
ご飯にしましょう。」
お母様からお呼びがかかる。
「そうか、じゃあご飯を食べに行こうか。
久しぶりで家族で団らんの時間だ。」
お父様と僕はお母様の待つ食堂に移動する。
美味しそうな実家の手料理である。
「今日はお父さんとエリオスちゃんの好物を作ったから
是非ゆっくり食べてね。」
「はーい。」
久しぶりの家族団らんである。
そう言えば例の質問をお母様に投げてみよう。
「お母様。
所で弟か妹の話はそろそろ具体化しそうでしょうか?
僕も可愛い妹が欲しいです。」
「こらエリオス。」
「うふふ。エリオスちゃん。
お父さんも忙しい仕事だけじゃなくて
もう少しそちらも頑張ってくれるはずだから。」
「こらお母さん。エリオスはまだ子供だからそういう話は。」
「大丈夫よ。
子供は見ないうちに直ぐ大人になるんですからね。」
こちらはもう心はオッサンなんですけどね。
惚気る夫婦を横目で眺めながらふと物思いにふける。
「そう言えば、伯爵様のお嬢様もそろそろ4歳と5歳か。
お館でお会いした事はあるか?」
「いえ、その話は初めて聞きました。」
「二人の女の子らしいぞ。
パーティーとか呼ばれたりしないのか?」
「平民の僕は爵位や地位が無いので呼ばれませんよ。」
「どうかな。
伯爵家の高官であるお前が呼ばれないとも限らないぞ。」
「・・・」
そういう話は初めて聞いた。
確かに伯爵家にそういう話は無いな。
あのご隠居様がお孫さんを放置するとは思えない。
いやーな予感がする。
そう言えば、知り合いの王侯貴族様方の家族関係を正確には把握していない。
こちらは庶民だから社交界には縁の無い生活だとたかをくくっていたかもしれない。
揉め事の予感しかしない。
この手の話に詳しそうなエリカお嬢様にこっそり聞いてみるか。
女性のネットワークの方が詳しいだろうと思ったが
聞いた相手が非常に悪かった。色々と後悔する事になる。