ロザリーナお嬢様とオズワルド教授の反省会
教授と反省会。
そしてついてくるロザリーナお嬢様。
17世紀ヨーロッパの戦場はどう克服したのでしょうか?
そして近代の戦いを身につける事が出来るのでしょうか。
雹華お嬢様と分かれてから、午後に大学の研究室に向かう。
軍事学のオズワルド教授に宿題を報告しないといけない。
面倒事は早めの終わらせるに限る。
と考えていると、予想通り待ち伏せに合う。
「汝・・・。やっと見つけた。」
「お嬢様。ようやく見つかりましたね。」
「お嬢様。お疲れ様でございました。」
想定していた通りロザリーナお嬢様とメイドさんと執事さんである。
大体分かっていたので落ち着いて返事をする。
「これは少尉殿。お久しぶりでございます。
メイドさんも執事さんもお疲れ様です。」
エリオス君はポーカーフェイスであえて関わらせなかった事を
努力して表面上から隠して見せようとした。
うむ。見事に返事した。
動じていないはず。表面上だけは。
「汝は妾を無視して軍事行動に出かけたな?
何故妾を連れて行かなかった?
ここの所、退屈なのじゃ。
妾は観戦武官であるぞ、観戦武官。」
ロザリーナお嬢様はご不満の様子。
まさに武闘派の鏡。
本音がだだ漏れしていますな。
「ただの盗賊団退治ですよ。
主力はあくまで伯爵様の軍隊です。
僕は殆ど活躍していません。」
さらりと流して要点だけ答える。
相手をすると面倒事に巻き込まれそうなので
さっさと教授の部屋に移動しようと努力する。
「待てエリオス。
盗賊団退治とは尚更楽しそうじゃないか。
次は妾も連れていけ。
ちゃんと約束するんだ。」
何それ、悪魔の契約?魔王の契約?
怖いですな。
気軽に約束をすると魂を持っていかれてしまう。
・・・冗談が通じそうにない人なので言うと後が怖い。
先回りして逃さないように構えているメイドさんと執事さんに
アイコンタクトして、一緒に教授室に入る様に促す。
ああ、なるほどみたいなそぶりを見せて理解してもらい
道を開けてもらう。
やはり情報は筒抜けの様子。
「とりあえず少尉殿も一緒に教授とお話しましょう。
教授も傭兵団との戦闘に参加されていましたから。
色々と積もる話があるはずです。」
「う、うむ。
教授なら話は早いはずだ。
では妾も同行させて頂こう。」
と言って諦めて教授室にノックして一緒に入る。
スミマセン教授。また巻き込んでしまいました。
「教授。遅くなり申し訳ありません。
エリオスです。」
「おお、来てくれたか。
先の戦闘は大変勉強になったな。
しっかり討論しよう。」
う。いきなりそう来たか。
その発言の直後に恨めしそうな視線を向けるロザリーナお嬢様。
だから、本音では連れていきませんって。
「まずは傭兵団との戦闘の反省だな。
多数の敵に少数の軍勢をぶつける戦術は非常に危険だった。
たまたま、魔法使いと騎兵による戦力差が大きかっただけである」
「そうですね。あとは「射程」の概念が難しい課題です。
魔法の射程距離200m前後をどう戦術でフォローするかでしたね」
「うむ。弓やマスケット銃では50〜100m前後が限界。
アウトレンジで魔法攻撃を受けてしまうな」
ここが現実の所。
歩兵による撃ち合いに限れば射程の長い魔法使いが有利である。
「なんじゃ汝ら。魔法の射程距離なら、
騎兵突撃すれば200mで12秒前後。
まず魔法の連発が不可能なタイミングじゃ。
完全防備した陣形ならともかく、横隊なら騎兵突撃を防げぬであろう」
ロザリーナお嬢様が言う。
そうでしょうね。相手に騎兵がいたら。
そこでパイク兵とマスケット兵を組み合わせたテルシオが
防御型の陣形として中世ヨーロッパで猛威を奮ったのでしょう。
・・・魔法使いも万能ではないな。
対騎兵戦術としてパイク兵のテルシオなら、
対テルシオ戦術としてはオラニエ公マウリッツのカウンター・マーチか。
それを改良したグスタフ2世アドルフの戦術。
最終的には大砲による砲撃で陣形を崩す作戦。
日本で言う江戸時代以降に開発された戦術なので
学校で日本史を選んだ人にはあまり馴染みの無い言葉かもしれない。
「対パイク兵には魔法か弓、マスケット銃で削り込む、
対魔法、マスケット銃には騎兵の突撃、
対騎兵にはパイク兵。
三つ巴ではあります。
それでは、対魔法使いとマスケット銃には砲兵を遠距離から当てます。
対騎兵にはパイク兵、の代わりにマスケット銃を当てます。
対パイク兵には今まで通り魔法とマスケット銃で対抗します」
とりあえず前世での軍事革命の話を提案する。
当然の質問が教授から返ってくる。
「パイク兵を外したら騎兵に対抗出来ないのでは無いか?」
「実は対抗策があります。
聞き伝いによると、
マスケット銃の先端に剣をはめて槍の代わりにするそうです。
「銃剣」と呼ばれているそうです。
マスケット銃と銃剣の長さを合わせて槍に代替えして騎兵に対抗します」
「・・・!」
馬は尖った物には恐怖心があるらしく突撃出来ないそうな。
生き物ですから。
ワーテルローの戦いでもマスケット兵の銃剣を並べ方陣を作り
騎兵突撃を防いだという記録が残っている。
「じゃあ、対マスケット銃と魔法はどうする」
「より射程の長い大砲で戦列を崩してから騎兵の突撃でしょうか。
またマスケット銃もより射程の長い銃へと改良する事で
敵の射程外からアウトレンジします」
「相手も当然、同じ事を考えてくるな」
「横隊か方陣中心になるので、スピード勝負になります。
マスケット銃の3列2段打ちで交互に弾を込めながら打ちまくります。
当然、猛訓練が必要です」
「武器を持たせ訓練する常備軍が必要だというのか」
「大砲も移動できる軽い重量が必要です。
3ポンド砲ですかね」
「その意味は分からないが軽い砲台が必要という事か。
金がかかるな」
教授のご指摘通りで金がかかる。
武器を製造するコスト、兵士を雇うコスト、訓練するコスト、教えるマニュアル。
それを徹底してやりきったオラニエ公マウリッツと
グスタフ2世アドルフが優れていたのだ。
長篠の戦いで信長が3段撃ちする方策が伝えられているが、
実際に移動できる砲兵とマスケット兵の交互撃ちと騎兵突撃を
マニュアルで徹底的に組み合わせたのは17世紀の軍事革命以降である。
「対パイク兵は本当に魔法とマスケット銃で対抗できるのか?
防御力が物凄く高く陣形が崩れないぞ」
「パイク兵の弱点は2つありまして、
1つは機動力。密集陣形では移動と追撃が難しいです。
元々逃亡防止を目的にしていますから。
もう1つの弱点は遊兵。20列や30列も層を厚くすると防御力は上がりますが、
後ろの列の部隊は殆ど戦闘に寄与出来ません」
「それは、確かに」
「騎兵さえ防ぐ事が出来れば、層を薄くして
横隊を増やしたほうが戦闘に集中できます。
つまり、槍の届かない距離からマスケット銃で集中的に
繰り返し砲撃すれば被害は甚大です。
機動力は流石にマスケット兵の方が上です」
「下がりながら撃つか進みながら撃つか・・・。
間合いを近づかせない戦術がいるな」
流石教授で理解が早い。
課題はまず武器工場とお金であろうか。
こればかりは直ぐには出来ない。
オランダは貿易、スウェーデンはフランスからの資金があって
成立した背景があることを忘れてはいけない。
つまり、産業による税金が必要なのだ。
戦争には大きな政府論が必要になる背景であったのだ。




