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3年戦争 休戦条約 その12

 ここは宰相閣下の領地の都市の一つ。

北の国の王、ラリオロフ陛下と東の聖王国の使者がいた。

この2つの国は宰相閣下の領地の隣国であるが、王位継承権を巡って戦争をしていた。

泥沼の戦争でお互いが強国であるので決着がつかない。

当面は放置していたが、ロイスター王国で内戦が始まると

両国関係を利用できないかと考えた宰相閣下であった。



「今日は話し合いの場だ。

 お互いに自制して頂こうか」

「ロイスター王国の手引とは言え我らは戦争中」

「・・・」



 宰相閣下は両者を見比べながら、東の聖王国の使者の言葉を聞き流す。

この外交の場を上手に利用しなければならない。

しかし北の国は国王自ら、東の聖王国はただの使者である。

どちらが本気かは一目瞭然であった。



「此度は余から両国の停戦協定を提案したい」

「これはロイスターの宰相閣下。

 我が国はまだ主力兵団を残しております。

 北の国と停戦する理由などありませぬ」

「無論、我らもである。

 負けはしたが、領地を占領したのは我が国だ。

 力で奪い返してみるがよい」

「・・・」



 表面では両国とも強気の姿勢を崩さない。

実際に、戦闘は聖王国が勝利している。

名将率いる聖王国が陸軍無敵の重装騎兵を率いてるからであった。

しかし制海権を抑えた北の国が海岸沿いの都市を複数占拠して政治的には有利な状況であった。

陸と海との力バランスの違いが両者の立場を表している。


しかしお互いの国の懐事情は非常に厳しかった。

継戦意欲が低くなっている情報を宰相閣下は得ていた。

それ故に両国は会談を受ける事になったのだ。



「余の見たところ、聖王国は議会から戦費獲得を拒否されたそうな。

 食料も買えず、傭兵も雇えずにどうやって戦争するつもりだ?」

「・・・」

「北の国は先の戦闘の敗北が原因で母国で厭戦雰囲気であるらしい。

 徴兵拒否の話も聞く。内戦が起きましょうぞ。

 兵士がいなくてどうやって戦争するつもりでありますか?国王陛下?」

「ロイスターの宰相閣下は雑音が好きな様子であるな。

 それは事実ではない」



 そう言い放つ宰相閣下の発言に表面上には顔には出さないが、

それぞれ情報は筒抜けであった。

そして宰相閣下の話は続きがあった。



「しかし戦闘は我が聖王国が勝利している。

 このまま海岸沿いまで攻め込んで、海に追い落としてくれよう」

「・・・朕は宰相閣下の思惑を聞きたい。

 何が希望か?」


「余の希望はまず対話であります。

 そして休戦を求めます」

「朕は知っているぞ。

 ロイスター王国の内戦を。

 しかしそれは我らにとって利しかない」

「両国は戦争が長期間続き、国土が荒れ、民は戦争に取られ農地が荒れ、

 食糧事情が非常に厳しい事を知っております。

 今年の冬を餓死者を出さずに越せるとは余には思えませぬ」

「戦いに犠牲はつきものであろう」



 宰相閣下の言葉に、顔には出さないが北の国のラリオロフ陛下は考える。

北の国は寒い国であるがゆえにより厳しい。

戦争を継続する力は残っているが、母国内の反動は大きくなる。

負け続きのまま継戦するより母国に戻って反乱を抑えた方が利がある。



「どうであろうか。

 両国に5年間の停戦に合意してもらえれば、ロイスター王国から食料支援を約束しよう。

 このまま継戦して民を餓死させ反乱されるか?

 ロイスター王国から食料支援を得て、内政に注力するか?

 別に両国に制約するつもりは無い。停戦期間が終われば両国とも好きにするが良い」

「・・・ふむ」

「我が国はまだまだ戦えるので停戦を受ける理由はありませぬ」

「聖王国側は南の異教徒国と局地戦とはいえ戦闘継続中であろう。

 国内に2つの戦線を持つ不利を、たかが数回の勝利でチャラにはできない。

 それを理解した議会を説得出来ればしてみるがよい」

「・・・しかし」

「もう一つ提案させて頂く。

 ロイスター王国の内戦に傭兵として来れるのであれば

 両国に正当な報酬を約束しましょう。

 正規軍はともかく、休戦中に傭兵を遊ばせておいても仕方がない。

 どうであろう」

「傭兵であるか?」

「余の国から見たら傭兵。内情は問わない。

 例えそれがどの様な実態であろうとも」



 宰相閣下の言葉に両国が考え込む。

今両国が欲しいのは食料と金である。

形はともかく宰相閣下の案を飲むか考える必要があった。



「良いだろう。朕は5年間の停戦に合意しよう。

 しかし宰相閣下。

 傭兵の報酬は確実に約束してもらえるのであろうな?」

「傭兵の件はロイスター王国としてではなく、

 余の公国から支払う事を約束する。

 ただし、余の傭兵としてではあるが」

「宰相閣下が担保して頂けるのであれば朕は問題ない」

「して聖王国は如何に?」

「前向きに聖王国で検討しよう。

 早急に議会に通し回答する」

「では1週間後に回答を望む」

「承知した」



 宰相閣下は両国に5年の休戦を提案した。

それぞれに利益をぶら下げて。

そして1週間後に両国は停戦に合意する事になる。

こうして、宰相閣下は後背の憂いを取り除き更に傭兵のあてを得る事が出来た。

これからロイスター王国内の新教徒側の反撃が始まるのであった。

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