3年戦争 伯都アントウェルペン攻城戦 ちゃー様と夜戦 その10
深夜になり、昼間の戦いに疲れてグリーヴィス軍が眠り始めた頃、
ちゃー様がヴァンパイア部隊を率いて夜襲に出る。
当然グリーヴィス軍は警戒しているだろうか。
「ちゃーの目標は、敵の大砲の破壊と砲兵の殲滅。
そして可能であれば敵の隊長クラスの首を取る」
「ちゃー様」
「なんだ?」
「敵将より砲兵が優先ですか?」
「そうだ。大砲が無くなれば城壁を破壊するのが困難になる。
援軍が来るまで耐えれば我らの勝ちである」
「承知しました」
「ゆくぞ。夜戦は我らが最強だ」
ちゃー様は巧みに地雷をすり抜けてグリーヴィス軍の陣地に侵入する。
夜のヴァンパイア部隊は非常に素早くしかも夜目が効く。
1対1で食い止める事は難しい。
「なっ!て・・・」
「・・・」
ちゃー様は敵の歩哨を無言で倒し、素早く侵入する。
砲台は常に最前線にいる必要があるため、敵陣の奥深くに侵入する必要がない。
今回は最大のターゲットとなる。
そして生き残っている砲台に火薬を詰めて、点火する。
轟音とともに大砲が破壊される。
もっともすべての大砲が破壊出来た訳ではなかった。
驚いた敵兵が集まってくる。
「敵兵のテントに火炎瓶を投げ込め。
慌てて出てきた無防備の敵を刺し殺せ」
静まり返った戦場が一気に豪火に包まれて敵兵が焼け死ぬ。
出てきた敵兵も鎧も付けていない。ヴァンパイア部隊に刺突されて死んでいく。
「この火炎瓶の効果は恐ろしいの」
「無限に持ってきている訳ではありません。ちゃー様」
「よし。雑魚は放置して敵の部隊長を狩るぞ」
グリーヴィス軍も夜襲は警戒していたであろう。
しかし前線の大砲を直接狙ってくるとは思っていなかった。
本陣の警戒を密にしていたが全ての場所を徹夜で守りきれる訳ではなかった。
「ちゃー様。
敵の本陣が見えます」
「深追いは厳禁である。
多数に少数だ。包囲されれば我らとて危険。
敵のマスケット兵が集合すれば銃撃されるぞ。
無理はするな」
「承知」
前線を攻撃し、グリーヴィス軍の残った大砲と砲兵を攻撃
電光石火の如く素早く目的を達成するちゃー様。
これが歴戦の勇者の凄さであった。ヴラド公の戦術でもゲリラ戦は強かった。
「敵が集まってきたな。
よし撤退するぞ。急げ」
「ちゃー様。承知」
「いくぞ」
目的は果たした、とばかりに撤退するちゃー様。
しかし後ろから松明を持って騎兵が追いかけてくる。
馬は人間よりかは夜目が効くが夜行性ではないために簡単ではない。
相当に訓練された兵であった。
「逃げ切れないか?」
「逃がすか!」
ちゃー様が後ろを警戒しながら逃げる。
いかに足が速くとも戦闘後には馬と比較すれば限度がある。
ここで戦闘すれば敵に追いつかれて苦戦する可能性が高い。
そうなれば包囲されて逆に殲滅させられるかもしれない。
そう思った瞬間に、前方から物凄い勢いで矢が飛んできて敵兵に刺さる。
死角からの矢を受けて、防ぐ事も躱す事も出来ずに敵兵は落馬する。
もちろん、双子エルフの弓であった。
遠方からでも夜間でも外さない。
まさに神業の弓であった。
「シルヴィにティアナか。
まさに神業だの。助かる」
「夜間でも外しませぬな。流石は天使。
敵に回したらと思うと恐ろしいですな」
「ちゃーもそう思う」
なんとか城壁に近づくと、敵の馬がマキビシに刺さり転倒する。
事前に設置したマキビシは馬には非常に効果的であった。
こうして、ちゃー様は無事夜襲に成功し敵の大砲は破壊された。
グリーヴィス軍の大砲は全て破壊された訳ではなかったが、
単発の砲撃になり、集中砲撃は困難になっていた。
エリオス君は気づいていなかったが、事実上戦力にならなくなっていた。
そしてグリーヴィス軍は夜襲を警戒する必要になり、十分に兵を休める事が出来なくなった。
こうして攻城戦は少し防御側にも有利な所が出てくるのであった。