3年戦争 伯都アントウェルペン攻城戦 土木戦 その9
「敵兵が城壁を突破しました」
「・・・くっ」
グリーヴィス軍の兵が城壁を突破したと伝令があり、周囲に緊張が走る。
驚いてとっさに言葉が出なくなったエリオス君。
指揮官が動けない。この雰囲気はマズイ。
「ここは私に任せろ。私に続け」
「・・・スミマセン」
「しっかり敵を見張っていろよ」
エリート部隊のコネット中佐がエリオス君の代わりに声を上げた。
指揮官として常に事態に対応出来ねばならない。
エリオス君は己の未熟さを恥じた。
沢山の命を背負っている事に変わりはないのだ。
「エリオス様」
「シルヴィ君」
「我らにお任せを。
一人で背負う必要はありません」
「うん」
「そうよ。お任せあれ」
「ティアナさんも」
双子エルフがやってきてエリオス君のカバーに入る。
エリオス君は考える時間を得る事が出来て、作戦を練り直す。
状況を振り返る。
時間は午後に入り、このまま頑張れば日没まで耐えられそうだ。
「・・・よし。
もう少しの我慢で日が暮れる。
敵は夜戦にするか撤退するかだろう。
危険を犯しても夜戦するなら、ヴァンパイア隊で対抗して殲滅する」
「そうでなければ・・・どうするのですか?」
「内に塹壕、外に夜襲、そして土木戦」
「?」
エリオス君は作戦をちゃー殿に伝えに行く。
前線は戦闘中であったが、マスケット兵の一斉射撃と反撃で食い止める事に成功していた。
そこをちゃー殿率いるヴァンパイア部隊が敵に斬り込みにかかる。
血みどろの激戦の中、それでもこれ以上の敵の侵入を何とか防いでいる。
グリーヴィス軍は夜になると撤退し始めた。
ヴァンパイアは夜にとても強いので警戒したのだろうと推定された。
そしてエリオス君は土木復旧作業の指示をする。
ここからが本領発揮である。
崩れた壁はレンガなどで埋めて塞ぐ。
土嚢を大量に作って壁代わりにする。
しっかり丁寧に積めば簡単には崩れない。
しかし力づくで突破される可能性はもちろんある。
であれば馬が通れない様にマキビシを大量に撒く。
次に地雷を大量に設置した。地面に穴を掘り火薬を詰める。
地雷と言っても現在の様な信管は無いので発火式である。
雨が降ると役に立たないが、即席では仕方がない。
エルフの火矢で遠距離から発動させる事にする。
これは神業の弓の技術を持つ双子エルフだから出来る技でもあった。
攻撃の手段として侵入される前に攻撃したいので
大砲の位置を密かに移動する。
敵が安全だろうと思った角度から砲撃する。
そして火炎瓶とエルフの矢に付けられる爆薬を作る指示を出した。
防御の手段として城壁の内側に塹壕を掘り続けた。
敵が侵入しても塹壕で進路を阻みながらマスケット兵で銃撃する。
そして土嚢で簡易トーチカも作った。
簡易トーチカから銃撃や大砲で攻撃する事で身を守りながら食い止める。
他にも日本の攻城戦を参考に逆茂木を城外に密かに設置する。
敵の侵入を尖った木で妨害する。
手間取った敵を狙撃する古くからある方策である。
この時エリオス君は気づいていなかったが、
敵の大砲はエルフの矢と高台に置いた大砲の反撃でかなりが戦闘不能になっていた。
特に砲兵の被害は甚大で、かなりの数が戦闘不能になっていた。
そして残った砲兵も・・・
「作業は交代で、半分は休ませてしっかり体力を回復させて下さい」
エリオス君が巡回しながら指示を出す。
そして深夜になる前に交代で休む事にした。
しかし夜遅くにヴァンパイア部隊が逆襲をはかる事になる。