3年戦争 砂糖の町「ルガリーン窓外投擲事件」 その1
ここは伯爵領と王都の国境沿いそして国際河川ダーヌビウス川があり
とある工場のある小さな郊外の町。
そう、未来に砂糖の町と呼ばれる場所である。
現在はルガリーンの町と呼ばれるようになった。
現在は工場が休止中であるが、建設中の小さな砦があり
アーシャネット大佐率いる1,500名の兵士が派遣されて防衛している。
アナトハイム伯爵領の守りの拠点として防御を固めようという準備を進めている。
「何が起きている?」
「ハッ。大佐。
新教徒の下級貴族と商人が町中で大騒ぎしております」
「例の工場の件だな。
分かった。行こう」
アーシャネット大佐は少数の部下を連れて砦を出て町に向かう。
暴動の首謀者は顔見知りの1貴族であった。
どうやら嗜好品が手に入らなくてイライラしている。
この時代でなければ良くある光景かもしれなかった。
「何をしている」
「例の工場が閉鎖されて砂糖が入手出来ません。
我慢なりません。抗議します」
「今は状況が悪い。
伯爵様にお任せして今日は解散しろ」
「公爵家は横暴です」
アーシャネット大佐が群衆に解散指示を出すが、状況は混沌としており
収拾がつかなくなりつつある。
日頃の不満が溜まっている証拠だ。
しかしそれとは別の問題が起きていた。
アーシャネット大佐が外出したと入れ替わりでグリーヴィス公爵家の使いが
砦に来ていたのだ。当然抗議の内容である。
「貴様ら、田舎者はこの町を公爵様に明け渡して出ていくが良い」
「ここは正式にアナトハイム伯爵様の領地である。
無礼であるぞ」
「無礼はそちらだ田舎者。
グリーヴィス公爵様に歯向かうか?」
グリーヴィス公爵家の使者が無理難題を言う。
当然挑発が目的であった。
無理難題をアーシャネット大佐代理の騎士に言って砦を明け渡させようとしている。
暴論であるが、脅迫であった。
ここでアーシャネット大佐がいれば状況は変わったかもしれない。
しかし、運悪く不在であった。
これが時代の分かれ目となってしまうのだった。
「エリカ姫様を拉致し、
公爵様の資産を略奪し、
神の使いである教会を追放する異教徒ども。
新教徒共。
貴様らは犯罪者の集団である」
「・・・なんだって?」
始めはただの売り言葉に買い言葉であっただろう。
しかしグリーヴィス公爵家の使者の言動が常軌を逸していた。
挑発が目的だったのだろう。
怒りに満ちたアーシャネット大佐の部下は暴力に出た。
グリーヴィス公爵家の使いを包囲し、拿捕してしまった。
そして暴挙に出る。
「こいつらを突き落とせ」
「我ら公爵家に歯向かうのか?」
「問答無用だ。
ここはアナトハイム伯爵様の領地だ。
侵略者はお前らだ」
「止めろ。不届き者共が」
グリーヴィス公爵家の使者を砦の窓から突き落としてしまった。
幸いにも使者は肥溜めの落ちて、一命を取り留めた。
後世にはこれを「ルガリーン窓外投擲事件」と呼ばれる事になる。
ここから大きく歴史は動いてしまうことになる。
「馬鹿な・・・
何という事を」
後で報告を聞いたアーシャネット大佐は愕然とする。
なぜこの時にこのタイミングで事を起こしてしまったのか?と。
そして交渉が決裂する事を前提として、グリーヴィス公爵家は密かに軍を集めていた。
沈静化させる時間をアナトハイム伯爵家には与えられていなかったのだった。