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教会領の回復令

「号外だーーー」



 ギルドの新聞社が号外を発行して配っている。

何事か?ともらって読むエリオス君。

そこに書いてあった言葉が、



「国王が教会の回復令に署名」



 最初は意味が分からなかったエリオス君。

何が起きたのであろうか?と。

号外として新聞が報じるからにはそれなりに大事なのだろうが、

肝心の内容がちゃんと書かれていない様に思えた。



「エリオス殿。

 ここにいましたか」

「ハイ。エリオスです。

 どうかなさいましたか?」

「伯爵様がお呼びです。

 直ちに館に来るように、と」

「・・・承知しました」



 伯爵様からの呼び出しでこれは只事ではない、と判断したエリオス君。

早速、伯爵様の館へ向かうエリオス君。

これがロイスター王国を揺るがすほどの意味を持つのであろうか?

そこには頭を抱えて悩んでいる伯爵様の姿があった。



「伯爵様。遅くなりました。エリオスです」

「来たか。内政官殿。

 早速だがこの回復令の話だ」

「町中でも新聞の号外が配られていました」



 伯爵様がこの回復令について説明する。

どうやら、没収した旧教徒の教会の領地を強制的に戻せという王令らしい。

これには国内の貴族の大きな反発が予想される。

なにせ彼らはほとんど自己の利益の為だけに新教徒になった貴族達だからだ。

当然、アナトハイム伯爵家も似たようなものである。



「これには参ったな。今更教会に財産を戻せとは。

 余は賛同できん」

「国王陛下も思い切った事をしますね」

「当然帝国議会で審議だ。

 貴族連合で否決させる。

 でなければ戦争だ」

「・・・それほどの話ですか?」



 帝国議会は本来、異教徒戦争税などお金に関わる事を議論する場でもあった。

説明して納得させないと諸侯が言うことを聞かなくなるからである。

しかし独立して分断してしまう恐れのなる諸貴族を繋ぎ止めておく唯一の手段でもあった。

王家が絶対王政とも言えるほどの軍事力と権力を持っていなかった時代の話である。

圧倒的軍事力がもしあれば、帝国議会など必要ないであろう。


 伯爵様の言葉の戦争、という重さに騒然とするエリオス君。

何もそこまで?と思わなくないが問題の根は深そうである。



「余もそうだが、教会の資産を接収した貴族は多い。

 一番大きい貴族は宰相閣下だろう。

 グリーヴィス公爵家の所は、今はあの若造か。

 あそこは賛同するだろう」

「大貴族が2つに分かれるのですね。

 国内が二分化されてしまいますな」

「だから大事なのだ」



 悩ましい伯爵様を裏腹にどうするかを考えるエリオス君。

実際の所、旧教徒を選ぶか新教徒を選ぶかは、

領主の貴族の判断に委ねられていて個人は全く関係がなかった。



「実際の所、帝国議会に審議をしても負けるのではないですか?」

「そう思うか?」

「王家とグリーヴィス公爵家は賛同。

 投票権のある大司教は当然賛同に出るでしょう。

 それで過半数になりませんか?」

「・・・十分ありえるな。

 しかしまだ決まったわけではない。

 王家の権力が増大する事に良しとは思えないだろう」

「王家の権力・・・ですか?」

「そうだ。

 これは国内の貴族の力を削ぎ、

 新教徒を弾圧する政策である。

 軍事力で王家が強いという前提であるが、

 グリーヴィス公爵家が賛同すれば対抗は難しくなる」



 新教徒を弾圧、という言葉に反応するエリオス君。

それは困る。商人には意外と新教徒が多い。

史実ではプロテスタントの特にカルヴァン派は、

予定説から仕事は神の教えであると解釈された事から商人も多かった。

ドイツの社会学者マックス・ウェーバーの説である。


 エリオス君の知人も魔王国のロザリーナお嬢様を始めとして、

新教徒も多い。彼らが離反しては実は困るのである。



「伯爵様」

「なんだ」

「本件はどちらかというと王家の、と言うより教会からの要請である気がします」

「例の宗教問題の件で教会から突かれたのであろうか。

 このままでは旧教徒はこの国では衰退していくであろうからな」

「教皇側の差し金でしょうか?」

「余には分からぬが、どうも怪しい」

「結局まずは帝国議会でしょうか」

「その可能性は高いな。多数派工作が行われているであろう。

 それで纏まらなければ戦争の可能性もある」

「戦争は避けたい所ではあります」

「余も同意見だ」



 宗教問題に金がからむと面倒な政治問題になる。

特に金持ちを宗教弾圧しはじめると、当然国外逃亡し

力のある資本家が他国で産業を発展させる。

次第に国家の経済力の一端になり、世界のパワーバランスさえも

影響を及ぼしてしまうかもしれない。

受けれる国は良いが出ていく国は税収に影響が出るので

伯爵様とエリオス君にとって困る事態が予想されていた。

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