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北国の野獣 ラリオロフ陛下

 エリオス君は伯爵様に急に呼び出される事になった。

どうやら来客が来ているらしい。



「遅いぞ。内政官殿」

「も、申し訳ございません。伯爵様」

「まあ緊急の用事だから仕方のない。だが先方の要望なのだ」



 何やら緊張した顔色が珍しい伯爵様であった。

いつもは不敵な顔をする伯爵様も今日は落ち着かない様子である。

その来客に原因がある様子だと理解したエリオス君である。



「そちらがかの有名な、

 アナトハイム卿の内政官殿か」

「ハイ。エリオスです」



 来客とはどう見ても豪勢な服装を来た貴族の様に見えた。

黒い熊の毛皮のコートを来ていて実に派手である。

顔に傷があり、片目を失っている。

非常にダンディでこちらを目踏みするかの様な鋭い眼光で見ていた。


 武人である。

それも歴戦の、ただものではない。

その威厳と迫力に圧倒しかけた。

エリオス君はこれほどの武人を見るのはめったに無いであろうと驚いた。



「こちらは北国の国王陛下。ラリオロフ陛下である」

「陛下・・・

 ラリオロフ様」

「そうだ。朕はラリオロフである」

「まさか、あの手紙の?」

「よく気がついたな」



 ガハハと笑うラリオロフ陛下。

顔が引きつっている伯爵様とエリオス君。

国王陛下がわざわざ辺境のしかも他国の田舎貴族に会いに来ているのだ。

大胆すぎる行動である。

城に引きこもるロイスター王家とは大きな違いであった。



「今日、ここに来たのはかの有名なアナトハイム卿にお会いする事と」

「そこの内政官殿を見るためですかな?」

「そうだ。朕は卿らに興味がある。

 これが南の異教徒戦争の英雄か。

 実に興味深い」

「光栄です」



 警戒しながら伯爵様が答える。

相手の真意は何であるか?読み間違えれば大事である。

注意して探る伯爵様とエリオス君。



「戦の話は興味があるので後ほど聞きたいものだ」

「何なりと、陛下」

「そしてこの領地で起きている事には大変興味がある。

 他国では決して起きないであろう事が多い」

「・・・」

「特に魔王国であるがな」



 魔王国が関心の一つであれば軍事面であろうか?

魔王国が北の海の制海権を取れば、周辺諸国に脅威なのは間違いない。

魔王国は古来から宗教の敵である。

敵と手を結ぶ行為が周辺諸国を刺激する事は間違いない



「して、卿らに聞きたい」

「何なりと、陛下」

「卿らは新教徒をどう思うか」



 大胆な発言である。

エリオス君と伯爵様は顔色を変える。

流石の伯爵様も得意のポーカーフェイスを維持出来なかった。

注意して返答する。



「・・・余は旧教徒であるが、新教徒も等しく余の大事な領民である。

 例え保護することはあっても弾圧することなどはしない」

「ガハハ。

 そうであろうそうであろう。

 卿らはあの魔王国と手を組むほどの連中だからな。

 して卿は領内の金にうるさいくそ坊主どもを追放したな。

 朕は知っておるぞ」

「・・・」



 ラリオロフ陛下は途端に顔色を良くして笑う

教皇派で免罪符を販売していた教会関係者を伯爵様が領地内から追放した事を知っていた。

敬虔な旧教徒なら絶対にそんな事は出来ないであろう、と。


 しかし伯爵様とエリオス君の警戒心は上がる。

核心が宗教問題なら油断は出来ないのだ。

一つ間違えば宗教戦争である。

異端から教敵呼ばわりされてもおかしくはない。

現に魔王国と非常に繋がりが深い。



「実はな、朕は卿らを見込んで同盟を結びたいと思っておる」

「同盟、でございますか」

「そうだ。

 同盟だ。朕と卿らの3人だけの同盟だ」

「・・・同盟であればロイスター国王陛下の権限。

 余が口を挟む事など恐れ多い事でございます」

「フン。心の底からの旧教徒の奴らなど信用出来ぬわ。

 大破門された奴も卿らの関係者であろう。

 たしか「贖宥の効力を明らかにするための討論」であったか?

 実に見事な正論である。

 卿らだけならまだ信頼できる根拠である」

「・・・」



  伯爵様とエリオス君は一部を理解した表情になって、

目をつぶって考える。

そちらに興味がある関係者であったか。

余計に面倒である。



「内政官殿。どうであろうか?」

「悪い話ではありません。伯爵様」

「ほう」

「余に説明せよ」

「御仁の目の前で、・・・よろしいので?」

「良い」


「北国と東の聖王国は、距離があり離れておりますが、

 東の聖王国の王位継承権を巡って戦争中でございます」

「・・・」

「王族はだいたい、政略結婚で親族でありますので珍しくはありません。

 我が国と魔王国が共同で北の海の制海権を取り海上を封鎖すれば、

 北国は東の聖王国への補給線を断たれ窮地に陥ります」



 エリオス君が現状を説明する。

それは有名な話であるので多くの人が知っていた事実である。

続けて説明する。



「我らと少なくとも好意的中立を保ち、東の聖王国への牽制になれば

 北国は多方面作戦を防ぎ有利に働きます。

 我らも国内の宗教問題への牽制にもなります」

「ウィルエル神父の件か」

「南の異教徒との停戦期間が切れる前に

 国内の平和を保ち軍備を整える事が最優先であります。

 我が国の敵は北ではなく南でございます」

「・・・そうだな」


「間違ってはおらぬが、朕の真意はそこではない」

「・・・」

「この旧教徒による新教徒への弾圧は

 間違いだと奴らに気づかせる為に、

 最終的に信仰の自由を新教徒にもたらす世界が朕の希望だ。

 卿らの関係者の神父の様にな」

「しかし」

「卿らはどちらの視点も選べる立場だ。

 しかしあの噂の魔王国の娘が卿らに懐くほどに奴らにも好意的であろう。

 実に興味深い」

「陛下。余は東の聖王国と問題を起こす気はありませぬ。

 貴国から見て同盟に値しないと思われます」

「その様な目先の事は本質ではない。

 朕は現状では無く未来を見ておるのだ。

 まあ良い。時間は十分ある。

 ゆっくりと考えてくれ」



 ラリオロフ陛下は笑いながら答える。

本来であれば旧教徒から見たら言語道断であろうが、

伯爵様は意に介さない。

それが答えでもあるように見えたからだ。

伯爵様がラリオロフ陛下に聞こえないようにつぶやく。



「これが北国の野獣か・・・」


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