高炉建築 初期流動指定 管理者目線と作業者目線 その4
なぜなぜ分析を作成して優先順位付けと改善活動をすすめる。
そしてそのなぜなぜ分析を集めて、技術者と会話するエリオス君。
「技術者の皆さんに集まってもらいました。
以前作成したFMEAは不十分です。
とは言え、実際に動かしてみないと分からない所は多々ありました」
「・・・何でそうなったのでしょうか?」
「現場は我々の常識で判断出来ない行動をします。
改善しましょう」
納得がいかない技術者もいたが、
現場をよく分かっているエリオス君はいつもの事なので
諦めない。まずは説明が必要だろうが。
経験の浅い人に説明するのも難しいのである。
「作業要領書通りに現場が作業しないんですが。エリオスさん」
「作業要領書が面倒くさい作業なんですよ。多分。
そこは現地で考えるしかないです」
「品質とか安全とか考えると、守らないといけないのでは?」
「現場は常識が通用しません。
作業者目線で考えましょう。
より楽な方に向かってしまうのは良くある話です」
「しかしそれでは、事故になってしまう」
「良くある話です。きっちりリスクを抽出して改善です」
技術者も自分が考えた作業を否定されるので、
エリオス君に文句を言いたくなる。
確かにそれは分かるエリオス君。
しかし、世の中安全を無視してでも楽したい人はいるのである。
例えば、道路をショートカットしたり信号無視したり速度違反したり。
必ずしも事故になる訳ではないが、いつかは怪我をする。
現代日本ですら交通事故は無くならない。
ましてや現場なんて厳罰が無い。当たり前である。
「作業者目線ってどういう意味ですか?」
「良い質問ですね。
現場では管理者目線と作業者目線があります。
管理者はコスト、品質などからどんどん新しい仕事を作り出します。
またチェックリストなどを増やしたりして作業を面倒くさい方向に複雑化させます。
実際に改善したりする所も勿論あるのですが、現場の作業者は大変になります。
すると、無視して勝手にオリジナルの作業をしだします」
「今の状況ですね。
それで不良や事故が起きたり」
「でもそれは普通です。
人間やりたくない事はやりたくないのです」
「どうするのですか?」
技術者と問答するエリオス君。
やはり改善やリスク抽出は難しいのである。
作業者も人なので嫌なものはやりたくない。
しかしそこはエリオス君も経験がある。
技術者に説明する。
「まずは作業者目線で考えます。
作業者目線とは何ですか?皆さん分かりますか?」
「よく分かりません。エリオスさん」
「作業者目線とは実際に現場で作業する人の立場で考える事です。
その言葉だけではよく分かりませんね。
実例をあげてみます」
「???」
「例えば・・・」
エリオス君は何か実例になりそうな物が無いか、
現場に移動して周囲を見て確認する。
ふと気づくエリオス君。
原材料や治工具を運搬している作業を見た。
あれは重いものを運ぶ時は確かに面倒くさそうだ。
落としたり怪我するかもしれない。
良い実例と思ったので技術者にやらせてみる事にする。
「皆さん。
あそこにある治工具を向こうにある現場まで
手で持ち上げて運搬して運んでみて下さい」
「・・・これは重たいですね。結構重労働です」
「手で持ち上げて運んでもらったのは、
傷や汚れ防止、という理由にしておきます。
確かに重労働です。
落として怪我したり破損するかもしれません」
「・・・持ち上げるのは面倒なので引きずっていきます」
「持ち上げる作業を続けると腰痛にもなりますし。
楽をしたくなりますよね。
しかし引きづっていくと壊れたり汚れたりして異物が仮に高炉内にはいると
ひょっとしたら火災になりかねません。
それは良くある事です」
「ありえますね。エリオスさん」
実際に技術者に作業させてみて考えさせるエリオス君。
回答は一つでは無いのである。
色々な立場視点からゆっくり考えさせる必要がある。
作業者目線というのは難しいのである。
それは既存の常識を超えなければならないからだ。
「現場作業者は出来るだけ重労働はしたくないのです。
ならどうしますか?」
「台車で運べばいいですね?」
「それは現在の作業ですが、
運搬回数が多いと台車に沢山積んで、落としたりします。
また別の要因で怪我や破損のリスクですね」
「・・・」
技術者は再び悩む。
そうは言ってもやれる事はそんなには思いつかない。
しかし物を運ぶだけなら誰でも経験している。
考えやすいだろうと、エリオス君は思ったのだ。
「・・・レールを敷いて、そこに大きな台車と治具で倒れないように固定します。
それなら押すだけで大丈夫です」
「ありがとうございます。
それも一つの回答ですね。
大変素晴らしいです」
「エリオスさんはどう考えますか?」
「沢山積みたくなるので、
載りすぎない様に治具の高さと幅を固定します。
レールに少しだけ傾斜を付けて台車を動かしやすくします。
他にも動力を考えます。
水車を動力にするとか、動物を使って運搬するとか」
「・・・なるほど」
「それは一つの事例に過ぎません。 一つの回答に過ぎません。
回答は無限にあるかもしれません」
エリオス君は説明する。
作業者の考えとはまず楽したい。
苦しい作業を減らしたい。
早く作業を終わらしたい。
面倒な事はしたくない。
それが優先されるので管理者の目線と違う事は珍しくない。
「つまりですね。
改善というのは最終的に現場が納得して、
使いたいと思わせる必要があります。
現場に自分で考えさせるんです。
自分たちでやりやすい作業を自分たちで考えて納得してもらう。
そうしないとせっかく技術者の皆さんが考えた対策を誰も実行しません。
困りごとを皆で協力して改善する姿勢を作ります。
意見を出すために複数の部署でチームを組んでもらったのはそういう意図があります」
「なるほど」
「最終的には現場が自分でやりたい作業を皆で考えて決める。
しかし課題は沢山出てくるのですが」
エリオス君は説明したが、納得しない技術者が質問してくる。
そういつもうまくいくとは限らない。
問題は沢山出てくるのである。
「エリオスさん。
それには問題があるんじゃないですか?」
「ええ」
「それだけでは不良や事故は多分なくなりませんよね」
「そうですね。
作業者はまず自分が楽になる事を最優先で考えます。
しかし品質や安全は二の次になる事が多いのです」
「・・・」
「管理者とは作業を与えるもの、作業者とは作業をやらされるもの。
つまり品質や安全のためにやってもらう事はやってもらわなければなりません」
「それはどうするんですか?」
「それは結構難しい話になるんですが・・・また説明します。
技術者としてはまずリスクからFMEAを見直しましょう。
それを発見する作業を繰り返しお願いします。」
なかなか鋭い質問にちょっと焦るエリオス君。
そうなのだ。作業者目線は重要だが、
それだけでは改善は足りないのかもしれない。
技術者としても納得出来ない所はあるだろう。
それは仕組みで改善していくしかなかった。