高炉建築 初期流動指定 なぜなぜ分析再び その3
「こんな所かな?」
「こんなに不具合ありましたか。エリオスさん」
びっしり埋め尽くされたMP情報リストを眺めて悦に浸るエリオス君と
若干引き気味のラスティン先輩。
不具合とは改善すればお金に変換できる金の卵。
常に悩める現場への救世主になれるチャンスである。
それは現場からみたら神に等しい存在である。
そして手の空いている人、間接部門、技術者、大学の学生教員、貴族の派遣員、
ありとあらゆる人材を集めてくるエリオス君。
人材育成を兼ねて人海戦術に着手する。
こういう機会を仕掛けていく事が組織を強くするのであった。
「エリオス副社長。これからいったい何があるのですか?」
「皆さん。聞いてください。
今、我らが高炉は危機に瀕しています。
生産できるかどうか、この会社が成立するかどうか、
この国の国家プロジェクト存亡の危機であります」
「ざわざわ」
エリオス君の発言に大騒ぎする職員の皆様。
いったいこれから何があるのであろうか。
そしてこの副社長は何をしたいのであろうか。
一同が疑惑の目でエリオス君を見つめる。
そして一言、こう言う。
「皆さん。
部署が違う人で5人組を作って下さい。
その5人で改善活動を行います」
「違う部署で5人ですか?」
「そうです。
今から皆さんに5人でなぜなぜ分析を行ってもらいます。
そして点数の高い、優先順位の高い課題から改善活動をお願いします。
総力を結集します。
これが我が会社を救うもっとも近い方法です」
「・・・なぜなぜ分析???」
唐突になぜなぜ分析を宣言するエリオス君。
技術者の一部はともかく、一般の職員にはなぜなぜ分析とはなんの事か理解できない。
呆然としてエリオス君を見る。
一体何をしたいのだろうか、と。
「さあ早く5人組を作って下さい。
これからその5人が運命共同体です。
早く早く」
「・・・」
エリオス君に急かされて5人組を作る一同。
中には嫌々という人もいるだろう。
そこは副社長権限で無理を通す。
「ではなぜなぜ分析を説明します。
まずはこの抽出したMP情報リストの中身から重要度の高いものから
皆さんに1つ選んで頂き、
何故?を考えてもらいます」
「・・・何故?」
「そうです。
例えば、一例ですが
転んだ→何故?→道に凹凸があった→何故?→道路を舗装していなかった・・・
みたいな感じで、何故を皆で考えていきます。
これをおおよそ5回前後繰り返します」
「・・・眠かったとかは?」
「個人の精神状況や理由になるものは除外して下さい。
あくまでも誰でも起こり得る現象を優先して下さい」
「・・・よく分かりませんが、試しにやってみます」
「一旦やってみてから、僕がチェックしますので考えましょう」
副社長権限で動員してなぜなぜ分析を行うエリオス君。
なぜなぜ分析はトヨタ生産方式から採用された全世界で使われている立派なQCツール。
天才は時々、過程を無視して直接結論を導き出せる人材が時々いるが
そればプロセスが頭の中で自動的に取捨選択されているからである。
なぜなぜ分析はそんな天才の思考プロセスを誰でも出来るツールに変換した
分析方法である。なぜなぜ分析を発明した人もまた天才であった。
諸外国が何故日本の製造業を恐れるのか?
トヨタいや日本人の技術者のものづくりへの情熱と発想力は本当に恐ろしいのである。
「沢山出てきそうなんですけど、これをどうするんですか?
エリオス副社長」
「まずは1つのMP情報に対して30〜40項目のなぜを皆で書き出して下さい。
時間はかかるかもしれませんが頑張って皆でやって下さい。
そしてその中からざっくりと優先順位を付けます。
・影響度
・発生率
・頻度
それをおおよそ10段階評価の数字で決めて掛け算して下さい。
その数字が高い項目から改善活動を行います」
「・・・よく分かりません」
「ようは重要だと思われるなぜから改善するんです。
そのために
「それで上手くいくのですか?」
「僕の経験上、優先順位の高い項目の3〜4つを改善すると
ツボにヒットして再発しなくなります。
やみくもに適当に思いつきで行動するより余程効率がよくなります。
そういうツールです。
ではお願いします」
なぜなぜ分析を作るには慣れるまでとても時間がかかる。
経験がものを言う作業である。
しかし繰り返し練習すれば誰でも出来るツールとして全世界に広まっている。
だからこそ、人と時間を大量に使ってでもなぜなぜ分析を行うのである。
当然、慣れれば改善のプロセスが身につくので人材育成に抜群である。
経験上、なぜなぜ分析を面倒くさがって嫌がる組織は不具合や不良が多い。
時間をかけて数をこなさなければ改善や人材育成出来ないという事を理解していないのだ。
「エリオスさん。これでどうですか?」
「エリオス副社長。どこまでなぜを出せば良いんですか?」
「エリオス殿。このなぜは使っても良いですか?」
「エリオス様。なぜって何ですか?」
「エリオス君。この人は徹夜して飲酒して遊んでいたのでは???」「個人の問題で片付けては駄目です」
「エリオスさん。
この作業が僕らにはわからないのですが」
「一度現場で見てきて下さい。
想像だけで考えるのは絶対にNGです。
分からなければ、自分で試しに作業してみてください。
全ては現場に答えがあります」
「・・・承知しました。
皆。現場に見に行くぞ」
四苦八苦しながら何故を考える。
当然、現場がどんな環境でどんな作業をしているか分からなければ書けない。
現地で見て、作業して、学んでなぜを考えるのである。
もちろん事務作業員にはそれが苦痛かもしれないが、
現地現物現状原理には勝てないのである。
設備、人、治工具、作業、環境、方法、作業員の性格、体調・・・などなど。
全ては未知の領域なのである。
現場そこには人知を超越した事象が起きている、
常識では起こり得ない事が起こっているワンダーランドである。
全ての常識は思い込みで一蹴されてしまう。
「まさか現場ではこんな事が起きていたとは・・・」
「おい作業中に居眠りするな」
「手すりが汚れているぞ。滑ったら危ないだろ」
「原料に変な異物を混ぜるな」
「排ガスを吸うな。
常に口鼻を布で覆え」
「・・・」
「なんだとお前ら」
「現場をなんだと思っているんだ」
「文句あるなら自分で作業をしてみろ」
「いちいちうるさい連中だ」
「邪魔するな。忙しいんだ。出ていけ」
当然、不具合は現場の日常であり、
嫌々ながらも作業しているのが現場である。
場合によっては喧嘩になるのも日常茶飯事である。
事件は現場で起きている。
それは現場に通って、自分で作業してみなければ分からない。
現場とは実に奇妙なワンダーランドだからだ。
こうして間接部門は現場を学ぶ。
そして手を汚しながら作業してその嫌さ加減を理解しなければ
組織は何も成長しない。
その嫌さ加減にお金と人をかけて改善して、
少しでも作業のやりやすい、安全で、ロスの少ない現場を作り出す。
改善とは管理職や間接部門を含めた全員参加が原則であった。