宗教改革 襲撃 その7
「エリオス殿。周囲を囲まれておるぞ」
ちゃー様が言い放つ。
武人たちが警戒する。
相当の数であろうか、人数がわからない。
当然狙いはウィリエルさんであろう。
闇の中から声が聞こえてきた。
「アナトハイム伯爵家の連中よ。
我らの望みはそいつだ。
大人しくそいつを渡せば命だけは助けてやる」
「断る」
「ちょっと!」
「この人数差でもそう思うか?
無謀は勇猛とは違うぞ」
エリオス君が答える前に、ロザリーナお嬢様が答えてしまう。
こういう争いごとは大好物であろうか。
交渉を諦めた伯爵家一同は抜刀する。
もっとも最初から脳筋武闘派を集めているので、交渉の余地など無かったであろうか。
「妾の名は、ロザリーナ・フォン・ルシフェル。
かの異教徒共の戦争で名は聞いておるの?
我が騎兵隊は無敵じゃ」
「・・・今は騎兵いませんけどね」
「エリオス。そんなツッコミをするでない」
「まあちゃーも少し遊んでやるか」
「英雄殿。私も共に参ります」
「小僧共。この人数差を相手にやるというのか?
上等だ」
襲撃者と伯爵家の戦闘になった。
最初は集まる敵を切り倒すが、敵が隊列を作り長槍で陣形を構築すると
射程の短い剣で武装した伯爵家の武人でも簡単には撃退出来なくなってきた。
はじめは個々の武力に優れる伯爵家が優勢であったが、
段々と疲れが出てきて押され始めてきた。
「こいつら、雑魚ではないの。正規の軍隊じゃ」
「一体どれだけの数がいるんだ」
「敵に背を見せるでない。
ウィリエル殿を守れ」
「私達におまかせを」
双子エルフが盾になり弓と剣で応戦する。
一進一退の攻防になる。
敵兵の死体が積み上げられても双方一歩もひかない。
さながら地獄絵図であった。
しかし敵は引かない。
相当鍛えられているのであろうか。
隊列を作り仲間の死体を超えてくる。
相当に訓練されていなければ逃亡者が出て出来ない。
当然の事ながら、帝国議会の判決があり警察や軍隊は集まってこない。
「・・・エリオス殿。多数に無勢じゃ。
ここは退くぞ」
「敵はそれ程ですか」
「まさか軍隊を連れてくるとはの。包囲されたら終わりじゃ。
一軍を相手にするのはこの少数ではちゃーでも不利じゃ」
「・・・まさか、そんな」
弱気になるちゃー様を見て戦慄するエリオス君。
これほどの武人が弱気を見せるのは初めてである。
しかし体力には限界がある。
交戦せずに逃げられるならそれに越した事はない。
「ニーナさん、シルヴィ君、ティアナさん。
陣形に穴を開けて突破する。魔法で突破口を作れないか」
「魔法は多用出来ないわ。
一度しか出来ないわ」
「やるしかない。ここで逃亡する」
そう覚悟を決める。しかし状況は側面から援軍がやってきた。
伯爵家ではない。謎の一軍であった。
敵か味方かわからない。
道が出来た。逃亡出来るかも知れない
「援護する。こっちだ。急げ」
「・・・援護感謝する」
「早く、離脱するぞ」
新たにやってきた仮面を被った男が言う。
どこかで聞き覚えのある声に聞こえたが誰かまでは分からない。
しかしこの状況下では他に選択肢の余地は無さそうにエリオス君には思えた。
千載一遇のチャンスに逃亡する事に決めるエリオス君。
「この屋敷に入れ。
ここなら治外法権だ。奴らは入れない」
「・・・この建屋は、確か。そんな」
そこにはエリオス君の思いもしない事態が待ち構えていたのだった。