宗教改革 帝国議会 その6
このウィリエルさんの行動が新聞に書かれて国内外に広まると
大反響があり、ロイスター王国の世論を大きく揺り動かした。
特に教会法を焼き尽くす事は当時の絶対である常識を覆す事であった。
教会は怒り、ウィリエルさんを批難する。
教会の集金活動に辟易していた民衆は大喜びする。
民衆からしたら宗教論争などただの娯楽の一部に過ぎない。
教会は異端を自ら罰する事はしない。
基本は世俗の権力者の役割であった。つまりロイスター王家である。
この事態を重く見たロイスター王家は帝国議会を開催する事を決定する。
帝国議会において、ウィリエルさんを審議するのである。
「ついに来ましたか。帝国議会」
「エリオスさん。私には恐れるものなどありません」
「まあ、ウィリエルさんはそうかもしれませんが・・・」
もはや運命を切り開くべく疑いもしないウィリエルさんと
混迷を極める事態に頭を抱えるエリオスくんの相対する姿があった。
そして帝国議会当日。
国王陛下ならびに大貴族が帝国議会に招集された。
当然、教会や商会など含め400人ほどである。
「お前がウィリエルか」
「如何にも。ウィリエルです
国王陛下」
「ここに招聘された理由は分かっているな?
教会から異端を認定されたためである」
「・・・」
そして机が運ばれて、ウィリエルさんの著書や論文が机に並べられる。
どれも見覚えのある書物であった。
その中に例の「贖宥の効力を明らかにするための討論」もあった。
「これはお前の著書で間違いないか」
「間違いありません。陛下」
「その著書の内容はお前の考えか」
「相違ありません」
「朕は民を大切にする国王でありたい。
しかし異端は問題である。
慣習に従いお前を喚問する。
お前は自論を捨て、教会の弁明に従うつもりはあるか?」
国王陛下は意外とあっさりと言い放つ。
本心ではあまり関心が無さそうにも感じる。
元々、ウィリエルさんの教義に興味が無さそうにも思えた。
異端さえ撤回すれば良いという判断であろうか?
ここでウィリエルさんが自論を撤回すれば話は終わりである。
「私は、自論を取り消すつもりはありません。
神のお言葉は聖書にのみ明白であるのです」
「・・・」
「教会の言葉は聖書に書かれておりません。
そして一部の内容は矛盾しております。誤りもあります。
教皇や教会の言葉は神のお言葉ではありません。
神の救いは金銭で売買されるものではありません。全ては聖書に、
神は絶対的な存在でございます」
ウィリエルさんが国王陛下の前で帝国議会で宣言する。
国王陛下は冷めた表情でため息を付きながらも、
ウィリエルさんを見つめながら判断する。
「・・・そうか。
朕はここで宣言する。
お前をロイスター王国内で一切の法の外に置く。
お前は異端としていかなる保護もロイスター王国から受けられない」
「・・・」
「連れていけ」
異端の宣言を受け、国家の保護を失ったウィリエルさん。
しかし古来による魔女として火刑にされる事はなかった。
これは国王陛下の温情であろうか?
これは国内事情を想定した政治的判断であった。
戦争で傷ついた国家に宗教内戦を起こす事は出来ない。
教会や旧教徒のメンツを立てつつも、新教徒を弾圧する事を避けたのだ。
今の王家に軍事力で国内を押さえつける程の力はなかったのである。
しかしこの判断は後の状況を考えるとそうはならなかった。
ウィルエルさんの力強い証言は貴族達の心を大きく揺り動かした。
国王陛下は未来にその判断を後悔する事になる。
そして帝国議会を離れたエリオスくんとウィリエルさんと伯爵家一同。
「まあ想定通りの結末ですね」
「私は神のお言葉に従うだけです」
「しかし投獄も処刑もされませんでしたね。一安心です」
「それは最悪のケースわよね」
「伯爵家もいざ一戦を、という訳にはいかないのであります。
エリオス殿」
ニーナさんとアーシャネット大佐がつぶやく。
しかしここで重要なのはまずウィリエルさんの安全である。
今は王家もウィリエルさんを害する事は考えていないのだ。
それが分かっただけでも一安心であった。
「一旦、伯爵領に戻りましょう。
そこなら安全です」
「ちゃーもそう思うが」
「エリオス様、ご注意を」
護衛に来た武人たちが警戒しだす。
どうやら簡単には終わりそうにもなかった。