宗教改革 大破門と焼却 その5
ウィリエルさんは教会から異端の宣言を受けてしまった。
エリオス君はその事実に絶望した。
学術討論会とは元々、神学的な議論を行う場であった。
しかしヨハネス・ダドリウム教授の弁論はそれを利用して誘導し、
まさにウィリエルさんを上手に罠にはめたのであった。
教皇からの刺客としてまさにその通りの仕事をやってのけた。
ウィリエルさんは本来教会や教皇の権威を否定するつもりは無かった。
しかし弁論中に誘導されて、つい教皇の権威を否定してしまった。
この事がウィリエルさんの思想そして未来をも左右してしまう事になる。
こうして、学術討論会はウィリエルさんと教皇との関係を
決定的に破綻させてしまう事になった。
「この私を異端などと・・・
何と愚かな」
「ウィリエルさん」
悔しい表情のウィリエルさんとどうして良いか分からないエリオス君。
この先の運命を考えると頭が痛くなるがそれは異世界人だからわかる話でもあった。
王都での伯爵家の館で、対策を考えるエリオス君。
そして、後日新たに書面にて通知が来る。
「ウィリエル教授。
教会から文書が届いています」
「・・・ヴィヴァインさん。内容は想定出来ますが教えてください」
「〜。自説を破棄し撤回しなければ、○月△日に破門する」
「やはり来ましたか」
「大破門の様ですね。従わなければ破門する。これは脅迫ですな」
「ええ、エリオス殿。
これは破門に関する大教勅の形をした脅迫文です」
「どうしますか?」
「・・・」
破門の通知に対し、この時は既にウィリエルさんは動揺していなかった。
心理上の変化があったのだろうか。
引っ越しのために間借りしている伯爵様の館で集まる一同。
そこに伯爵様がやってくる。
「どうするつもりだ。卿が破門になれば余も他人事ではない」
「伯爵様」
「卿は余の新しい大学で次の人材を育てて貰わねばならぬからな」
「私は・・・、この教会の過ちを正さねばならない。
それが神様の言葉への答えであります」
「神様?」
「・・・ウィリエルさん」
「神様は私に言いました
『神の言葉を信じよ、聖書の教えを守れ。
汝は敬虔なる神の子である。
悔い改めよ』
と。人はお金では神の祝福を買う事は出来ないのです。
聖書の教えこそが神の言葉であります」
ウィリエルさんが何かを悟ったかの様に言う。
真意を測りかねた伯爵様が頷きながらも、その本心を問いかける。
「で、卿の本意はどうなのであるか?どうしたいのか?」
「私は神様への信仰に対して既に自由であります。
世俗で金にまみれた教皇は反宗教的だと確信しました。
城外に人を集めてください」
「それは良いが、卿は一体何をするつもりだ?」
「それは・・・」
覚悟が決まったウィリエルさんは、教会派の多くの神学書や
手紙、教会法など片っ端から集めて城外の広場に山積みする。
その中には当然、教会からの教勅である破門の通知書も含まれていた。
大学教授や学生、市民や新聞記者などを集めた。
山積みになった書物を見ながらつぶやくウィリエルさん。
「・・・愚かですね。
己こそが神の代理人だと、神の言葉だと。
世俗の金にまみれ、聖書に無い言葉を勝手に神の言葉と偽造し
過去の偉人の徳を金で自由に配れるなどと」
「・・・」
「愚かなヒエラルキーを作り出し、人と人との間に選民思想を作り
世俗の権力を作り出し、くだらない縦社会で神の信仰を歪める。
そして地位を金で売買する。
聖書では神様はそんな事は一つ足りとも我々に望んではない。
神と聖書の前に人は地位や権威はなく、神の教えの前に人は平等である」
大勢集まった人々の間で宣言するウィリエルさん。
そして薪を積み上げて、山積みになった書物を指差して宣言する。
城外の広場は本来、屠殺場にも、ペスト患者の衣服所持品の焼却場にもなっている。
法に背き処刑される者は都市の中ではなく、城外で処刑される
この国の当時の慣習に基づいて行動であった。
それに気づいている民衆は顔色を変えてただウィリエルさんを見つめるのみであった。
「お前は神の言葉を穢した。
私はお前を火中に投じて燃やしつくして浄化する!」
そう言い放つとウィリエルさんは火を付けた。
その中にはこの時代に絶対であった教勅や教会法も含まれていた。
公衆の門前で犯罪者扱いし燃やし尽くす。
こうしてウィリエルさんと教会の戦いは再び始まってしまった。
そしてウィリエルさんは教会から大破門される事になった。