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宗教改革 学術討論会、その先は・・・ その4


「ヴィヴァインさん。資料をお願いします」

「承知しました。ウィリエル教授」



 ウィリエルさんの助手のヴィヴァインさんが資料を机に積み上げていく。

聖書や論文、古書を資料として討論に備える準備である。

ウィリエルさんの要求に合わせて資料を用意する。

それはこれらの内容を熟知していなければ分からない、彼も天才の仕事でもあった。



「双方準備は宜しいか?」

「大丈夫です」

「・・・準備完了です」 

「宜しい。であれば始めるが良い」



 こうして学術討論会が開始する事になる。

学術討論会と言っても、お互いの論文に対する根拠と正当性を

まず明確にしていく議論からスタートしたのであった。



「卿の論文は読ませてもらった。

 この記載の、この部分は・・・」

「それはあの、旧約聖書の・・・」

「ウィリエル教授、どうぞ」

「ありがとう、ヴィヴァインさん。

 この項目に記載されている」

「・・・フム」 



 この様にお互いの主張に聖書や文献などの情報源をはさみながら解釈を始める。

情報源となる文献を明確にしながら相手の論拠の根底を揺さぶっていくのである。

こういう議論は昔から大学で存在していた。

宗教が学問であり、真理である時代だったからである。


 しかし開始1時間してから教会側の神学者ヨハネス・ダドリウム教授が攻撃を開始する。

本番はここからであった。



「しかし卿の議論には大きな問題点がある。

 教皇猊下による神の祝福を拒否するか?

 教皇猊下への批判とも読める。これはいかに?」

「私は金銭により、神の祝福が得られるもので無いという説明であります。

 贖宥状は神の教えである聖書に書かれていない」



 助手のヴィヴァインさんが手渡した聖書、資料をもとに説明するウィリエルさん。

しかしそれを待っていたかの如くヨハネス・ダドリウム教授は攻勢を強めていく。



「教皇猊下の救いとは、過去の聖人が蓄積した善行為の徳を

 民衆に正しく分け与える方法である。

 かつての聖人による徳が無数に教皇庁に存在している。 

 この方法がより沢山の民衆に神の施しを与えられる最も適した方法である」

「神の教えとは、人は悔い改めるものである。聖書の教えだ。

 決して金銭で売買されるものではない」

「卿は教皇猊下による救いを否定するか?

 教皇猊下の言葉は神の言葉と同義であるぞ」



 とたんに大聖堂内が大騒ぎになる。

この時代は教皇の権威が絶対に近かった時代である。

教皇の言葉は神の言葉と同義である。

それが旧教徒社会が作り出した絶対の縦社会であった。

つまりウィリエルさんの主張はこの権威を真っ向から否定するのと同義である。



「ふん。

 田舎教授が。所詮は田舎者か」

「・・・何が言いたいのですか?」

「卿の発言はそこの悪魔、教敵。異教徒。

 つまりはそこの魔族どもの主張と同じである。

 教皇の権威を認めないのであればそこの魔族と同じではないか」



 これがヨハネス・ダドリウム教授の仕掛けた罠であった。

ウィリエルさんの主張を魔族と同じとして攻撃する。



「・・・それは、教皇猊下も間違いをする事もあろう。

 直ちに聖書の教えに戻るべきである」

「ちょっとウィリエルさん?

 その発言は少し飛躍しすぎですよ」

「エリオス殿。私の考えは神様のお告げ通りであるのです」

「・・・ちっ。女神様め。図ったな」



 ヨハネス・ダドリウム教授の企みに気がついたエリオス君が

ウィリエルさんを止めにかかる。

しかし興奮したウィリエルさんを止める事は出来なかった。

これが傍観者としての限界だったろうか。

後にエリオス君はウィリエルさんを止められなかった事に後悔する事になる。



「卿は教皇猊下の、神の権威を否定するか?

 もう一度言う。教皇猊下の権威を認めないのであればそこの魔族どもと同じではないか」

「・・・魔族の教義の中にも聖書の教えがある。

 その中に聖書による福音的なものも含まれている」



 ヨハネス・ダドリウム教授の罠であった。

ヨハネス・ダドリウム教授はその一言を聞き逃さなかった。



「かつて、過去の教皇や教会が、魔族を異端として裁いたのは誤りであったのか?

 卿はそう言いたいのか?」



 ヨハネス・ダドリウム教授は追い打ちをかける。

ある意味止めであった。

これに逆らうことは出来ない。

大聖堂にいる誰もが、ヨハネス・ダドリウム教授の主張を認めざるを得ないと思った。

しかしウィリエルさんは真逆の回答をした。



「教会の歴史の中で教皇も教会も過ちを犯す事があった。

 宜しいでしょう。

 今一度、神のお言葉を宣言する。 

 神のお言葉として貴方に伝えます。


 『神の言葉を信じよ、聖書の教えを守れ。

  汝は敬虔なる神の子である。

  悔い改めよ』


 そう教えよ」



 それは女神様がウィリエルさんに宣言した言葉そのものだった。

しかしこの場ではそれは逆効果であった。

まさにヨハネス・ダドリウム教授の罠そのものだった。



「卿は魔族の教えに侵された。

 卿は異端である」



 ヨハネス・ダドリウム教授が宣言する。

それは死の宣告としてエリオス君には聞こえたのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >後世でエリオス君は止められなかった事を後悔する事になる。 と、ありますが、これだとエリオス君が死んで生まれ変わってからも後悔しているように感じます。
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