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高炉建築 量産移管会議 デザインレビュー3 討議 その11

「静粛に」



 そして発せられたこの宰相閣下の一言で場が緊張する。

ここは大学ではない、国王陛下がいる王宮である。

当然、上級貴族ばかりである。

本来であれば平民のエリオス君は場違いであろう。

しかし今は主任研究員としての国家プロジェクト。



「まずはデザインレビュー2での指摘事項。

 今回も国王陛下に直接ご報告させて頂きご決済を頂きます。

 魔王国の大砲と技術は、留学して分析しました。

 パドル炉とコークス炉は別案件でデザインレビューさせて下さい。

 国家の資産につきましては先程の戦争で防衛に成功し隣国を撃破しました。

 不戦条約を結び防衛拠点を建設中です」

「他の宿題は問題ない、聞いている」

「承知しました。ではデザインレビューを続けさせて頂きます」



 拡声器の代わりとして手製のメガホンを持って説明するエリオス君。

本来であれば当然不敬罪になるかもしれないが、

宮殿が広すぎるためにトーマス殿下の計らいで特別に許可された。



「開発目標としては、大砲の原材料となる鉄の大量生産。

 品質としては現行の鍛冶屋で使われている刀剣と同等レベルの鋳鉄。

 量的には初号機なので少量でも連続生産出来る事。

 実力を評価する目的を兼ねておりますので、

 需要に対しては2号機、3号機と建設して対応する計画です」



「初期評価として、

 まず建設後の評価結果。

 色々とトラブルがありましたが、対策後は

 安定して24時間操業が可能になりました。

 ここ数週間の連続操業には問題は出ていません。

 材料管理方法も修正して決めました。

 鉱山のロット毎に受入検査、出来栄えとしてサンプルを

 破壊検査しまして分析する事で製造条件を調整」


「試作として、現状の鍛冶屋の親方にナイフを試作。

 条件を調整し、従来の製品と同等の品質を確認。

 安価なグレードとして、採用頂いております。

 大砲の弾や銃弾としては強度が重要ではないので問題なく。

 大砲への応用は銑鉄から鋼鉄への転換が必要になりますので

 反射炉を立ち上げる事で実用化へ向かいます」



 一気に説明するエリオス君。

開発目標とは、最終目標の目指す姿。

初期評価とは量産前の品質確認状態の検証。

大砲が不純物の多い銑鉄では強度的に作れないので代替品で

鉄の性能を検証するしかなかった。

鉄といえば刃物や工具。高価だが農具の一部にも。

量産で価格が下がってこれば普及が始まるだろう。


「こちらが試作した短剣でございます。

 試し斬りをしてご確認をお願いします」


 エリオス君がそう言うと、試し斬り用の短剣が用意される。

王族や宰相、大貴族など一部の権力者に渡されて

試し斬りが始まった。



「悪くはないな」

「フン。鍛冶屋の親方の腕が良いのよ」

「このレベルであれば兵士用には問題あるまい」



 宮殿内でざわざわ騒ぎ始めてきた。

どうやら一部の貴族は出来っこないと思っていたらしい。

実際に試作品が出来てくるとイメージは大きく変わるものだ。

百聞は一見に如かず。実際に物を触ってみないと分からない。

人間は納得しない。そういうものだ。



「標準類の整備としては、工程管理基準とQC工程表を作成。

 作業要領書は一部作成済でデザインレビュー4までに完成。

 作業者教育も順次行い製造に移管する計画です」


「コスト試算は従来の銑鉄の10分の1以下。

 24時間連続生産なので大量の製造が可能。

 おまけに鋳型鋳造が可能なので、型込めして安価に製造可能です。

 当面は大砲以外の鉄器の生産を行い、

 王都を中心に安価に支給できる見通しです。

 不良品のロットは鍋や皿、フォークやスプーンなど

 強度を重要視しない民生品に転用して廃棄なしで活用します」



 ざわめきが大きくなる。

銑鉄とは言え鉄製品が安価に大量に支給されるのだ。

今までは刀剣など高価な武器、輸入品に限られていた。

価値観が大きく反転する事になる。

しかも鋳型成型である。

精度を要求しない簡単な物なら加工の手間無しに製造可能。

木製品に代わり鉄製品が民生品にまで普及が始まる。

そうなると作業の効率が変わり、建屋建築物が変わり、

かつ熱に強く燃えないものが出来るだろう。



「量産への初期流動指定をご承認お願いしたい。

 初期流動解除基準は不良率5%以内。

 コストは従来の銑鉄の10分の1以下。

 大量生産可能な事。

 以上です」



 エリオス君の説明が終わると宮殿内のざわめきが更に大きくなる。

そして実際の試作品が別室から運ばれて並べられる。

その中にはマスケット銃も含まれていた。

もちろん製造は鍛冶屋の親方ではある。



「ふーむ」

「どうしましたか宰相閣下」

「実際に余の目で見てきたからわかるが

 輸入品でも買えてしまう気がするな。

 後は大砲が作れなければ何とも言えぬ」

「価値は国産、でしょうか?」

「まだ分からん。

 武器が作れる様になるまでは先か。

 小銃なら国産でも少量作れるしな」



 やはり大砲が銑鉄では作れない、という意味では

まだ目標を達成したとは言えないのである。

それは十分理解した上のデザインレビューとも言える。



「静粛に。

 トーマス殿下」

「・・・俺も現地を見ているから知っているが、

 制限付きで許可しよう。

 本来の目的である大砲の製造にはまだまだ時間がかかる。

 直ちに反射炉の試作を開始せよ。

 国防こそが目的だと忘れるな。

 それと安全対策は引き続き行い、操業が止まる事は絶対に無いように」

「承知しました」


「陛下。お言葉はありますでしょうか?」

「うむ。話は聞いている。

 よくぞここまで立ち上げた。

 計画に基づき2号機や3号機も忘れるでないぞ。

 試作品は朕の下にも持ってくるがよい」

「承知しました」


「では承認する。

 ただちに量産を開始しろ。

 この国の鉄産業を立ち上げろ。

 実力でもって国内を鉄で染めろ」



 宮殿内が大騒ぎになる。

そして、この瞬間から高炉での量産が開始される事になる。

それはロイスター王国の工業化の大きな第一歩となるのであった。

後世から見たら産業革命の始まりとも言えると

歴史書にも記載されるのであった。

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