高炉建築 量産移管会議 デザインレビュー3開始 その11
高炉の操業と試作したサンプルの出来栄えも良くなってきた。
条件出しがある程度安定してきた。
事故も今の所、再発はしていない。
トラブル、不良、事故、人員不足を超えて少しづつモノが作れる体制が出来つつある。
ここまで来るのに何年掛かっただろうか?
こうなんていうか、スキルでボタンをポチっと押せば
何でも出来てしまうチートがあればどんだけ楽だったかと
エリオス君は思ってしまうが、この異世界の現実はそんなに甘くはなかった。ぐすん。
さて、今回は王宮である。そう国王陛下のお呼び出しであった。
わざわざ王宮まで招かれてする事、デザインレビュー3である。
ついにこの機会が来た。
念入りに準備した資料を壁にかけて説明の準備をするエリオス君。
時を少し遡る。
「そろそろ量産開始ですか?エリオスさん」
「ええ、ラスティン先輩。
ですが量産前に必要なイベントがあります」
「イベント?」
「そう、デザインレビュー3が・・・」
量産移管する前に製造条件と品質条件が確立した事を証明して決済するために
デザインレビュー3を行う事が必要である。
デザインレビューの仕組みは後戻りしない開発スタイルで、ISO9001などの国際規格で
運用されている全世界的システムである。
開発ステップ展開で次の段階に移行する前に、必要十分条件をクリアしている
事を証明する為に作られたルールであり、ISO9001で規定された
開発条件を全て満たすと同時に決済者にレビューしてもらう仕組みである。
小型技術試験機による条件設定をデザインレビュー2で行うならば、
デザインレビュー3とは量産機の立ち上げであり、初期に設定した開発目標値を
合格している事を証明しなければならないのだ。
一般的にはデザインレビュー3が通らなければ技術から製造に手を離して
設備と生産を移管できない仕組み。
開発ステップの段階として凄く重い位置づけになる。
「エリオスさんのご意見は難しすぎてわからないのですが、
ようは量産する為にはデザインレビュー?とかいうもので報告して
承認を取らなければならず 、
その承認条件があらかじめ決まっていて、達成しなければならない
という事ですか?」
「そうです。
それがとても難しいんです。
研究所レベルと量産機では雲泥の差がありますから」
「・・・事故とか不具合とか沢山ありましたね」
「普通に開発目標を達成出来なくて
テーマそのものが打ち切りになるケースは山ほどあります」
デザインレビューの仕組みは量産試作と顧客評価の項目もあり
ちゃんと買ってもらえるものでなければならない。
当然コストや品質も含めて。
理論上可能とか高級品で可能とか不良が山ほど出ても
1個作れればOKという訳にはいかない。
「ならそのデザインなんとかをして量産しましょう」
「今回は国王陛下からお呼び出しが掛かっています」
「・・・え?」
「僕が国王陛下に王宮で説明します。
しかし大学内でちゃんと報告するのも研究員の努めです。
2部構成にしましょう。
大学内ではラスティン先輩が報告してください。
良い勉強になると思います」
「マジですか?それ」
「ええ。国王陛下からのご要請です。
あれだけ多額の国家資本を使いましたからね。
後始末しろという意味もあるでしょう」
という事で今回は王宮でデザインレビュー3を行う事になった。
緊張するエリオス君と一同。
当然目の前には国王陛下、皇太子殿下、社長であるトーマス殿下に宰相閣下など
国のトップを含め多数の貴族がずらりと集まっている。
そして特別に入室を許された一部の外国人や外交官も含まれている。
皆このプロジェクトに期待していた。国防の名の下に産業を作り外国に対抗する
その第一歩としてこのロイスター王国のみならず大使館を通じて全世界から注目されていた。
「坊主。楽しそうだな」
「何を言うんですか?トーマス殿下。
社長として代わりに報告して頂けないでしょうか?」
「俺に分かる訳がないだろう。 俺はあくまでお飾りだ。
この素晴らしき第一歩を、我が国で最初に歩むのは坊主お前だ。
誇らしいだろう」
「えっと、教授。どうなんですか?」
「恩師として誇らしいぞ。エリオス君」
「・・・ご自分で報告する気は無いんですか?とお聞きしたのですが」
様はそんな役割を誰もしたくないので押し付けられたとも言えなくもない。
デザインレビュー3が通れば量産移管である。
そこには製造部隊だけで量産出来るまでのサポートになるからだ。
非常に重要なミッションなので自分でやらなければならないエリオス君。
そして相手は国家のトップと重鎮。
とは言え内容も相手も全て身内と言えなくもない。
決済者は国王陛下ではなくトーマス殿下である。
つまり内容は前もって全て知っている。
あとは多額の国家予算を使ったケジメだけである。
予定調和であるがここで必要なセレモニーとも言えた。
「ではデザインレビュー3を報告します。
議長は教授、決済者はトーマス殿下でよろしいですか?」
「うむ」
「内容を知っていて判断出来るのは王家で俺だけだ。
任せてもらおう」
「ではデザインレビュー3を副社長のエリオスが報告いたします。
この報告のあとにポスターセッションの時間を設けますので
それぞれのご質問などはそちらでもお受け致しますので宜しくお願いします」
このお題目から歴史に残るデザインレビュー3は始まった。
ロイスター王国のみならず全世界を震撼させる開発テーマは
周辺諸国のみならず、技術先行していた魔王国ですら軽笑出来ない
内容になったのは事前には誰にも予想できなかったのであった。
長引きそうなので複数話にします。