高炉建築 初期評価 王都の鍛冶屋で試作、解析 その10
色々と試行錯誤しながら量産試作を再開する。
まず内部を抜き取って掃除し、耐火レンガに異常が無いか確認。
その後に、モルタルを耐火レンガに塗り直し修繕する。
乾燥して固着させた後に再び再稼働を始める。
条件を調整しながら、再び銑鉄のサンプリングを行う。
「エリオスさん。修繕完了し運転再開です。再稼働も順調です」
「ありがとうございます。
この場をお任せしても宜しいでしょうか?ラスティン先輩」
「大丈夫だと思いますが、エリオスさん。
どこかに行かれるのですか?」
「ええ。王都の鍛冶屋の親方の所へ」
エリオス君は今まで高炉で試作した銑鉄を持って王都に戻る。
鍛冶屋に持っていって鉄の試作をお願いするのだ。
見た目や外観、サンプル評価だけでなく鋼鉄を試作してもらい
実物評価を行う為である。
「エリオスくん。
アタシも王都に戻るわよ」
「ニーナさん、それにエリノールお嬢様も」
「お店も学業も心配ですし」
「承知しました。なら教授も一緒に戻りましょう」
「うむ」
一同は一旦王都に戻り、エリオス君は銑鉄を輸送してもらい鍛冶屋に向かう。
鉄の出来栄えが良いか悪いかを試作してお願いする。
初期評価である。
製造条件が最終的に良いか悪いかは鋼鉄にしてみないと分からなかった。
「おう坊や。久しぶりだな。
鉄は順調に作れているか?」
「親方。お久しぶりです」
「今日はどんな用事だ?」
鍛冶屋の親方に背景を説明する。
銑鉄は色々な条件に分けて試作した。
当然、出来栄えの悪いものもあるだろう。
それを承知で同一の製造条件で鉄器を作り比較するしか無い。
「・・・という事で恐縮ですが小さい刃物、ナイフをいくつか作ってもらえないですか?」
「出来損ないの材料で俺に打てと?」
「出来損ないかどうかは作ってみないと分からないのです」
「あまり面白くない仕事だな」
「そこを何とかお願いします」
「私からもお願いする。国家プロジェクトだ。
王家や大学も全面サポートする」
「・・・教授がいうなら、仕方がないな」
教授や政府の顔を出してもらう事で最終的に納得してもらう。
そして鍛冶屋に銑鉄を溶かして打ってもらう。
まずは角棒を試作。高温で熱して叩く事で炭素成分や不純物を除去する古来からの手法である。
銑鉄に残る不純物を完全に除去する事は出来ない。
材料によって出来栄えに差異が出てくるはずである。
「やはり外観の色が悪いものは脆そうだな」
「異物が残っている様子です。
持ち帰って曲げ試験をしてみましょう」
「ふん。当たり前だろう。坊や。
そんな常識をわざわざやらせおって」
「これも貴重なデータです。ありがとうございました」
「よしじゃあ次はナイフだな。
砥ぐか?」
「砥ぐのは最後で良いです。手間ですし」
「なら、作っておくから代金を持って後日取りに来るがいい」
「承知しました。親方。
宜しくお願いします」
こうしてエリオス君は、実際の製品に近い形状まで試作して
出来栄えを検証する初期評価を行う事にした。
出来栄えは外観、曲げ試験それから試作したナイフの出来栄えとして耐久試験を行い
その性能を比較検証する。
ナイフの品質が市販品に近づくまで相当な試作と高炉の条件出しが必要になった。
原材料から高炉操業、サンプル評価からナイフの試作評価まで含めると
莫大な時間とお金がかかった。
これらはすべて収入が入らない、いわゆる赤字になる。
開発にかかるコストは売上につながらない事が多いので出費になる。
これが原因で倒産する企業は現在でも珍しくない。
巨大な設備、原材料、時間そして人件費がかかる重工業は簡単にできるものではない。
それだけ製鉄業が難しかったという歴史でもあった。
数週間後、鍛冶屋の親方から連絡が入る。
エリオス君は教授とともに鍛冶屋へ向かい試作したナイフの出来栄えを確認する。
「どうですか?親方」
「あまり良い鉄ではないな。
比較的マシなのはこれとこれか」
「どこが違いましたか?」
「そうだな。脆いものは直ぐ折れてしまう。
変な混ざりものでも入っているのではないか?」
「・・・そうですか」
「どうなんだ?エリオス君」
「教授。こちらの条件がなんとか使えるレベルだそうです。
もう少し不純物を除去しなければなりません」
「そうか」
「やはり反射炉は必要か・・・」
エリオス君は出来栄えがよくなかったので悩む。
残留不純物を除去するには銑鉄の段階でしっかり酸化反応させないといけない。
副産物として、王都ではなぜか銑鉄の土瓶ややかん、フライパンや鍋、フォークやスプーンが
大量に供給される事になった。
誰も口にしないが試作品の原料で出来ばえの良さそうなのを溶かして鋳物にして
こっそり民生品として販売していた。
当然、赤字同然であるが捨てるよりかはマシだった。
出来栄えの悪い銑鉄は銃弾や大砲の弾にする。
とてもではないが、機械部品や大砲の砲台には使えない。
試行錯誤に試行錯誤を重ねて、高炉の良品条件を決めていく。
こういう地味な条件出しの作業は現代でも変わらない。
生産技術や製造技術のエンジニアが地味な仕事に泣かされるには現代も同じ。
もっとも統計的な手法をもちい実験計画法という考え方が定着したのは現代である。
品質管理という言葉が無かった時代は故障というのは常だった。
それまでは出来た所勝負で品質の悪い製品が流動する事は避けられなかったかもしれない。