高炉建築 転落事故の対策会議 安全パトロールと工程監査 その5
FMEAを改定するには結構時間がかかるので、安全はそこまで待てない。
作業をきっちりと仕上げるためには安全と納期は必要である。
まずは現在の決めごとがちゃんと守られているか、現場のパトロールが必要である。
机上で議論しているだけでは問題は解決しない。
現場で危なそうな所を見つけ、速やかに安全対策を取る必要がある。
結局ものづくりは鶴の一声が非常に大きいので、最初は上の人が現場を見て
人と予算を付けて対策を取る形が堅い手段になってしまう。
製造業と改善活動は「全員参加」と呼ばれる理由はそこにあり管理職も例外ではない。
なぜなら現場の作業者は日常の仕事があるため、それ以外の時間は本来あまりないのである。
しかしやはり一番現場に詳しいのは実際に作業している本人たちなので
管理者も職位に甘んじずにしっかり作業を学ぶ必要があった。
管理職を含め「全員参加」という言葉の背景は色々あるのであった。
「という事で安全パトロール兼工程監査を行います。
怪しい箇所があれば改善する活動を直結させます。
皆さんチェックを厳しくお願いします」
「エリオスさん。
現場に行って何をチェックすれば良いのですか?」
「まずはFMEAに抽出したリスク一覧表を一つづつ確認します。
ちゃんと対策が取られているか?
抜け落ちが無いか?
作業ルールは守られているか?」
「先の安全の話とかですね」
そういう現場の場合、まず工程監査は立派な手法である。
まず現場を全員でチェックする。リスクを抽出する。改善する。
ルールを作る、そして一番重要なのがルールが守られているかをチェックする。
このチェックが厳格に行われないケースはよくある。
実際にリスクを抽出しても改善されていない、
ルールが守られていない事が多い。
面倒くさいとか、やりにくい、道具が無いなどなど。
そうして放置されたリスクが最終的に顕在化して不良や災害につながる。
「ではまず〇〇工程からパトロールします。
まずこの作業を見せて下さい」
「ハイ。
ではこちらで作業をしていますので、どうぞ」
「これは・・・」
「足場が固定されていませんね。強風がふいたら転倒します」
「えっと、それは・・・」
現場の班長さんを集めてヒヤリングしながら実作業を観察する一同。
机上の話と現場の実作業は全然違うのである。
特に納期などで忙しくなると、中々全部は手が届かなくなる。
規模や組織が大きくなると目が届かなくなる。
それをしっかり見つけて、あるべき姿に戻すというのは
経験としっかり見逃さないパトロールが必要である。
実は問題点を隠して見せない様にする事も可能なので、非常に難しい。
現場は騙し合いの場でもある。
「この足場にヒビが入っています。
壊れる前に修理するか交換しましょう」
「ラスティンさん。承知しました」
「よく発見出来ましたね。流石ですラスティン先輩」
「ちょっと気になりましたので」
慣れてくるとラスティン先輩含め他の人達も色々と気がつく事がある。
見るポイントは作業者が実際に触るポイントとそれを構築している周囲の環境である。
実際に触れる部分が滑りやすいと転倒したり、
周囲の足場や梯子が劣化していると崩れたりする。
そういう異常を発見するのだ。
「ちょっとこの荷車汚れていませんか。
清掃して汚れを落としてみましょう」
「・・・あっ。
割れてる」
「これは修理ですね」
毎日同じ現場で作業していると、それが日常となってしまい
例えば汚れていても気にしなくなり清掃しなくなる。
慣れというものは非常に怖い。
で掃除して汚れを除去すると割れていたりクラックが入っていたりするのである。
そういう劣化の起点に気づくのはベテランでもなかなか難しい。
「エリオスさんは不思議な所に気が付きますね」
「これは経験ですが、見るべきポイントがあります」
「それは何ですか?」
「汚れている所とよく動く所と面倒くさい所。
手抜きが一番しやすそうな所」
「・・・なるほど」
人間だれしも面倒な事には手抜きしたいのである。
手抜きしたら起こる事は予想できる。
ならどうして手抜きをするのか?を考えればある程度問題点は分かる。
他にも要因は沢山あるが、リスク抽出表を見ながら
現場をパトロールして改善していくしかなかった。