第1回ジュリヴァ王国戦 ウィンダーミリアの戦い 戦争の終わりに その15
「また一つ。僕は沢山の人を殺してしまった」
「私とあなたの命がある。侵略は防いだ。皆の笑顔が残った。それで十分じゃないの?エリオス君」
戦闘は無事に終わった。
エリカお嬢様がエリオス君に微笑む。
壊滅したジュリヴァ王国軍の被害は甚大であったが、
それ以外のロイスター王国軍の被害はそれほど大きくはなかった。
銃撃戦が激しくなり接近戦の余地が少なくなる。
それは、槍方陣による一つの時代が終わったかの様であった。
事実、この戦い以降は各国も研究し始めてマスケット銃によるカウンターマーチが
主力戦術になっていくのであった。
そしてそれは戦争が工業力の時代へと移り変わる第一歩となった。
大砲と銃撃によるおびただしい死者の数を出したジュリヴァ王国軍は1万2千人の死者と
7千人の捕虜を出した。ロイスター王国軍はアナトハイム軍とグリーヴィス公爵軍で2千人、
貴族連合で4千人の死傷者を出したが比較的被害は小さかったと言える。
それは銃撃による遠距離戦に徹した影響だったかもしれない。
これ以降の戦いは各国がカウンターマーチを採用してマスケット銃の武装が進む。
戦いはその後、ジュリヴァ王国軍が要塞に逃げ込み防衛に入り、
ロイスター王国軍が周囲の村々を占拠した所で外交交渉に入った。
結局、占拠した村と捕虜を返還する代わりにジュリヴァ王国は多額の賠償金を
支払うことで停戦に応じることになった。
そしてその多額の賠償金はロイスター王国の工業化に投資される事になる。
一同は伯都に凱旋し、安全を確保した住民から大歓迎を受ける。
特に戦いの立役者になったアナトハイム伯爵様とグリーヴィス公爵軍は高い評価を受けた。
苦々しく思っているのはウィントリン公爵家のユージェリス将軍ではあったが、
あの状況下ではどうしようも無かったとも言えるだろう。
「伯爵様〜〜〜」
「エリカ姫様。パッカード将軍!」
「トーマス殿下。ジェロード皇太子殿下」
伯都で活躍した指揮官に民衆からの声援が飛ぶ。
今回は裏方に徹したエリオス君であったが、作戦参謀長として見事勝利に貢献したとも言える。
エリオス君は作戦が最後には成功したとは言え、実は震え上がっていた。
もし伯爵様が中央突破されてしまったならば、ロイスター王国軍は完全に壊滅していたかもしれない。
ロイスター王国軍もギリギリだった。それほど際どい戦いであった。
伯爵様が陣頭指揮して率いた第2戦線が奮闘して敵を封じ込めた。
ロザリーナお嬢様が突撃し、ちゃー様が戦線を構築した。
実に見事な戦術の組み合わせだったとも結果論で言えるだろう。
「実に見事な逆転劇だった。坊主。
序盤は中々厳しい展開になったが、戦線を食い止めた後は狙いすました包囲殲滅戦だ。
作戦が的中したな。よくやった」
「・・・しかしトーマス殿下」
「あの腰抜けの貴族どものお陰で俺も恐ろしい目にあったぞ」
「ご無事でなによりでした」
「ぼ、僕は眼の前で崩壊して逃げ出す貴族連合軍の、味方の姿を見て何も出来なかった。
震え上がって、命を覚悟した」
「・・・ジェロード皇太子殿下。確か初陣でしたね」
「エリオス君。君は凄いな。
こんな恐ろしい戦場を幾つもくぐり抜けてきたのか?」
「今回は伯爵様の奮闘で敵を押し返す事が出来ました。
戦う事は民衆と家族と友人を守る事です。
殿下にもいずれ分かります」
「・・・」
戦いを終えた後でトーマス殿下とジェロード皇太子殿下と会話するエリオス君。
その意見は違えど、大戦に苦しい姿を見た事に変わりはない。
この実戦の経験は将来に生きることになる。
「あの恐ろしい状況を覆すとは実に恐ろしいガキだ」
「あのガキは我らの最大の敵になるだろう」
「味方に引き込むか、謀殺してしまうか。
もはや国家の敵にもなりえる存在だ」
「しかし、南の異教徒や魔王国という大敵がいなくなった訳ではない」
「・・・」
逃亡し、なんとか生き残った貴族連合軍の姿もここにある。
彼らは完全に戦いに負けたと確信していたのだ。
しかし見事逆転してみせたアナトハイム伯爵とその配下に恐れを抱いた。
「味方であれば頼もしいが、敵になれば脅威であるな」
「卿もそう思うか?パッカード将軍よ」
「今回は損な役割を頼んでしまったな。
ユージェリス将軍。
西も東も、北も南も安泰とは言えぬ」
「そうであるがな・・・
この失態はいずれ返させて頂く、か。
今回は素直に学ばせてもらおう」
それぞれ大貴族の将軍が会話する。
お互いに敵にならない事を祈りつつも政治に振り回される運命にある。
もちろん、彼らの関係も今後長く続く事になる。
「えりたーーーん」
「無事に帰ってこれたわね。アンタもアタシも」
「ふふっ。
エリオスさん。今回は我々ケンタウロス姉妹も活躍しましてよ」
「ええ姉さん。
これで故郷に自慢できますね」
「・・・ケンタウロスって逞しいんですね」
「汝らの戦いは見事であったわ。
妾もかなり助けられた。
次も共に戦いたいものじゃ」
「ふふっ。次がありますかね?」
今回参戦したケンタウロス姉妹とエリオス君の友人達が集まる。
特にケンタウロス姉妹は前線でロザリーナお嬢様と共に敵の返り血を浴びながらも
陣形を突き崩し、ゴーレムと格闘し転倒させて時間稼ぎした。
今後も何かと縁がつながっていく事になるが、
今は一時の平和を喜ぶ一行であった。