第1回ジュリヴァ王国戦 ウィンダーミリアの戦い 伯爵様の猛攻と3列2段撃ち その13
正面への銃撃はあまりに濃密だった。
正面のジュリヴァ王国軍槍方陣は大砲やマスケット銃になぎ倒されて大混乱。
そしてアナトハイム軍は3列を2段で繰り返しマスケット銃を連発する。
ちゃー様率いるマスケット兵は訓練に訓練を重ねて弾込めから発射までの時間を短縮した。
全てはこの戦いのためでもあった。
圧倒的な銃撃の前に隊列を組んだ足の遅い槍兵は近づく前に討ち取られていく。
このわずか100mの間を縮められない。
それが、機動力の低さこそが槍方陣の弱点でもあったのだ。
「流石は異教徒戦争の英雄殿、ミルチャー卿であるな。
実に訓練された見事な動きである」
「・・・我々のグリーヴィス公爵軍は訓練が足りないわね。パッカード将軍」
「姫様。しかし我が公爵軍も数と士気では負けておりますまい」
「そうね。
アナトハイム軍に続け!
我が軍も戦列を作り、敵を撃退せよ」
追いついたグリーヴィス公爵軍のエリカお嬢様とパッカード将軍が
戦線に加わり、ついに敵兵を食い止めて戦線を構築する。
ここで完全に敵の前進が止まり戦線が膠着した。
マスケット兵の多いアナトハイム軍が有利になる。
そして轟く3インチ軽袍と6インチ軽袍の砲撃が敵の槍方陣に突き刺さる。
ゴーレムも大砲で破壊してしまった。
もはや密集陣形は自殺行為になりつつある。
そしてロザリーナお嬢様率いる騎兵が再び攻撃のチャンスを伺いながら戻ってくる。
槍方陣が組まれると騎兵は突撃が難しくなるので騎兵の出番は最後になるかもしれない。
ここで歩兵対歩兵の戦場が再び構築される。
「見事だな。ミルチャー卿。
敵を完全に封じ込めた」
「伯爵。
直ちに攻勢に出るがよいぞ。
本隊のエリオス殿に指示を」
「そうであるな。
騎兵は直ちに本陣に戻り、内政官殿を支援しろ」
伯爵様が呟いた所で、ちゃー様が攻撃を急かす。
敵の攻勢を防ぎ戦線を構築したここからが本番である。
大砲を牽引出来る騎兵をただちに本陣に戻し、
残りの大砲を牽引して敵に攻撃を加えるつもりである。
正面のちゃー様のマスケット兵と大砲、後方からエリオス君のマスケット兵と大砲で挟撃する。
古来より存在する包囲殲滅戦を構築するつもりだ。
「何をしている!
早く敵陣を突破しろ」
「・・・しかしヴァラール将軍。
敵の弾幕が激しくて近寄れません。
逃亡兵も出ています」
「くっ。
敵も味方もなんたる事だ。
あともう少しで、すぐ近くに伯爵の首があると言うのに。
またしても奴らに阻まれるのか」
ジュリヴァ王国軍の眼の前には陣頭指揮を取るアナトハイム軍が
重厚な戦列を構築して対抗している。
虎の子のゴーレムを大砲で撃破されてしまった今、
敵の戦列を粉砕する有効な手段がなさそうに思えた。
そう、ヴァラール将軍の手元には遠距離支援の出来る大砲が無いのだ。
そして敵は大砲が多数ある。大砲、マスケット兵そして騎兵。
この連携により主力の槍方陣はアウトレンジから危険にさらされるという
不利な自体に被ってしまった。
元々接近戦で無ければ槍方陣の真価を発揮できないのだ。
かつて、この様な形でアウトレンジから完封出来るケースは殆ど無かったのである。
それは銃撃の集中展開という新しい戦場のあり方を双方に求めていたのであった。
「エリオス殿。伯爵様から攻撃の指示です」
「よし。直ちに全軍前進。
敵の砲台を奪い時計回りに隊列を展開。
敵の側面後背を叩く」
「正面は敵が殆どいません。
ガラガラですな」
「残りの砲兵を騎兵に牽引させて速やかに移動させろ。
敵の後背に食らいつくぞ」
攻撃指示を今か今かと待っていたエリオス君。
味方の戦線が安定したのを確認した後に伯爵様の命令に応じて前進指示を出すエリオス君。
敵は正面の大砲を事実上放棄して側面攻撃に出たのでがら空きである。
それだけ貴族連合軍が弱兵と判断したのである。
それは確かに正解であった。
しかし誤算であったのはアナトハイム軍がそれに対応して新たな戦線を構築してしまった。
数的優位の逆転+側面攻撃という圧倒的に有利な状況を覆されてしまった。
「敵の側面はがら空きだ。
側面より敵を砲撃して伯爵様を支援しろ」
「よし。騎兵隊。
大砲を牽引して射軸を動かすのじゃ。
直ちに攻撃であるぞ」
「敵の後方を遮断しろ。
逃げ場を塞げば敵の戦意は低下する」
エリオス君の指示を元にロザリーナお嬢様の騎兵隊が
大砲を牽引して射軸を動かして反転する。
ぐるりと向きを変えた上で戦列を並び替えて大砲を発射する。
これで敵は正面の伯爵様、側面後方のエリオス君と挟まれる形になり背後を塞がれる。
大砲とマスケット兵に挟撃されて大いに士気が落ちてしまった。