第1回ジュリヴァ王国戦 ウィンダーミリアの戦い ロイスター王国軍右翼崩壊 その11
突撃を受けて総崩れになるジョーフィル中将率いるジュリヴァ王国軍騎兵。
護身用程度で本格的な近接格闘武器を持たないジュリヴァ王国軍騎兵に対抗出来る手段は無かった。
友軍の支援を期待できないジュリヴァ王国軍騎兵には、
逃亡してこの戦場から離れるしかなかった。
騎兵隊の戦いはここで左翼アナトハイム軍の勝利に終わった。
しかし戦い全体が終わったわけではない。
ロイスター王国軍右翼では宰相閣下のウィントリン公爵家ユージェリス将軍率いる
貴族連合軍が敵主力と正面からぶつかり合う事になった。
「敵の主力がこちらに近づいてきます。ユージェリス将軍」
「・・・そうか。
迎撃を全軍に指示しろ」
「ハッ」
「しかし将軍。我が軍は無事戦線を守れますかな」
「ジイやか。
一旦敵を食い止める事さえ出来ればば、友軍が援軍に来るはずだ。
時間さえ稼げれば勝ちだ」
「・・・」
ユージェリス将軍が指示を出しながら、ジイやことデルバート将軍補佐が問いかける。
一瞬ユージェリス将軍が嫌な顔をして返事するが、彼らはその困難さを理解していた。
しかし大貴族家の将軍であるユージェリス将軍にしか出来ない、
貴族軍を纏める任務であるために戦わねばならなかった。
「将軍。敵の騎兵隊が突撃してきます」
「各軍は槍方陣を作り、前だけを見て持ち場をしっかり守れ。
決して退いてはならん」
「承知しました」
しかし敵の騎馬隊は出来るだけ交戦を避けて、軍の隙間から後方に回る。
前方にゴーレム、後方に騎馬隊と槍方陣が挟まれた形になってしまう。
だが、本来であれば槍方陣は簡単に崩壊しない。
ゴーレムを大砲か魔法か騎兵か槍で抑え込めばなんとかなる。
問題は兵士の指揮と指揮官の能力であった。
「しまった。そう来たか。
直ぐに後方から援軍を送れ」
「前方から大砲砲撃を切り抜けたゴーレムがやってきます。
味方が逃亡を開始しました。陣形が崩壊します」
「・・・なんという事だ。
ただちに援護に回れ。戦線を再構築しろ」
「間に合いません。連鎖で次々と味方が逃亡していきます」
「敵も味方もクソが」
ユージェリス将軍が苛立ちを隠すことすら出来ず、崩壊する味方を見つめる。
戦闘が開始してわずか30分の出来事であった。
あまりにも早すぎる味方の逃亡劇になすすべも無かった。
勝ち馬に乗りに来た貴族連合軍の士気と練度はあまりにも低すぎたのだ。
こうしてロイスター王国右翼軍はわずか30分の戦闘で崩壊し、半減した。
ここで数的優位は大きく覆されたのであった。
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こちらはロイスター王国左翼のアナトハイム軍。
トーマス殿下から右翼軍への援軍要請の旗が振られる。
「伯爵様!
トーマス殿下から援軍要請の旗です」
「シルヴィ君。それは本当ですか?」
「間違いありません。エリオス様」
「・・・卿の想定通りか。
宜しい。
余、自らが軍を率いて援軍に向かう。
内政官殿にはここで軍の指揮を頼む。作戦通りにな」
「・・・承知しました。ご武運を」
「これから余が右翼軍への援軍に向かう。
騎兵隊は砲を牽引して、砲兵と共に直ちに騎乗して移動を開始しろ。
マスケット兵は後列の予備兵全てを配置転換して余に続け。
戦線を再構築するぞ。急げ!」
「グリーヴィス軍もアナトハイム卿に続け!
全軍右翼へ展開だ。急げ」
伯爵様が騎馬隊と砲兵と予備軍に指示を出す。
それに呼応して、グリーヴィス公爵軍とパッカード将軍がそれに続く。
戦場は南北の相対する陣形から、右翼左翼とのぶつかり合いに変わる。
アナトハイム軍の持つ大砲は馬で運搬可能な軽袍である。
大砲を騎馬隊で運搬するという発想は先の戦いでも運用した通りであり、
騎馬砲兵を本格的に採用したのは7年戦争時のフリードリヒ大王であると言われている。
現段階では兵科として騎馬砲兵を独立して運用するほどの騎馬は足りていないのであるが、
お金のかかる運用面が今後の課題であるというのがエリオス君の悩みであった。