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第1回ジュリヴァ王国戦 ウィンダーミリアの戦い 騎兵突撃 その10

「あの馬鹿共が!」

「・・・ヴァラール将軍」



 ヴァラール将軍が騎兵隊のジョーフィル中将の独断先行に怒りを表す。

騎兵隊が勝手に動いては作戦構想が台無しであった。

混戦になってしまえば右翼騎兵隊を制御する事は出来ない。



「ヴァラール将軍。

 右翼騎兵隊を支援しますか?」

「いや、待て。

 そちらの方面は強固なアナトハイム軍とグリーヴィス公爵軍だ」

「しかし、支援しなければ騎兵隊が敵中に孤立します」

「・・・」



 再びヴァラール将軍が顎ひげを触りながら考える。

このまま騎兵隊に合わせて攻撃を開始するか、それとも・・・



「よし、こうする。

 左翼騎兵隊のヴァロア中将に伝えよ。

 敵の右翼は烏合の集団である。部隊と部隊のつなぎ目が弱点である。

 接合点の隙間に騎兵を侵入させて分断包囲せよ」

「ハッ」


「次は魔法使い団長に伝達。

 本国からかき集めたゴーレムを全力で敵右翼にぶつけろ。

 敵右翼はゴーレムを破壊出来る大砲が少数だ。

 全槍方陣に命令。

 ゴーレムの後方から敵右翼に突撃せよ」

「承知しました」

「右翼騎兵隊は牽制だ。

 敵左翼を引き付けている間に敵右翼を殲滅させる。

 その後に敵左翼の後背に周り包囲殲滅するぞ」

「・・・さすがは将軍」

「敵右翼は見た目通りの弱兵だ。この一撃でこの戦の勝負を決める」



 ヴァラール将軍が敵情を冷静に観察して軍に命令を下す。

騎兵で敵を分断、包囲しゴーレムを壁にして槍方陣を前に進める考えである。

右翼騎兵隊を一旦見捨てて一旦全軍を左翼に集中させる。

奇想天外な発想であったが、敵の弱点を分析しそこに一点集中させる戦術であった。

こうしてロイスター王国軍右翼は危機に陥るのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こちらはロイスター王国軍左翼アナトハイム軍。



「伯爵様。敵右翼騎兵隊が突撃してきます」

「よし。ミルチャー卿に伝達。

 マスケット兵の横陣を組み、敵騎兵を銃撃で応戦せよと」

「承知しました」


「まさか敵は左へ来ましたか」

「そうだな。

 だが敵の騎兵は銃騎兵だろう。臆病な傭兵の集まりだ。

 ミルチャー卿の指揮する強固な横陣形を組めば射撃の打ち合いでは突破は出来ない」

「・・・でしょうか」



 この時代の騎兵は主に傭兵が主体でカラコールという銃で武装した騎兵である。

車懸かりと翻訳される、ドイツ騎兵が考え出した戦法である。

槍方陣とマスケット兵の組み合わせであるテルシオを突破出来なくなった騎兵は、

短銃を装備して槍の範囲外から銃撃するという戦術を取る様になった。

一旦近づき、槍の外から銃撃し、隊列を入れ替えて離れて弾込めし

再び接近して銃撃を隊列毎に繰り返すという戦法である。

つまり騎兵が槍方陣を怖がって突撃しなくなったという結果だ。

カラコールは相手が槍兵だけである、という状況下のみにおいて機能した。

一見合理的に見えるが騎兵の持つ短銃の射程と威力は大型のマスケット銃に大きく劣り

接近戦はもちろん銃撃戦でも劣るという結果になってしまった。

つまり騎兵は衝撃力を失った。


 この戦法は実は傭兵のサボタージュに過ぎなかった。

当然、当時の指揮官もそれを認識しており、なんとか騎兵の衝撃力を戻そうと

色々試行錯誤するのであるが、傭兵が言うことを聞かなかったのである。



「攻撃せよ!」


「撃て!!!」



 騎兵隊のジョーフィル中将とマスケット兵を率いるちゃー様が同時に銃撃を開始する。

射程と隊列の密度で、銃撃戦はアナトハイム軍に有利な状態に展開した。

少しづつ騎兵とマスケット兵が銃撃で倒される。

 お互いに隊列を入れ替えながら銃撃を繰り返し突破を許さない。



「ふふふ。敵は銃騎兵か。 

 ならば妾の魔王国の騎兵戦術を思う存分、見せつけてやろうぞ」

「お嬢様。我々もついてまいります」

「お嬢様。魔王陛下の武威を敵に教えてやりましょう」


「私達も参ります。シュミット。

 我らの重装槍ケンタウロスは無敵です」

「ええ姉上。

 ここで我らの武名を見せつけましょう」



 アナトハイム軍の騎兵隊隊長を任されたロザリーナお嬢様と、

重武装したケンタウロスのエリツカヤさんとシュミット君が現れる。

観戦武官なのだがもちろん最初から武名を見せつけるために参戦する気まんまんであった。



「全騎兵抜刀!敵の動きが止まったタイミングで突撃。

 サーベルチャーーージ!」



 ロザリーナお嬢様が命令するとアナトハイム軍の騎兵はサーベルを抜刀。

一気に加速して速度を載せた状態で敵騎兵に斬り込みを開始した。 

カラコールの弱点として銃撃をした後に前後で隊列を入れ替える。

そのタイミングで速度を落とさざるをえなくなる。

しかしロザリーナお嬢様率いる騎兵は全軍一丸となって最高速度になった瞬間まで走り込み

動きが止まった敵騎兵に一気にサーベルチャージを行った。



「なんだと?」



 ジョーフィル中将率いるジュリヴァ王国軍騎兵は

ちょうどこの時には近接格闘戦出来る装備を持っていなかった。 

足が止まった瞬間にロザリーナお嬢様の最高速度の騎兵の突撃を受ける。

ひとたまりもなかった。

全軍一丸となって突撃してくる衝撃力に押し込まれ、サーベルでどんどん首を落とされた。

そしてケンタウロス姉妹の槍突撃も実に見事で敵騎兵はどんどん叩き落とされる。

接近戦では全く戦いにならず、ジュリヴァ王国軍騎兵は潰走した。


 史実では30年戦争時にスウェーデンのグスタフ2世アドルフが

騎兵の衝撃力を取り戻すためにサーベルチャージを採用した。

この事により騎兵は一定の衝撃力を取り戻すのであった。

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