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第1回ジュリヴァ王国戦 決戦前夜の軍議 その8

 さっそく軍議が始まる。中心は当然王家になりトーマス殿下である。

しかし伯爵様や各大貴族も勢ぞろいして軍を束ねる。

実に4万の大軍にまで膨れ上がっていた。

しかしジュリヴァ王国軍も本国からの援軍を受けて増加しているだろう。

つまり次の戦いは決戦になる。



「ロイスター王家として今回俺が代表する。

 しかし俺は戦争は得意ではない。

 全体は統括するが、実戦は各将軍に委ねる形になる」

「承知しました」

「最初に一つ決めておこう。

 今回の作戦参謀長としてアナトハイム卿とパッカード将軍、ユージェリス将軍からの

 推薦と俺の判断で坊主お前に任せる。

 必ず勝てる作戦を立てるように」

「えっ・・・」



 末席に座っていたエリオス君がトーマス殿下の発言に驚く。

伯爵家内ならともかく、そんな重要な任務を1少佐に与えるとは思っていなかった。

当然、主導権の引っ張り合いになるだろうと思っていた。

しかし王家や大貴族が賛同している限り、反論出来る空気になかった。



「エリオス卿ならば是非もなし」

「南の異教徒戦争の英雄殿の作戦を目の前で見せてもらおうか」

「先の戦いも実に見事な戦術であった」

「・・・内政官殿なら確かだ」



 連勝街道を歩むアナトハイム軍の作戦を考えてきたのは確かにエリオス君であった。

実際の軍を率いる司令官は別にいたという事を引き算してもである。

いつのまにか大貴族の将軍たちから、

既にロイスター王国内外で一目を置かれる存在なのを

気づかないのはエリオス君本人だけかもしれない。



「・・・承知しました。

 敵は砦の包囲を一部少数を残し移動して、

 西側のジュリヴァ王国からの援軍を待ち統合する形で再編成するでしょう。

 戦力を集中させて決戦を挑みに来るに違いないです」

「何故そう言い切れる?」

「伯都と王都への侵攻に失敗し、貴重な時間を失い、我が軍への援軍を許しました。

 敵は各個撃破される事をまず恐れます。

 可能な限り数的優位を確保するために軍を一つに集めます」

「まあありえる話だな」


「敵は槍方陣が主力です。

 槍方陣は非常に防御力に優れた陣形で壊滅させる事は困難でしょう。

 であれば、突破力を重視する縦隊より軍を広範囲に展開し遊兵を作らない横隊がセオリーです。

 となれば敵は横に広く軍を展開してくる戦場を想定します」

「セオリーと言えばセオリーではある」

「我が軍も統合して大軍になりました。

 敵を包囲殲滅する事を目的として横隊に編成します。

 各部隊がその横隊を担当して頂きます。

 まず中央に王家、左翼にグリーヴィス公爵軍とアナトハイム軍、右翼にウィントリン公爵軍。

 左翼と右翼の端に騎兵隊を置いて敵の後背を狙います」

「・・・まあ言わんとしている事は分かる」

「横隊の編成については一度こちらで考えた上で皆様にお願いさせて下さい」

「・・・」



 何か言いたそうなトーマス殿下を見て、アイコンタクトするエリオス君。

どうも腑に落ちない顔をしている。そうだろう。作戦が単純すぎる。

果たしてこの軍隊で勝てるのか?と


 エリオス君は思った。

この寄せ集め軍隊に複雑な防衛陣形や戦術は無理だと。

装備も練度も戦術もバラバラなのだ。

当然、有能な指揮官もいれば無能な司令官や初陣もいるだろう。

であれば、シンプルに包囲殲滅戦と伝えておくしかない。

こんな状態でまともにコントロール出来るとは思えない。



「敵は恐らく北西の、そうですねキルテル村の南西の、

 ウィンダーミリアの村周辺でジュリヴァ王国への街道沿いに布陣するでしょう。

 街道であればジュリヴァ王国本国との補給が容易な為です。

 我々も北上しながら再編成を行い、敵が糾合する前のタイミングを狙い開戦を仕掛けます」

「その辺りは良いだろう。一旦基本方針とする。

 坊主には後で話がある。解散」



 といいトーマス殿下はぐるりと一同の顔色を見てから一旦軍議をしめる。

歴戦の将軍を見ると少し疑問の顔色が伺えた。

トーマス殿下は解散させてから、一旦身内の将軍だけをこっそり集めて再び議論に入る。

釈然としないトーマス殿下が質問足りない表情でエリオス君に食って掛かる。



「おい、坊主。

 先程の話はどういう意味だ?

 いくらなんでも雑な戦術じゃないのか?

 本当に勝てるのか?」

「トーマス殿下。

 相手がこちらの防衛陣形に攻め上がりたいと思わせる状況でなければ

 野戦の対峙戦にならざるをえません。

 野戦築城しても相手がリスクを犯してでも戦いたいという状況がなければ成立しません」

「数と数を正面からぶつけるしかないと言うのか?」

「敵の槍方陣は正面からはカウンターマーチを使わないと容易には撃退出来ません。

 つまり多数のマスケット兵が必要になります。

 各部隊にその装備と訓練を今求める事は出来ません。

 であれば同じ様に槍方陣で正面から組み合う戦術しか思いつきません」

「・・・しかしな」

「右翼で敵の槍方陣をこちらの槍方陣で受け止めている間に、

 左翼ではアナトハイム軍とグリーヴィス公爵軍のカウンターマーチで槍方陣を撃退します。

 そして左翼から右翼の敵の後方へ時計回りに回り込み包囲殲滅戦を仕掛ける考えです」

「なるほど。その意図は理解した」

「右翼はそれまで持ちこたえて頂かなくてはなりません。

 そこで王家とユージェリス将軍が右翼を支えて欲しいのです」

「身も蓋もない話だな」

「趣旨は理解した。エリオス殿」



 理解しつつも、納得しない表情で答える一同。

エリオス君は先の戦いで敵を過小評価しない。

敵も同じ条件であろうと思うがそれはただの願望である。

寄せ集めのロイスター王国軍より遥かに組織力があり強いと考えるべきだろう。



「なあ坊主。

 思ったより苦しい戦いになりそうか?」

「仮に練度と装備が同じであれば互角の戦いにはなりましょう」

「それは敵は我が軍より組織力が強いというのか?

 それとも我が軍が寄せ集めで弱いというのか?」

「・・・色々な状況を想定し、それに対策を考えます。

 少なくとも勝ち馬に乗る状況ではありません」

「嫌な雲行きだな。

 先程も質問したが、我が軍は本当に戦えるのか?

 それとも烏合の衆か?」

「たとえどんな状況であろうとも最善を尽くして勝利します」

「仕方がない。坊主。よろしく頼むぞ」



 ごく限られた数人の中でのみ不安な表情を見せる一同。

そんな姿は全軍の前では見せられないであろう。

心に不安を抱えたまま、それに対応出来る状況と戦術を考えながら

ロイスター王国軍は敵の主力と開戦する事になる。

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