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第1回ジュリヴァ王国戦 ヴァルヴァー川沿いの戦い 土嚢と防壁 その2

 出陣した伯爵軍は軍を国際河川ヴァルヴァー川を後背に布陣して

塹壕を掘り始める。そして前に大砲を並べて迎え撃つ戦術である。

文字通り背水の陣であった。

伯爵軍の手勢はおおよそ6000名程度。

敵軍1万2千の約半数という有様であった。

エリオス君の視点ではこの戦力で敵陣を突破するのは無理だと判断した。

正面から戦うのは明らかに不利な状況であり、

出来るだけ有利な状況を作り出さなければならない。

そこに頭を悩ませる。

唐突に伯爵様が質問をエリオス君に投げかける。



「しかし内政官殿。

 何故川を背にして戦うのであるか?

 敵に包囲されれば全滅するぞ」

「目的は作戦通り敵をこちらに引きつける為であります。

 もっと言いますと傭兵と徴兵した民兵の逃亡防止でございます。

 戦力で負けてる状況で更に逃亡者が出ると戦線を維持出来ません」

「卿は本当に博打好きであるな。

 身も蓋もない理由であるが…」

「今回は援軍が来るまで耐えれば勝ちです。

 必ずしも敵を殲滅する必要はありませんので」

「まあ、卿がそう言うのであればな・・・」



 伯爵様がため息をつく。しかし参戦すると決めたのは伯爵様であった。

参謀は与えられた条件で何とか勝たねばならない。

だが今回はまだ打算の入る余地があった。

エリオス君は考え続ける。

これは時間をどれだけ稼げるかが勝敗を分ける戦いなのだ。と。

戦力を集中させる事と、敵を引けつける事。

防衛線を構築して小銃大砲勝負にもつれ込ませる事。

そしてちゃー殿の力を最大限に活用する事しかない。

その為には防御陣形の構築が鍵だと考えた。


 という事で敵の侵入経路を予想しそこに布陣する。

簡易的な防御陣営を組む。

そこに以前から考えていた3つの最新技術を導入する事に決めた。

この3つの技術はこの時代の技術力でも十分可能である。



「エリくんは本当に博打が好きだにゃ。

 万が一作戦が失敗したら全滅するかもしれないにゃ」

「アイヴィーリさん。

 確かにリスクはありますが、こちらの戦力は読まれておりません。

 数が分からないと言うのは唯一の長所です」

「しかしにゃ」

「勝つための戦術を考えるのが参謀の仕事です。

 さあ一緒に塹壕を掘って土嚢を積みましょう」

「…土嚢とは何にゃ?」



 興味深そうに見てくる筆頭魔法使いのアイヴィーリさんに説明する。

ここでエリオス君は新兵器の土嚢を用意させた。

前もって用意した麻の布袋を携帯させて、掘った土を袋に詰めて積み上げる。

人間が携帯しやすい500mm×800mmの大きさに土を入れて積み上げる。

麻の袋の中に6割程土を入れて、木で叩いて押し固める。

丁寧に組み上げた土嚢は防壁になり、この時代の銃弾は防げる。

つまりこちらは被害を出さずに敵陣へ射撃が可能になる。

材料の入手が土なので難しくない。

現代にも伝わる意外と文明の利器である。

これで簡易的な防御陣形を組み上げた。


 最も、一番重要なのは騎兵の突撃を防ぐのと

前面に出さなくてはいけない砲兵の防御が目的である。

当時は曲射砲がまだ普及していなかったので、最前列に砲兵を出さなくてはならない。

当然、砲兵の損害が特に大きかった。これを防がなくてはならない。

次に歩兵の防弾として。背の高さまで土嚢を積み上げれば理想だが、

高さ膝上程度でもしゃがめば十分機能する。

塹壕を深く掘るのは大変な作業なので陣地を短時間で簡略化出来る。



「シンプルだがよく考えられている」

「これは傭兵隊長ジェレール中佐」

「卿の様な青二才に伯爵様が作戦を任せる事には納得はいかないが、

 よく色々な知恵を出すな。流石は大学の秀才と言った所か?

 それとも教授の知恵入りか?」

「知恵は沢山の方から頂いております。中佐」

「ふん。気に入らないな。おいお前ら」

「ハイ中佐」



 そうジェレール中佐が言うと、部下が土嚢の前に溝を掘り出し

川の水を流し始めた。堀である。これがあると馬は渡れない。

防御力は向上するだろう。



「・・・なるほど中佐」

「最前列に溝を掘って川の水を流す。シンプルな防堀だ。

 青二才の知恵だけが戦の全てではない」

「流石です」

「・・・フン。

 所で、もし敵が戦を回避して先に進んだらどうするつもりだ?」

「仮に敵が恐れをなして回避したら、つかず離れずの距離で追跡し

 別働隊や援軍と合流して数的優位を確保した段階で一戦します。

 時間は我々に有利になるでしょう。敵も軍隊を二分した状態で

 決戦をしたくないでしょう。各個撃破の対象です」

「勝算はあるのか?」

「まずこちらには敵の最大のターゲットの伯爵様がいます。

 そして我々は半数。しかも背水の陣で逃げられない。

 包囲殲滅の好機。普通の戦術家なら勝負を挑みます」

「・・・伯爵様を囮にしたのか?まあよい。勝てば問題ない負ければ全員死亡だ」



 そういうと納得した様子でジェレール中佐は持ち場に帰っていった。

防衛陣形を組んで敵を迎え撃つ、そういう覚悟で戦いに挑むエリオス君と

伯爵軍であった。こうして初戦が始まるのである。

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