急報 ジュリヴァ王国の侵略
3Sの改善活動を皆でやっていると急報が届く。
息を切らした若い兵士がやってきて大声でエリオス君を呼ぶ。
その深刻な表情に嫌な予感がする一同。
「エリオス少佐。
急報です。伯爵様から直ちに館に参れというご命令が!」
「一体どうした?
落ち着いて説明して欲しい」
「西のジュリヴァ王国が大軍を率いて国境線を突破して侵略してきました」
「なんだって!」
一瞬驚いたエリオス君であったが、少し時間を置いたら頭が落ち着いてきた。
状況として想定していない訳では無かったが
このタイミングは意外だった。
「しかし西国がいきなり攻め込んで来るとはね。
驚きました」
「実はですね。隣国のジュリヴァ王国から王子が亡命してきまして
引き渡し要求がありました」
「確か奴らは宗教問題で内戦をしていた。
伯爵様は要求を突っぱねたんですな」
「ええ、そうしたら一気に軍を動かして」
「いつからだ」
「数日前です」
「・・・計画的犯行だな」
若い兵士の説明に思考を巡らせるエリオス君。
まさに奇襲であった。
国境を突破されれば、国土はがら空きに等しい
当然、伯爵様の選択肢は総動員しかないであろう。
「しかし国軍を動かして国境侵犯したとなれば明確な戦争行為だ。
エリカお嬢様とウイリアム・マーシャルさんは直ちに王都に退いて下さい。
ここは我らアナトハイム伯爵軍が食い止めます」
「・・・マーシャル。直ちに王都のお父様の元へ向かい
援軍を引き連れてきなさい」
「なりません。姫様。
エリオス殿の申す通りに王都に退きましょう」
「先の南の異教徒との大戦で大恩のあるアナトハイム卿を見棄てて逃げろと?
世界に恥を晒すつもりですか?
これは私の命令です。
従わないのであれば、私はここで挙兵します。
たとえ数は少なくとも私はここで軍を率いるつもりです」
「・・・なんと無謀な。
うーむ、致し方ありませんな」
強情なエリカお嬢様に頭を抱えるウイリアム・マーシャルさん。
エリオス君は横目でブルーな表情をしながら心情を理解してしまう。
恐らくウイリアム・マーシャルさんはエリカお嬢様の目付である。
しかしその目付対象から離れてしまいよりによって参戦してしまう。
考えられる最悪の状況だろう。
公爵様がどう判断するか?
しかしウイリアム・マーシャルさんは思った。
ここでアナトハイム領地に軍を出す事はメリットではないかと。
将来内戦になった時に地理を知っている長所は大きい。
それに加え、他の多数貴族も参戦するだろう。
隣国の敵襲は歴史的に常にある事態だった。
総力戦に引きずり込めれば勝算はある。
そして公爵家の財産を守る道義的正当性がある。
何しろエリカお嬢様を守るのは彼の任務であった。
しかしこの判断が彼とエリカお嬢様そして世界の運命も変えてしまうのだった。
「不本意ですが良いでしょう。エリオス殿。
承知しました。エリカお嬢様も一旦王都に戻り公爵様と会話しましょう。
城塞都市ローリッジにも伝書鳩を送らせます。
直ちに軍を率いてきます」
「ありがとうございます。
くれぐれもご無事で」
「ちゃーもここにおるぞ。エリオス殿」
「ちゃー殿」
「侵略者共を撃退するぞ。
御身とちゃーがいれば無双じゃ」
「エリたん」
「エリオスくん」
「チェリーちゃんとミネアちゃんには重大な仕事をお願いしたい。
この手紙をエルンくんに渡してほしい。
皇太子殿下とトーマス殿下への手紙だ」
「分かったわ」
「それからニーナさん」
「うん」
「王都か郊外の研究所にいるアイヴィーリさんに連絡。
総動員だ」
こうしてアナトハイム伯爵家の運命をかけた戦いはここに始まったのだ。