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エリカお嬢様と砂糖工場の立ち上げ⑳ 5S「整理」と赤札作戦

「これは5Sからやり直しかな」

「だから5Sって何よ?エリオス君」

「・・・ひょっとして貴方も知らないのですか?

 エリカお嬢様」



 積み上がった道具やゴミを見てため息をつくエリオス君。

普通そうだろうと、思うエリオス君であったが現実を見せられると

やはりガックリ来てしまうのを、しかもその姿を従業員に見られてしまった。

周りの視点に気が付き、ギクリとするエリオス君であるが

もはや後戻りする必要もない。


 5Sがこの時代に無いのはある意味当たり前であって、

現代の製造業に入る誰もが最初に出てくる壁である。

そして5Sやロス改善を通じてTPMやものづくりの難しさを学ぶのである。

そうした理屈で作られた現場は、とても清潔でレベルの高さを実感できるはず。

しかし世の中、常にそうであるとはとても言えない。



「まず5Sとかいうものを説明しなさいよ」

「そうですね。

 5Sというのは清掃、維持管理を目標としたスローガンでしたが、

 TPMの活動でしっかりとしたルールに体系化されたシステムです」

「・・・TPM?システム?」

「そうです。日本発の」



 5Sというのは、日本語の頭文字の

整理、整頓、清掃、清潔、躾を取ったもので最初はスローガンであった。

しかし仕組み化され、ステップ的に評価できる様になり、認定制度が出来て

誰が見ても、誰でも出来る仕組みへと進化した。

TPMに関してはいつか別の所で説明したい。


 5S、特に清掃という仕組みは短期的に見て利益を生み出しにくい活動であり、

しかも非常に大変な事から現場では敬遠しがちであるが、

ひと目見ただけで現場の実力がわかるという意味でも重要である。

そして5Sが置き場や段替えや仕掛品の滞留、探す無駄や

買いすぎ作りすぎの無駄など色々なロス改善の原点でもある。

最終的に設備総合効率と言う指標で段取りや干渉ロスなどを含んだ

生産性を数字で見える化出来てしまう。



「で、5Sってどうやるのよ?」

「まずは整理です。

 いるものといらないものを分別して、いらないものを全部捨てます。

 お金の事は一切気にしないで下さい」

「いつか使うだろうものは?」

「直近の1〜2ヶ月で使うもの以外は基本捨てます。どんどん捨てましょう。

 残したいものは、この赤札に日付と管理責任者と使用頻度と保管期限を

 明記して貼り付けて下さい」

「ちょっと、赤札って何よ?」



 おもむろに赤札作戦に出るエリオス君。

赤札は最近あまり使われないかもしれないが古典的に有効な手法である。

赤札とはモノに管理責任者や保管期限を書いたものを貼り付ける事で

責任者や納期を明記する紙である。

期限が切れてもまだ使っていなかったり残っていたら捨てる。

捨てるのに場所や重機や時間がかかるものは納期をしっかり決めるのである。


 こうやって一つ一つのモノに対して、必要な人が責任者となって

納期、保管期限を決めて管理するルールの原型を赤札に書きこむのである。

赤札に書いて見える化する事で責任を明確化していく。



「うーん。この壊れた椅子ももったいないから置いて残していたたけど・・・」

「直せるものは修理しますので言って下さい。

 錆びた刃物は研ぎ直しますので、集めて下さい。金属は高価なので再利用します。

 壊れたものは怪我しますので使わないで下さい。

 直せない、使わないものはどんどん捨てましょう」

「・・・そうですか。

 ちょっと損傷が大きいので

 もったいないですけど捨てます」

「ハイ。ありがとうございます」



 悩むドナルートさんに発破をかけるエリオス君。

現代の会社ならどんどん捨てる事に抵抗を無くさせる事も目的である。

そして捨てたら次に買う時にちゃんとした理由が必要になる。

何故使わなくて捨てたモノをまた買うのか?などなど。



「残すものも赤札を付けて下さい。またチェックします。

 保管期限の切れたものは強制的に捨てますのでちゃんと使って下さい」

「承知しました。エリオス殿」



 使えるかもしれないものは不要でも捨てないのがよくある姿。

やや納得しない現場の方々の顔であるが、

会社の物を捨てても怒られないなら、思い切って捨ててしまう従業員。

当然もったいないと思うであろう。

しかし不要な物を今後も買い続ける事は間違いであるので、

しっかりと線引きが出来る根拠まで構築してしまう。



「だいぶスッキリしたね」

「まだまだ第一回目です。捨てたものをしっかり覚えておいて下さい。

 次に購入依頼が来た時にら前に捨てた物が今回何故必要なのか

 しっかり理由を聞き込みして確認して下さい」

「・・・さすがはエリオス殿」

「赤札はきちっと残しておいて今後の発注の頻度の根拠にします。

 ちゃんと使って無くなったものは購入頻度と保管期限を決めてルール化、

 結局使わずに残ったものは要らないものリストに追加しておきます」

「そうやっている物と要らない物を選別して、

 生産に必要なものだけを決められた間隔で買うんですな。エリオス殿」

「そうです。現場はいらないなんて普通は言いませんからね。マーシャルさん。

 しかし使う必要のあるものだけが買う価値のある、いるものなんです。

 出費をきっちりと細かく精査出来るようにすることで

 出ていくお金を管理出来るようにします」

「ははは、実に面白い考え方だ」



 赤札作戦は担当者だけでなく、管理者も全員参加する事で

現場のいるいらないものを識別する。

つまり管理者が自ら自分の目で何故要らないのか、何故これを買ったのか、

実際にどういう使い方をしているのか、何処まで使えるのか、

誰が使うのか、誰が責任者なのかを現地現物で目視確認するためである。理由がある。

そうした活動で、いらないものを買わない活動にする事も出来る。


 実際にいらない物を捨てる事でスペースが出来て、

そこに製品や在庫や部品などを置くことで空間を有効活用できる。

倉庫代が減らせる。通路が通りやすくなり怪我も減る。

探すロスが減る事で生産性も向上する。

修理部品を見える化すれば壊れた時に部品がすぐ見えるので

買い忘れがなくなりすぐ設備を直せるので生産性が落ちにくくなる。

劣化したものを新しく修理するか交換する事で作業性が落ちにくくなる。

そう5Sは生産性の裏側に大きな影響を与えるのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 製造系の中間管理職にはめっちゃ面白い小説だと思います。 製造職の若い人達に是非読んで貰いたい。 なぜこれが必要かこんな面倒な事するのかがすごくわかりやすく色んな事を学ばせていただいています…
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