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エリカお嬢様と砂糖工場の立ち上げ⑨ エリカお嬢様とグリーヴィス公爵家コックへ採用働きかけ

 次は貴族邸である。

高級料理をコックが作っているだろう。

当然、料理やお菓子の需要がある。 当時は砂糖は物凄い高級品である。

消費量がそれほど多くなくても、お金払いが良いだろうと思ったエリオス君。



「確かに大貴族に白砂糖を売り込むのは良い話だわ。

 でも何でウチなのよ。エリオス君?」

「こういうのは最初は身内が一番良いんです。

 多少の融通は聞きますし、文句も言いづらい。

 ゴリ押しで採用してもらえる権力もある。

 それに素晴らしい職人さんもいる」

「まあ確かにウチのグリーヴィス公爵家のコックの腕は良いわよ。

 しかし彼らも職人だから安易な意見には激しく抵抗するわよ」

「そこはエリカお嬢様にも説得してもらいましょう。

 採用してもらうまで、帰ってこないで下さい」

「・・・そこは我が家なんですけど。まあ分かったわ」



 次のターゲットに貴族邸のコックを顧客の対象にしたエリオス君。

そして第1段としては当然身内のグリーヴィス公爵家とアナトハイム伯爵家である。

少しづつでも定期的に買ってもらって、設備や人員の生産能力を埋めてもらって

遊びを無くして固定費を削減せねばならない。


 実際に身内に販売するというのは大きなメリットがある。

一つに採用してもらいやすい。同情票である。これが一番大きい。

もう一つは定期的に買ってくれる太い顧客になりやすい。余程暴利しなければ。

さらに不平不満を外に漏らさない。直接本人に言えるのでブランドイメージを汚さない。

生産能力が足りない時に減らしたり、受注が無い時に買ってもらったり、無理を言いやすい。

当然公爵家から借りるであろう借金も現物支給で返済出来る。銀の調達と手数料が不要になる。

個人と個人の信頼関係でつながる顧客でもある。



「・・・という事で、当公爵家の砂糖はこちらのを使ってくださいまし」

「それは公爵家の料理の味が大きく変わります。

 我々の料理ににケチを付けるという事でしょうか?

 エリカ姫様」

「そういう意図はありませんことよ。料理長」

「防戦一方ですな・・・」



 料理長やコックの説得に苦労するエリカお嬢様。

流石にプライドが高い。

一体どうなる事かと心配するエリオス君。

もちろん、それをエリカお嬢様に焚き付けた本人である。

ここで説得出来なければ、今後も商売は苦労するだろう。

一つ一つが将来に掛かっている。正念場でもある。



「これは高価で暴利を貪る外国産とは違い、

 国民が汗水たらして心を込めて作ったロイスター王国産です。

 極めて美味なこの純粋たる白い結晶の

 どこに、何の、不満があるのでしょうか?」

「公爵家の名誉にかけて、一流を追求する我らコックには妥協は出来ません」

「この白砂糖が、植民地で奴隷労働を駆使した醜い外国産に劣らぬ事は明白です。

 ロイスター王国と誇りある我がグリーヴィス公爵家の民を侮辱しますか?」

「・・・姫様。何もそこまで言わなくても」



 抗議するコックさんとそれにブチ切れるエリカお嬢様。

もはや感情論と精神論である。

お互いにプライドがあるので、ヒートアップしたら引けなくなってしまう。

しかしエリカお嬢様は紛れもなく公爵令嬢。当家の権力者である。

その権力者にオロオロする他のコックさんを見ながら、

どうしたものかと考えるエリオス君。



「国産の良さは単に白いだけでなく、色々な糖度や味を調整できます。

 例えば白砂糖の結晶を粉砕して糖蜜で固めれば、こんな感じで角砂糖が作れます。

 創作の幅を広げて、しかも独自の技術を広げる事も可能です」


 エリオス君が助け船を出す。

そして若手シェフのジェミリールさんちらっと見てアイコンタクトする。

実はラボレベルの試作品で、まだ量産は程遠い。

プレゼン用に作ってみたものの、売れる商品にはすぐにはならない。

しかし、新商品は度が過ぎるほどアピールしなければ

消費者の心に届かないのである。

むしろ少しでも届けば非常に幸運であった。

得体の知れないもの。新規参入にはそういう大きなハンデがある。



「どうでしょうか?

 一度、食べ比べてみませんか?

 我が公爵領の南方より伝わるヨーグルトに混ぜてみましょう」

「・・・それは良いわね。ジェミリール。

 実際にヨーグルトを食べてみれば満足するわね。料理長」

「姫様がそう仰っしゃられるなら良いでしょう」

「では準備します」



 コックのジェミリールさんが提案する。

比較的食べやすいデザートにするのが良いであろう、と。

それなら地元料理は特に味が伝わりやすい。


 ヨーグルトは古来より作られているが中央アジアのトルコや

バルカン半島の南東に起源があると言われている。

7世紀のヨーグルトに匹敵する発酵羊乳がブルガリア人によって生産された。

主に東ヨーロッパ以東に広まっていた。



「これは美味しいですね。

 控えめの甘さがヨーグルトにピッタリです」

「・・・悪くない」

「なんという上品な甘さ」

「砂糖にも得手不得手があるな。学んだぞ」



 比較的好評である。

実は前もってジェミリールさんと協議して試行錯誤していた。

ビートの砂糖は実はヨーグルトと非常に相性が良い。

それを知っていたので、意図的に選定させていた。


 この手の食べ比べ勝負話は、直球勝負してはいけない。

エリオス君は事前に十分に準備して、比較して、食べ比べて、味覚に合わせて

条件の良いものを前もって準備しておくのだ。

勝つか負けるかの勝負など挑んではいけない。

戦う前に勝て。

事前準備こそが勝負であった。



「良いでしょう。姫様。

 まずはこのヨーグルトから採用します。

 後は試行錯誤で色々と使いこなしてみます。

 我々も一流のコックでありますので技術には自信があります」

「宜しく頼みますわ。皆さん。

 いずれこのグリーヴィス公爵家の砂糖がこの国のスタンダードになります。

 世界へ売り出して、国民の収入と生活をを支えます。

 そのためには、皆さんの協力が必要です」

「・・・承知しました」



 話が進んでホッとするエリオス君。

実際の顧客ではこれ以上の、そして比較にならない抵抗にあうだろう。

それが新商品の定めなのだ。

品質、コスト、納期、数量・・・そして長い信頼関係。

そのすべてを比較してお客様を勝ち取っていくには

並大抵の努力では出来ない事を改めて理解したエリオス君であった。 

同じ様な話が、アナトハイム伯爵家でも起こったのであるが別の話である。

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