エリカお嬢様と砂糖工場の立ち上げ⑦ 工場設計
「さあ、量産工場を作るわよ。本格的に」
エリカお嬢様が意気込んで宣言する。
良いモノが作れれば、あとは量産して売るだけ。
普通はそう思うだろう。
特に生活必需品になってしまえば需要は沢山でてくるので
後は値段だけの問題でもある。
しかし、問題はいくつかあって
「で、どんな工場にするんですか?
エリカお嬢様?」
「・・・それはね、全部エリオス君が考えるのよ。
当たり前でしょ?
私に工場なんて設計できる訳無いじゃないの?」
「想像通りでしたが、思いっきり本音をぶち撒けましたね」
「貴方もお給料を貰っている会社の社員かつ幹部だから良いじゃないの」
「まあ、もちろん考えますけどね」
「工場建設費用は公爵家が準備するから大丈夫よ。
返済計画は、皆で考えてね」
「・・・ええ、まあ、そうなんですが」
予想通り無計画なエリカお嬢様にツッコミを入れたエリオス君。
想定範囲内である。自分で工場を設計したことが無い人にはわからないであろう。
当然である。こういうのは知識と経験が重要であろうか。
「良いでしょう。
今日は工場設計について説明します」
「さすがはエリオス君」
「工場を作る前に一番重要なのは売上計画です」
「・・・それはまだ無いわよ、どうしたら良いのよ」
「売りに行ってお客様から受注を取ってきてください」
「・・・そうなるのよね。・・・結局」
当たり前の話だが受注計画が無ければ工場は作れない。
受注の確約があって初めて生産が成り立つのである。
使わない高価な設備、仕事が無い人員が出ると大赤字倒産間違いなしである。
確約が無いものは計画とは呼んではいけない。
見込みで計画を作り、実際には注文が来なくて倒産する企業のよくある実例になってしまう。
「お客様を訪問して受注を取る活動はこれから活動することにしましょう。
まずは作業を最小の単位に分割します」
「どういう事よ?」
「実例で言いますと、
ビートを洗う工程、
ビートを切断する工程、
ビートを煮詰めて糖分を取り出す工程、
煮詰めた溶液をろ過する工程、
「覆土法」で純度を高める工程、
外観検査、
梱包出荷などなど」
「まあその辺りは分かるわ」
「この一連の流れの中の一つ一つの作業を工程と呼びます。
一つでも工程が欠けたら生産できなくなりますのでご注意」
「確かに、問題が発生したら製品が途中で止まっちゃうわね」
ざっくりと作業単位を工程として定義して説明する。
実例の工場が目の前にあるのでエリカお嬢様には理解はしやすいかもしれない。
「で、この工程の最小生産能力を算出します。
一時間、一日、一週間、一ヶ月単位で」
「どうしてよ?」
「一つ一つの工程の作業時間は全体の生産量に対して均一ではないからです。
ある作業は短時間でも、ある作業は時間がかかります。
特に煮詰める作業と「覆土法」の作業が時間のかかる作業に該当します」
「それはそうね」
「もっとも作業時間のかかる工程時間を最小の1ラインに必要な時間と定義します。
各工程の作業単位で割り算して、1ラインに必要な生産バランスを検証します。
工場1ラインに必要な各工程の人員、設備台数、面積を実績から計算します。
もちろん、いきなりその1ラインの生産量が受注で埋まるとは限りませんので、
余った生産能力は過剰生産能力としてコストUPの原因にもなりますのでご注意を」
「いきなり話が難しくなったわね。
ちょっと頭を整理するか少し時間をちょうだい」
まず生産能力を算出して設備投資に必要な情報をまとめ上げる。
ここで注意なのは過剰生産能力である。
設備1台あたりの生産能力にバラツキがあるからである。
当然、余剰のスペース、設備が発生してコスト要因になってしまう。
生産量が増えてこれば、全ての工程の生産能力が均一になるように設計しなくてはならない。
つまり、生産量の低い工場は設備や場所があまってしまいコスト高になりやすい。
「少し理解したわ。続けて」
「1ラインに必要な生産能力をざっくり算出したら、
人員、設備、建屋などの費用と面積を見積もりします。
そこで必要な総費用を算出します。
これが製造原価になります」
「また難しい話になってきたわね」
「そういう設備や建屋などの費用は製品価格に転嫁して
売上とともに少しづつ回収しなければなりません。
例えば原材料費は売る製品に比例して買って加工する必要になりますので変動費と呼びます。
設備や建屋など一括で購入して製造原価に割り振る費用を固定費と呼びます」
「もう少し説明をお願い。エリオス君」
「設備や土地、建屋などまとまったお金が必要な項目があります。
工場を考える際に、設備や建物を何年で回収出来るかが重要です。
過剰生産能力つまり遊んでいる設備と建屋があると
売上に寄与できない設備の投資回収期間が長くなり、コストUPになります。
回収年数があまりに長いと、ずっと赤字が続くので危険です」
「ちょっと、説明が難しくてよくわからないわよ」
エリオス君が一方的に説明する。エリカお嬢様は理解が追いつかない。
エリオス君は頭を抱えながらもどう説明して良いか悩みながら、
結局諦めて話をすすめる。
「要は設備を作りすぎると回収できなくて赤字になる、って事です。
そしてお金を投資するタイミングとお金を回収するタイミングには時差があります。
現金が無くなると倒産します。
また土地や建屋は将来の拡張の余地を決めて投資します。
このバランスを正しく算出するのが工場設計です」
「・・・それが受注計画で決まるのね」
「人員も同じです。計画より生産量が多くなれば増員、
少なくなればリストラする必要があります。
厳しい話ですがこれが現実です」
「細かい所はわからないけど、話はまあ一旦そこまでにしておいて」
「承知しました」
概要をざっくり説明するがエリカお嬢様の理解が追いついていない。
まあ、それは後日改めて実績から覚えてもらうしかない。
論より証拠である。
実体験で経験してもらうしかない。
経営者というのは、儲けるためにお金をできるだけ使わずに
納期に合わせて効率よく生産する必要があある。
そのために必要十分条件を正確に導き出さなければならないのであった。