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エリカお嬢様と砂糖工場の立ち上げ⑥ 「覆土法」の改良と加工点解析

 エリオス君は急遽、農学部の研究室に呼び出される事になった。

当然、呼びかけ人はエリカお嬢様である。

理由は砂糖会社で生産する糖蜜の売れ行きが思わしくなく

経営状況が非常に悪い事があった。


 研究室にはリリアンヌ教授とエリカお嬢様、

そしてグリーヴィス公爵家のウイリアム・マーシャルさんがいた。



「今日集まっていただいたのは他でもありません。

 私が言いたい事は分かるわよね。エリオス君」

「・・・ええ、まあ」

「砂糖会社の売上が宜しくありません。

 原因は砂糖が白くない事が原因だと思うの」

「昔やってみた「覆土法」ではまだ不十分ですか・・・」

「ビートはサトウキビと違って不純物が残ると味が良くないのよ」

「そうですか・・・。一度工場に行ってみてみましょう」



 エリカお嬢様から苦情を受けて困るエリオス君。

「覆土法」は江戸時代にベトナム、中国から伝わった製法であるが

簡単には白砂糖を再現出来なかった。

当時の江戸幕府も手法を真似するだけでは再現出来なかったのだ。


 そこで一同は工場にいって実際の作業と砂糖を見てみる事にした。

工場といっても郊外の小さな家である。

売上が小さいので、まだ生産能力を上げることも出来なかった。



「寂しい工場よね。数人しかいない。

 これではお父様に停止させられるわね」

「・・・砂糖作りは一筋縄ではいかないという訳ね」

「リリアンヌ教授、なにか気になる所はありますか?」

「ええと、エリオス君。

 私にはこの「覆土法」の原理を理解していないのよ。

 どうやってこの汚れた土から純度の高い砂糖を作れるのか、がよ」

「・・・この、汚れた土?ですか」



 リリアンヌ教授が製法に対して疑問を投げる、

しかしエリオス君が注目した所はそこでは無かった。

何故に何故を被せて考えると、最初に考えた人は何故土を選んだのか?どんな土を選んだのか?

という視点がエリオス君には抜けていた。

分かってなかったのだ。



「確かに色々な製法には原理、があります。

 じゃあこの「覆土法」のなぜなぜを考えてみると

 原理とは?理屈とは? 方法とは?治工具とは?

 なるほどなるほど」

「また訳のわからない事を言い出したわね。エリオス君は」

「ふーむ。

 確かにそこらにあるただの土を被せても、

 目の細かいフィルターと同じ効果が出るとは限らない。効果は出ないだろう。

 何故か?本質的に物理的もしくは化学的作用が必要なのだろう。

 確かに盲点ですね。もっと真剣に考えねばなりませんでした」

「何処かの、思考の世界に行っているね」

「この加工点は、あくまで土です。

 色々な土を試してみましょう」

「・・・そういう結論ね」



 エリオス君は糖蜜が外部に触れる接触部分、つまり加工点が土であると考えた。

土によって作用が変わるのではないかと考えたのである。


 製造業にとって、材料や製品に直接接触する、いわゆる加工点は不良に直結している。

加工点が劣化すると、当然製品に転写されたりして外観不良になる。

加工点の管理が非常に重要になってくる。

接触しない部分はサブシステムとも呼ばれ、2次要因として定義される。

こういうふうに品質に与える影響を点数づけなどで層別するのであった。


 こうしてエリオス君は、リリアンヌ教授の助力を得て

ロイスター国内外から様々な土を入手してテストする事になった。

そこは研究所の得意分野でもある。



「南の国から入手した水田の底土が一番良いね。

 特に粘りのあり、かつアクのある土が最も良さそうであります」

「・・・結構入手苦労したわよ。土なんて種類が多いから」

「リリアンヌ教授。ありがとうございます」

「でも何でかしらね?」



 実際に「覆土法」は江戸幕府も簡単には出来なかったのである。

尾張藩の記録によると、田の底にあるアクの強い土が良く

青砥の粉の色が混じっている土で無ければならない、と資料に書いてあった。

ベトナムでも水田の土を使用していたのだ。


 アクの強い田の土をつかう事で、糖蜜が

乾いたティッシュペーパーに吸い寄せられるかの如く吸着現象が起きて、

その土を更に煮詰めてお湯に溶かし糖分を分離して結晶化する事を繰り返して

不純物の無い白砂糖を作り出したのである。


 史実のヨーロッパでは水田は気温の高いイタリア、スペインなどの南欧で

インディカ米などの米作りが行われていた。

そういう所から砂糖づくりも、中国から伝わっていったのかもしれない。


 苦労に苦労を重ねて、試験を繰り返しようやく白い砂糖が作れる様になった。

試作品を見て、とても感動する一同であった。



「これでやっと白い砂糖が作れる様になったわね。

 長かったわ」

「まだまだ課題は沢山あります。

 ビートの生産と入手、土の入手、ビートから取れる砂糖の歩留まりの低さなど。

 ただ、国産化出来ればあとは人件費だけの加工費です。

 原材料を国内で製造し、国内の労働力を使い商品化する。

 そうすれば安価に大量に白砂糖が作れる様になるでしょう」

「・・・私達が一生懸命やっても出来なかったのに、技術者の力って凄いわね」

「リリアンヌ教授のお力添えのおかげです。

 僕だけでは出来ないですね。正直な所」

「良かったわね。エリオス君、エリカお嬢様」



 製法に改良と改良を加え、ようやく白砂糖を実現する事が出来た。

江戸時代の記録によると、上から加圧する事で蜜が下方向に落ちる事の促進、

砂糖との接触面で土側に白い砂糖が出来た、

ショ糖の周りに存在した乾いた塊である土の壁による毛細管現象で蜜を吸い上げた

などと書かれていたらしい。

中国から江戸時代に伝わった製法である。

シンプルな作業であったので、ありあわせの道具を用い日本各地で行われた。

当時はこうして原材料であるサトウキビを輸入して各地で加工することで

国産砂糖を作り出していたのだ。

当然、原材料であるサトウキビの入手は熾烈な競争となった。


 ビートから砂糖を精製する方法は、近代ヨーロッパにおいて発明されたのだが、

それによって農業の輪作で高い収益を確保出来るようになった。

農民が豊かになっていくのであるが、ロイスター王国ではこれからの話である。



「さあ、量産工場を作るわよ。本格的に」

以前の208話の続きです。

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